発明品
「兄上!兄上ぇ!」
兄の住む山小屋のドアを叩きながら、私は叫んだ。
するとすぐ、
「はいはーい」
ひょこっと、兄上が顔を覗かせた。
「兄上!」
私はぎゅっと兄上に抱きついた。兄上は優しく、私を撫でる。
「すぐ来てくれるとはねえ。」
「そりゃあそうですよ。」
私は嬉しさのあまり、にっこりと微笑んだ。
「まあ、入って。」
兄上はドアを大きく開けた。
その途端、美味しそうな香りが鼻をくすぐる。
「シチュー?」
「お、当たり。長い旅で疲れてるだろう?」
「兄上、大好きです。」
私はハイテンションで、家の中に入った。
「あー、美味しかったです!」
お腹をさすりながら、私は声を上げた。
「それは良かった、それは良かった」と、兄上は嬉しそうだ。
「あ、そうだ。グレースに見せたい物があるんだ。」
「私に、ですか?」
「うん、ちょっと来て!」
兄上は部屋の奥を指差しながら、歩いていった。
兄上が見せたいものといえば、100パーセント発明品だ。
兄上…一体今度は何を作り上げたんだ?
「ここだよ。」
兄上に連れられて、私がやってきたのは地下の研究室。
そこには、白い腕の模型が置いてあり、その模型に腕輪がはまっていた。
金属製で、見るからに重そうだ。
「兄上、これは?」
「魔法の腕輪、だよ」
自慢げに兄上は言う。
「この腕輪は、あちこちに散らばっているわずかな魔力をかき集めて作った僕の自信作なんだよ!」
「そうなのですか。」
ツッコミどころ満載だが、ここは異世界。あえてスルーしておこう。
「これには、どういう効能が?」
「聞きたいだろ?」
「じらさずに、教えてくださいよ。」
「仕方ないなあ。」
兄上は模型から腕輪を外すと、自分の腕に装着した。
刹那。腕がまばゆく光った。
…しかし、それだけ。
「・・・兄上、これは一体?」
「まあ、このままじゃわかんないだろうな。ちょっと来てみなよ。」
兄上は奥のドアを開けた。
物置小屋、かと思ったが、そこには色々な動物のはく製が綺麗に並べてあった。
たしか前世で、こういう美術展に連れていってもらった記憶がある。
「凄いですね。しかし、これとどういう関係が?」
「まあ見てて。」
兄上はパチッと目配せをした。
その瞬間、
ヒュンッ。
その中のオオカミのはく製が、真っ二つになった。
「なっ」
「まあ、見ての通りだよ。」
狼狽える私を背に、兄上はうきうきと言う。
「み、見ての通りとは、これは…」
「まあ要するに、想像した物に腕輪をつけた方の手を変身させることができるんだよ。」
「えっと、見た目は変わらないのですか?」
「ああ。ジェスチャーするだけでOK。簡単かつ、最強の腕輪だよ!しかもここは…」
あ、マズイ。兄上完ペキに発明家モードに入っている。
こうなると長いぞ…。
「あ、兄上落ち着いてください。十分に理解できましたから。」
「?そ、そうか。」
兄上は口を閉じる。危なかった。
「それにしても兄上。私凄く眠いです。」
「ああ、そうか。疲れてるんだろう。僕のベッドがあるから、そこで寝なさい。」
「分かった。」
私は逃げるように、研究室を後にした。
それから一週間。
私は兄上と楽しく過ごした。
例の「あちこちに散らばっている魔力」を一緒に取りに行ったり、機械について教えてもらったり。
・・・しかし。
「う、噓…。」
その楽しい生活は、突然として終わりを告げた。
「どうしたの?グレース」
「こ、これ…」
私は震える手で兄上に小さな紙を手渡した。
それを見た兄上も、顔色が変わる。
「グレース」
「はい。そういう事、です。」
私は兄上を見上げ、重々しく言った。
「ベルーニャに、何者かが攻めてきた…」