9 【蒼莉】 前世と今世の幼馴染はなんか息ぴったりすぎない?
新作を書き始めたので、ちょっと紹介したいです。
『百合ボクっ娘ㄋ世界線』 https://ncode.syosetu.com/n2898gx/
これもTS百合ですが、ミステリー系です。この作品と比べたら作風は大分違います。内容も比較的に短くてすでに最後まで書いておいたので毎日一話載せて先に終わらせる予定です。
新作もよろしくお願いします。
さっきせっかく雛美坂さんと二人きりで話し合えるところだと思っていたのに、楓幸くんが突然割り込んできちゃって、結局一緒に3人で家に帰ることになった。
でも別にあたしは楓幸くんのことがいやってわけではない。けさのことも楓幸くんがいて助かったから。どうも感謝しなければならないしね。
それに、ただ途中まで一緒に同行するだけで、家まで着いたらようやく雛美坂さんと二人きりになれるだろう。
楓幸くんはあたしの家には入らないはずよ。だって楓幸くんはあたしのパパとは、ちょっとね……。
「そういえば、なんであのとき楓幸くんはあそこにいたの?」
「ボクは先生に頼まれて教務室からシートを……」
「それは偶然ね。あたしもあのときシートを持ちに行く途中だった。何だ、楓幸くんも居眠りして先生に罰を与えられたのかよ?」
そうかそうか。あたしと同じだよね。わかるよ。でも新入生は初日からこうなるのはちょっとね。
「は? 別に罰とかじゃないよ。自分でやると言った」
「へぇ? せっかく同類だと思ってたのに!」
「いや、『同類』だなんて。なるほど、つまり蒼莉姉は居眠りしたんだね」
「うっ……。そ、それは……」
これってあたしが自白したということになるね。不覚だ。いわゆる自爆行為だ。
「うふふ……」
雛美坂さんに笑われた。
「うん、山葵野さんはホームルームが始まったらすぐ眠って、先生に怒られて……」
「やっぱり……。そんな場面はボクもなんか想像できますよ」
「バ、バラさないで……!」
けさのことはあっさりと楓幸くんにバラされた。
「本当のことだから」
「それはそうだけど……、まさかキミが巻き込まれてあたしに恨みでも?」
もちろんあれはあたしが悪かったよ。わかってるよ。
「いや、恨みだなんて。山葵野さんはわざとじゃないとはわかってるよ。それにそのおかげでオレたちは一緒にあの階段に行ったよね」
「あ、そうだね。結果オーライ、えへへ」
そうだよね。あのときあたしが先生に怒られなければ階段から落ちて前世の記憶が蘇ることはないだろうね。
「ふん? 『結果オーライ』って、つまり2人が階段に落ちたのはいいことだと?」
「あ、それは……」
確かに普通に考えると階段から落ちることなんていいわけがない。楓幸くんはあたしたちの前世の事情なんて全然知らないしね。
「いいこともあるよ。そのおかげでオレがキミと出会えたのだから」
雛美坂さんのそんなごまかし方、なんかいけるよね。ナイスフォロー。
「雛美坂先輩、おおげさです。そのせいで先輩はケガをしたのではないですか」
楓幸くんが恥ずかしくて赤面した。美少女からそんな言葉はすごく効果的だよね。でも中身は男だよ? だけど楓幸くんはそんなこと知らないはずだよね。うふふ、外見に騙されているぞ。可哀想に。
「ケガは大したことない。とにかくオレはキミがいてくれて助かったよ!」
何これ? いま優しい笑顔で答えた雛美坂さんは、なんか可愛く見えて女子力高い。もしかしてあたしよりも女らしい? 男っぽい口調で喋っているのに? 中身は男なのに? なんか変な感じ。
しかも楓幸くん、キミもいますごい笑顔だよ。どうやら美少女に褒められてこんなに嬉しいのよね。わかりやすい。
「でも雛美坂先輩のおかげで蒼莉姉は無事だったんですね。それに蒼莉姉の代わりにケガをしてしまった。蒼莉姉が迷惑をかけてしまってごめんなさい」
「なんで楓幸くんはあたしの代わりに謝るのよ!? キミはあたしの何なの?」
なんか自分の立場を勘違いしていないか? 楓幸くん。
「ボクは蒼莉姉の、えーと……保護者みたいな?」
「いや、なんでそうなる? あたしのほうが年上だけど」
「でも、蒼莉姉が何かをやらかしたら、毎回ボクは……」
「わ、わかったから、雛美坂さんの前で余計なこと言わないで」
そういえばあたしはよく楓幸くんに迷惑をかけていたよね。自覚あるよ。悪かったと思うよ。感謝してるよ。
「うふふ、2人は本当に仲がいいね」
雛美坂はまだ笑っている。
「あたしと楓幸くんは幼馴染だよ。子供の頃から知り合って、よく一緒に遊んでいた」
一つ年下の幼馴染の男の子、それって前世のワタクシとキミの関係と似ているね。あ、でも勘違いしないで。恋人にまではならないからな! キミの代わりなんてならないからね! ヨスカくん。
誤解されないように、後で2人きりになったときにちゃんと伝えておかないとね。
「なるほど、楓幸くんも大変そうだよね」
雛美坂さんは同情したような顔で言った。って、それどういう意味なのよ!?
「大丈夫です。ボクは慣れています」
「キミの気持ちオレはわかるかも」
何? 何がわかる? なんか二人とも失礼なこと考えていない?
なぜかこの2人は意外と息ぴったりだ。確かに楓幸くんは前世の雛美坂さんと似ているよね。そのおかげかな、すぐ仲よくなれそう。
この2人は仲よくなったらあたしとしては嬉しいことであるはずだけど、同時になんか不安な感じもする。
「ボクはあっちのほう」
「じゃ、これで別れだね。オレは山葵野さんの家に行くから」
「あ、待ってください。後で学校でも会うかもしれないので、ライン交換しませんか」
「うん、いいよ」
な、何!? 知り合ったばかりなのに。あたしだってまだ雛美坂さんとライン交換していないのに。抜け駆けか?
「おい、あたしの友達をナンパするか!」
「は? そんなわけじゃないよ」
「雛美坂さんをキミに渡さないからね!」
あたしのほうが先だからね。
「いや、だから違うって」
「あの、オレは別に構わないけどね。そういえば山葵野さんの番号もまだだね」
「そうね。じゃ、あたしも」
「うん」
結局あたしも一緒にライン交換することになった。
ところで楓幸くんは、雛美坂さんに惚れたりはしないよね? やっぱり気になる。たとえ楓幸くんでも、あたしから運命の人を奪うことは絶対許されないからね!
まあ、そんなはずないと思うけど。でもそう考えると、あたしなんかちょっと不安になってしまった。