21【蒼莉】 こんなキミもあんなキミも、あたしは好きよ
きょうのシヨカくんの様子はきのうとは大きく変わった。まるで別人みたい。
いや、正確に言うと実はこの様子はきのうの朝の雛美坂さんに戻ったということみたいね。これは雛美坂紫陽樺本来のキャラだよね。あたしも去年から彼女のことを聞いていた。正に噂通り、可憐で凛々しいお嬢様だった。
やっぱり前世とは違いすぎるね。同じ人物とは思えないくらい。でもどっちのシヨカくんもわたしは好きよ。
「ね、シヨカくん……」
授業中、わたしは隣の席に座っているシヨカくんに声をかけた。
「呼び方は間違っているわよ」
あ、つい。学校ではその呼び方禁止だよね。
「シヨカさん……」
なんかきついね。でもそんなシヨカくんもかっこよくて、あたしは好きよ。
「あのね、この問題は……」
「あ、これね。こうやって……」
頭いいよね。勉強もちゃんとできて、あたしとは大違い。こんなシヨカくんはキラキラ輝いて、あたしは好きよ。
「ありがとう。助かったよ」
「でも、頼りっぱなしではダメよ。わたしはいつもあなたに付いているわけではないから」
「あたし、頭悪いから」
あたしなりにがんばっていたけど、やっぱり勉強は苦手だ。
「そう思っているのなら、さらにがんばらないといけないわね」
「えー……、でもあたしは仕事忙しいからあまり勉強する時間がないよ」
「これは言い訳にはならないよ。学生の本分は勉強よ。あなたは、自分が仕事できるから勉強はどうでもいいとか思っているでしょう?」
「まあ」
その通りかも。あたしは本気で勉強苦手の問題を解決しようとしていないのは、そもそもあまり必要ないと思っているから。
「でもね、そう考えてはダメよ。そんな考え方はやめて」
「な、なんで?」
「学校での勉強内容はだいたい現代社会で生きていけるために持つべき最低限の知識だから。あなたがダメな大人になりたいの?」
「いや、なりたくないよ」
確かに、あっちの世界とは違って、日本では重要な知識のほとんどは学校で学ぶものだ。
「なら、勉強のことちゃんとがんばって」
「は、はい」
「わたしはあなたにとってふさわしい方法を案内してあげるわ」
「あ、ありがとうね」
すごい。正に優等生だ。この人はなんか眩しすぎて直視しづらい。それでもこんなシヨカくんも、あたしは好きよ。
「ほら、授業に集中しなさい。頭がよくないのなら授業中はなおさら大事よ。わからないことがあればすぐ先生に訊くことができるし」
「は、はい」
友達思いで面倒見がいい。こんなシヨカくんはなんか天使みたいで、あたしは好きよ。
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「次の授業は体育ね。シヨカさん、あたしたち更衣室へ……」
体育だからまずは体操着に着替えないとね。
「あ、うん……」
「どうしたの? シヨカさん」
シヨカくんの様子はちょっとおかしい。なんかきょろきょろして落ち着かない。
「わたし、いまトイレに行くわ」
そう言って、シヨカくんは体操着を持ち出して教室から出ようとする。
「おい、シヨカさん、トイレに行くのになんで体操着を持っていくの?」
「その……、わたしはあっちで着替えるから」
「なんでわざわざトイレに? 更衣室に行かないの?」
「……」
「あの……シヨカさん、顔真っ赤だけど……」
まさか……。
「更衣室、恥ずかしいの?」
そういうことか。中身は男だからね。
「そ、それは……」
やっぱり……! さっきまであんなにクールな優等生だったのに、いまの態度とはギャップがありすぎるよ。まあ、こんな恥ずかしがり屋さんのシヨカくんもなんか可愛くて、あたしは好きだけどね。
そして、無性にもっとからかいたくなってしまう。
「大丈夫よ。あたしが一緒にいるからね」
「わたしに付いていてどうするつもり?」
「あたしは見張ってあげるよ」
さすがに、シヨカくんが他の女の下着姿を見るのはあたしとしてはちょっとね。だから近くで監視しないとね。
「要らないわ。むしろそれは困る」
「なんで? シヨカさんに近づく女の子たちからあたしが守ってあげられるよ」
「いや、遠慮しておくわ!」
「逃さないよ……」
一人でトイレに着替えに行こうとしているシヨカくんを、わたしは腕を掴んで引っ張って止めた。
「離せ……」
シヨカくんは抵抗しようとしたが、どうやら力の差は圧倒的みたいね。こんな小柄のシヨカくんは見た目通りすごく弱いみたい。
「2人何してんの?」
「芽結ちゃん……」
芽結ちゃんと汐寧さんはこっちのあたしの席のほうに歩いて来ている。
「何でもないよ。あたしは更衣室に行くところ」
「でも、紫陽樺どうしたの? なんか顔赤いよ」
やっぱり、シヨカくんのこんな様子なら友達に疑われてしまうよね。
「な、何でもないわ」
「じゃ、行こうか。蒼莉、芽結ちゃんも」
「……うん」
結局シヨカくんも一緒に更衣室に行くことになった。二人ともナイスタイミング。
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女子更衣室で。
「あの……、紫陽樺、なんでまだ脱がないの?」
「それに、なんで後ろばっかり向いてるの? 紫陽樺さん」
と、更衣室の角にうじうじしているシヨカくんを見て、汐寧さんと芽結ちゃんは心配そうに訊いた。やっぱりこの2人に怪しまれるよね。ムリされちゃったかな?
「シヨカさん、あたしは庇ってあげるよ」
「あ……アオリ、助かったわ」
しょうがないね。このままではバレてしまいそうだから。いまあたしのほうが大きいからシヨカくんの体くらい簡単に庇えるよ。
「って、なんで脱いでいるの!?」
あ、そういえばあたしは着替え中で下着姿だった。
「あたしも着替え中だから」
あら、シヨカくん、まさかあたしの下着姿を見て興奮した? やっぱり男の子ね。
「別にあたしはキミに見られても気にしないよ」
「わたしは気になる……」
「そんな、ひどい! あたしの体がいやなの?」
「ち、違う。そういう意味じゃないけど」
シヨカくんの顔はなんかすごく困っている。
「なら見てもいいのに。むしろいっぱいあたしの体を見てね。他の女の子見ないでほしい」
「……っ! もう限界……」
「ちょっ……どこにいく!?」
「トイレ!」
シヨカくんは更衣室から逃げ出した。
やっちまったね、あたし。だってシヨカくんの反応が面白すぎるのだから、ついからかってしまった。
「紫陽樺さん、具合悪いのかな?」
「なんか変よね。やっぱりいまでもいつもの紫陽樺とは違う気が……」
芽結ちゃんと汐寧さんに怪しまれちゃいそう。いまあたしが何かうまいこと言ってごまかしておかないと……。
「うん、そうね。あんなに急いだのだからもしかして下痢とかかもね」
「そうか」
シヨカくんはこの様子じゃ、いつかバレても仕方ないよ。やっぱりいまのうちにちゃんと女の子に慣れるように特訓しないといけないね。
実はさっきあたしもやりすぎてしまってもう反省したよ。シヨカくん怒っているのかな? 後でちゃんと謝らないとね。いまはとにかくメッセージを送って謝ろう。




