転移?
「う、うう…」
私はフラフラと立ち上がり、周りを見回した。
ここは、森の中か。
そうだ。私、あの怪しいゲートに飛び込んで…。
しかし、自分たちの世界とさして雰囲気は変わらない。
…!そういえば。
「兄上!」
私は叫んで、辺りを見回す。
しかし、兄上の姿はいない。
すると、
「しっ、静かにしろ。」
「!!」
いきなり誰かに口を押さえられる。
驚いて後ろを向くと、
「兄上!」
「心配させて悪かった。」
兄上は体を密着させ、完全防衛の体勢になる。
「さっきの大声で、魔物たちが気づいてしまったかもしれない。」
「ご、ごめんなさい…」
「大丈夫だ。…!」
その刹那、兄上は私を強く押し倒した。
するとその上を、魔物の群れが通り過ぎて行った。
「やはり気づかれたか。」
その体勢のまま、兄上は呟く。
「た、戦いましょう!」
私は剣に手をかけて、立ち上がった。
「今回はやむを得ない、か。」
兄上も渋々といった感じで立ち上がる。
「あれ、兄上武器は?」
「これだよ。」
そう言って兄上は、自分の右腕を突き出した。
そこには、見覚えのある腕輪がはまっている。
「とうとうこれを使う時が来たか。」
そして兄上は右手で何かを引っ張るような仕草をして、左腕を前に突き出した。
そして右手を放す(ような仕草をする)と、空を飛んでいた魔物一匹が、うめき声をあげて落下していった。
「弓ですね。」
「あたり。グレースは、地上の魔物を頼んだ。」
「はい。」
私は剣を引き抜くと、勢いよく飛びかかっていった。
「はあっ、いったい、何匹いるの?」
私は地面にしゃがみ込み、荒く息をしていた。
あれから数百匹は倒したのだが、魔物は減らない。
なんなら、増えている気がする。
これらの魔物が王国に流れ込んだら…。想像しただけでぞっとする。
兄上も体力の限界がきているのだろう、さっきからずっと盾で防御を続けている。
「一体全体、どうなっているんでしょう…。」
「恐らく、これらの魔物を生み出す、いわゆる心臓部があるんだろう。」
「心臓部、ですか。」
そうだとすると、ここでいつまでも戦闘を続けている暇はない。
「兄上。一旦退きましょう。それで作戦を立てるほうが、得策かと。」
「そうだな。」
私は盾を構えながら、兄上とともに走り出す。
大量の魔物が、後に続く。
と、兄上がくるっと後ろを向いて、何かを投げつけた。
「おりゃあっ!!」
するとそれがもくもくと煙を吹いて、追っていた魔物の動きが止まった。
「さあ、急いで!」
兄上は私の手を引いて、また走り出した。
私たちはいつの間にか森を抜けており、魔物ももう追いかけてきていなかった。
「助かった…のでしょうか?」
「今のところは、そうかな?」
すると、
「動くな。」
私と兄上の間に、槍が現れた。
先端が鋭く尖っている。これで一突きされたら、ひとたまりもないだろう。
「あ、あなたは…」
「俺のことはいい。お前らは何者だ。身なりからして、この国の者ではないと見たが。…さては、何か悪事を働こうとしていたな。」
「そんな。誤解です!」
「口を慎め。異国人の言う事を聞くとでも思ったか。ほら、ついてくるんだ。」
そこで私は、初めてその男の顔を見た。
上品な顔立ちに、上品な身なり。この世界の騎士だろうか。
「何をじろじろと見つめている。ほら、さっさと歩け。」
男はぷいとそっぽを向くと、私たちに槍を突きつけた。