25【紫陽樺】今日一緒に香港料理を食べに行こう
部活が終わって、わたしは学校から出た。そのとき……。
「芽結ちゃん」
学校の前にちょうど芽結ちゃんと会った。彼女もいま出ていたところだ。
「紫陽樺さん……」
「部活終わったの?」
「うん」
芽結ちゃんはわたしを見てなんか難しそうな顔をした。わたしに会うのはこんなにいやなの?
「そういえば、芽結ちゃんはどの部活?」
昼休みのとき、部活のことを話していたけど、芽結ちゃんの部活については訊き忘れたね。
「ウチは卓球部よ」
「そうなんだ。芽結ちゃんはスポーツ好きなの?」
「まあ」
なんか意外だな。でも確かに芽結ちゃんがわたしと同じく体が小さいとはいえ、どこかで強いって感じもする。
「そうか。芽結ちゃん、運動神経がいいよね?」
「別に。蒼莉のほうがウチよりも」
それは仕方ないよ。アオリは背が高いし、スポーツはやっていなくてもいつも仕事で体を鍛えているそうだ。前世のようなか弱いお嬢様とは全然違う。
「でもきっとわたしより……」
「当たり前だ。あんたが弱すぎるのよ」
「うっ……」
なんか容赦ないね。やっぱりわたしに対する彼女の態度はあまりよくない。アオリや汐寧がいないと、彼女はあまりわたしと話す気はなさそう。
そもそも芽結ちゃんはわたしと仲よくなりたいというわけじゃなさそう。ただアオリと汐寧に巻き込まれただけだ。
本来ならわたしも芽結ちゃんのような相手が苦手で、きっかけがなければ関わるつもりはないはずだ。
だけど彼女はアオリの親友だ。いまは汐寧の友達でもある。だからできればわたしも仲よくなりたい。ちゃんとがんばらないとね。
「ところで、いま家に帰る?」
「いや、ウチはいま夕ご飯を食べに行くつもりだけど」
「本当? わたしも帰る前に外食する予定よ。芽結ちゃんも一緒に行かない?」
これは芽結ちゃんと2人きりで話せるいい機会かも。彼女はわたしのことをどう思っているのか気になっているし。
「ウチなんかと一緒でいいのか?」
「いいに決まってる。わたしたち友達でしょう」
「そう……ね」
芽結ちゃんはなんかあまり気乗りでないけど、多分いまの場面でわたしの誘いを断る理由がないから仕方ないっていうだけだね。
「わたしは芽結ちゃんとも仲よくなりたいよ」
「あんた、本当にそう思ってるの?」
芽結ちゃんがわたしの言葉を信じないような顔をしている。
「うん、もちろんよ」
「あんたみたいなお嬢様で優等生がウチと?」
やっぱり、彼女もわたしのような人が苦手だよね。お互い本来なら友達になるはずがないかもね。
「ダメなのか?」
「……」
「わたしがおごってもいいよ」
「あんた、お嬢様だからってお金で買収するなんて……」
「いや、別にそのつもりじゃないけど」
やっぱりこういう言い方はダメだよね。むしろ地雷を踏んでしまう。
「どうせあんたがウチと仲よくなりたいのは蒼莉と汐寧さんのためでしょう」
「それは……」
確かにそうかもしれない。図星だからぐうの音も出ない。
「やっぱり、否定はしないか」
「そんな理由じゃ、ダメなの?」
きっかけはどうであれ、いまわたしが本気で芽結ちゃんと仲よくなりたいってのは事実だよ。
「わかったよ。一緒に行ってもいい」
「じゃ、芽結ちゃんは何を食べたい?」
「どうでもいいよ。あんたが案内して」
「わかったわ。なら香港料理とかいい?」
きのう楓幸くんと一緒に行ってきた台湾料理の店の近くに、実は美味しい香港料理の店がある。四川料理もあるけど、わたしは香港料理のほうがいいな。
「それも悪くないかもね」
「じゃ、行こう。いい店案内するよ」
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「わたしは香港料理が好きだよ。焼売とか、流沙包とか……。芽結ちゃんはどんな料理が好き?」
レストランに行く道すがら、わたしはちょっと芽結ちゃんと話しかけてみた。
案の定芽結ちゃんはさきにわたしに話しかける気配はないみたいだ。わたしから話題を出さない限り、ずっと黙り続けるだろう。そんなのなんか気まずいよ。
「あんたがウチに訊きたいのはそんなことじゃないはずだよね」
「それは……」
一緒に晩ご飯を食べに行くのだから、こんな話題は普通じゃないか。でもやっぱり芽結ちゃんは全然乗り気でない。
「話したいのはどうせアオリのことだよね」
「まあ……」
もちろん、そのつもり。でもまだ歩いている途中だから、いきなり本題に入るのはちょっとね。
「芽結ちゃんは、アオリが作った料理ならなんでも好きなようね?」
「もちろん、蒼莉の料理は一番よ」
やっぱり彼女はアオリのことならすぐ褒めるよね。
「なんか、なんか楓幸くんと同じようなこと言ってるね」
「は? あんた、いつからあいつとそんな話をしたの?」
そこも気になるの? てか、『あいつ』呼ばわりか。
「実はきのうだけど。まあ、彼に助けてもらったからそれはきっかけで仲よくなってきた」
「あんた、やっぱり楓幸くんと話すときも蒼莉の話題ばかりか」
「え? それは何かダメなの?」
「いや、なんかあんたはいつも蒼莉のことばっかり考えてるね」
「そうだけど、おかしいのか? 芽結ちゃんもそうでしょう」
「もちろんよ」
やっぱり、芽結ちゃんといい、楓幸くんといい、アオリのことになるとみんな積極的だ。
「芽結ちゃんは楓幸くんとは仲がいい?」
「あいつと……」
芽結ちゃんはなんか難しそうな顔をして躊躇している。まさかこの2人本当は仲悪い?
「別に。あいつが蒼莉の幼馴染だから面識がある。それだけだ」
やっと返事した。しぶしぶって感じだけど。
「そうか。芽結ちゃんも楓幸くんも、アオリと仲がいいのだから、てっきり2人も仲がいいかと」
もしかして、芽結ちゃんは楓幸くんのことが苦手? でも芽結ちゃんはなんかアオリ以外の人に興味ないっていう態度だし。
「別に普通だよ」
「あの子はいつもアオリのことを心配して面倒を見てくれたみたいね。なんかいい人よ」
「そう?」
「そう思わないの?」
「ウチのほうが蒼莉のことを思っているはずだけど」
「……」
どうやら楓幸くんの話題はこの辺にしておいたほうがいいかも。
「やっと着いたよ。この店で問題ないかしら?」
「いいよ。ウチはどうでもいい」
本当に無関心だな。せっかく美味しい店なのに、いまこんなまずい雰囲気じゃ……。
とりあえずわたしたちは目的の店に着いたので、まずは中に入って注文する。話の続きはその後でいい。
香港料理は美味しいですよ。台湾料理も好き。
ちなみに、今日10月10日は中華民国の国慶日です。




