取り調べ
「ちょ、やめっ」
「うわっ」
男に突き飛ばされ、私と兄上は地面に倒れこんだ。
背後から鉄格子の音が響く。
「どうしてなんだ?私たち、何もしていないんだぞ?」
「言っただろう。異国人の言葉は信用ならないと。」
「し、しかし…」
「グレース、やめなさい。」
「兄上?」
「この後の取り調べで、身の潔白を証明しよう。」
「…そうですね。」
私はそう言って、男を見る。
どこか、悲しそうな顔をしていた。
「?」
「な、なっ」
私の視線に気づいたのか、男は慌てて表情を変える。
「と、ともかく、2時間後に取り調べを開始する。脱獄など馬鹿なことを考えるんじゃないぞ。」
そういって、さっさと行ってしまった。
「…ねえ兄上。」
「ん?」
「あの男の人、悪い人じゃないかもしれないです。」
「どうして?」
「さっき私たちが話している間、ずっと悲しそうな顔をしていたんです。本当は、こういうことはしたくないんじゃないですか?」
「そうなのか。僕は全く気が付かなかったが…。そうだ。この後の取り調べで、少し探りを入れてみる、というのはどうかな?」
「名案ですね、兄上!」
私たちはいたずらを考える子供のように、顔を合わせて笑った。
「おい。」
男の声がして、私は目を覚ました。どうやら疲れて眠ってしまっていたらしい。
「取り調べの時間だ。グズグズせずに、さっさと来るんだ。」
そう言って、男は牢の扉を開ける。
私たちは逃げず、素直に取調室へ向かった。
「では、今から取り調べを開始する。」
「はい。」
「まずは名を述べよ。」
「あなたは?」
「なんだと?」
「だから、あなたの名前を教えてくださいと言ってるんです。それまでは私たちも名乗りません。」
「…チッ。アルフィーだ。アルフィー・ガルシア。」
渋々だが名乗ってくれた。私は感謝の代わりにニコッと微笑むと、
「私はグレース・ミジャルカ。こちらは、兄のノアル・ミジャルカです。」
自分たちも名乗った。
アルフィーは私たちをじっと見つめると、言った。
「では、お前たちに聞く。この国になぜやって来たのだ。」
そこで、私たちは全てを説明した。自分たちの国が魔物に襲われ危険な状況だということ。魔物の暴走を止めるために異世界からやってきたこと。嘘一つつかず、丁寧に。
アルフィーは相槌を打ちながら私たちの話を聞いていたが、やがて呆れたようにため息を溢した。
「よくできた夢物語だな。」
「夢物語って…。」
「違う!今言ったことは、全て現実だ。」
「はっ。それで俺が信じるとでも思ったか。」
アルフィーはやれやれと言わんばかりに肩をすくめる。
私はここぞとばかりに、
「あなただって、こんな事したくないんでしょう?」
「はあ?何を言っているんだ。俺はこの仕事に誇りを持っている。」
あっさりかわされてしまった。
すると、
「もう有罪は決定だな。」
「処刑の準備だ。」
外で様子を見ていた兵士が、笑いながら取調室を去っていった。
「そんな…」
「くそっ、ここまでか…」
私と兄上は、もう諦めムードだ。
兵士が上の人間…、つまりここの兵長に伝えたら、もうおしまいだ。
私の第二の人生も、こんなに早く終わってしまうのか…。
考えると、自然に涙が出てくる。
すると急に、
「今の話…、本当なんだな?」
「「え」」
私たちは同時に声のした方を向く。
アルフィーが、真面目な表情で私たちを見つめていた。