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隣のお嬢様が前世での彼氏だった  作者: 雛宇いはみ
#2 ㅠとりあえず話し合いたいㅠ
12/31

12【紫陽樺】家の平和のために彼女のお父さんには秘密にしておこう

 「もうこんな時間か」


 話が一件落着となったら、アオリは時計を見て焦るようになった。


 「アオリ、何か用事があるの?」

 「うん、ごめんね。もう時間だから、きょうはこれで。よし……」


 そう言ってアオリはこの部屋の扉を開けたら……。


 「あっ……!」

 「青樹(あおき)……? なんでここに?」


 弟の青樹くんは扉の前に立っている。もしかしたら盗み聞きしていた? さっきのことは全部聞かれちゃったのか!?


 「青樹、どうして盗み聞きなんかするの? あたしたちの会話は全部聞こえたの?」

 「お姉ちゃん、ごめん」

 「盗み聞きするな、と言っておいたのに……!」

 「本当にごめん。お姉ちゃん、怒ってる?」


 青樹くんはなんかすごく怖がっている。


 「いつから聞いていたの?」


 青樹くんの質問に答えずに、アオリは質問で返した。


 「えーと、『愛していますわ。結婚しましょう』ってとこ」

 「ほぼ最初からじゃないか!」


 うわ、あの求婚みたいなセリフも聞こえられたのか。なんか恥ずかしい。


 「アオリ、別にあんなに怒らなくても……」


 なんかアオリが怒っているようなので、とりあえずオレはすぐ止めようとした。


 「……あ、そうね。あたし、つい取り乱しちゃった」


 アオリもなんか正気に戻ったみたい。


 「やっぱり、さっきからお姉ちゃんは変だよ!」

 「あたしが……?」

 「こんなふうに怒ったり、急に言葉使いが上品になったり……、普段のお姉ちゃんなら考えられない」

 「そ、それは……」


 確かに、前世の記憶が蘇る前のアオリなら、すごく活溌(かっぱつ)で楽観的だった。


 だけど前世でアフィウネは全然そうではなかったよね。いま怒ったり()ねたりするのはアフィウネのわがままお嬢様の人格のせいみたいだ。


 「そうよね。ごめん、あたしは本当に変よね」


 アオリはなんかちょっと落ち着いたみたい。


 「さっき腹立ってごめん。でもこれは本当に秘密だから。絶対誰にも言わないでね」

 「うん、わかったよ。ごめんね。お姉ちゃん」

 「とりあえずシヨカくん、青樹のこと任せるね」

 「は? 何のこと?」


 オレはまだその呼び方は慣れていないのだから反応はちょっと遅かった。


 「事情を説明して」

 「アオリはどこに行くの?」


 そういえばさっきから焦っていたね。やっぱり急用があるのか。


 「あたし、毎日夕方仕事をしてるの」

 「仕事? まだ高校生なのに」

 「見ての通り、あたしの家はすごく貧乏(・・)よ。本当はあまり余裕がなかった」

 「そうか……」


 さきほど急いで扉を開けたのはもうすぐ行かなければならない時間だからだね。


 「本当にごめんね。またあたしのわがままに巻き込んじゃって」

 「いや、大丈夫。わかっているよ」

 「あたしの家族については後で青樹から聞けばいいよ。それにラインも交換しておいたから、仕事が終わったらすぐスマホで連絡するよ。じゃね」


 そう言い残した後、アオリは急いで部屋から出ていって、残っているのはオレと青樹くんだけ。


 「あの、青樹くん、とりあえず落ち着いてね」

 「はい。お姉さん……いや、お兄さん……? お兄姉(にいねえ)さん……?」


 やっぱり前世のことバレている! 何その変な呼び方。なんか紛らわしい。


 「あの……、そんな呼び方だとなんかややこしい気がするからやめて。名前で呼んでいいよ。『紫陽樺(しよか)』って。『兄さん』も『姉さん』も要らないからね!」

 「はい、紫陽樺さん」


 これでいいよね……。いや、呼び方なんていまはどうでもいいよ。そんなことより……。


 「で、オレとアオリのこと、どこまで聞いていたの?」

 「えっと、紫陽樺さんは前世でお姉ちゃんの彼氏だった?」

 「やっぱり全部把握してる!」


 さすがに最初から聞いたらピンとくるよね。でもこの世界の普通の人なら前世とかのことなんてなかなか信じていないはずなのに。それはたぶん青樹くんはまだ子供だからかな?


 「よく聞いて。これは秘密だよ。誰に知られたらお姉ちゃんもオレも困るからね」

 「はい、わかりました」


 大人しい子みたいでよかった。


 「なんで盗み聞きなんかしたの? せっかく『女の子の話』だと言ったのに?」

 「女の子……?」

 「うっ……!」


 だよね。オレは女の子じゃないよね。痛いところ突っ込まれた。


 「いまは女の子だからいいじゃん! それより、どうして盗み聞きしたの?」

 「言ったら怒る?」

 「いや、怒らないよ」


 まあ、答え次第だけど。


 「普通は『聞かないで』って言われたら、むしろ気になるよね」

 「それだけ?」


 なんか子供っぽく単純な動機だ。


 「……うん」


 確かに子供は好奇心旺盛(おうせい)だから、『秘密』だと言っておいたらむしろ逆効果だよね。


 「そういえばアオリは……キミのお姉ちゃんは何の仕事をしてるの?」

 「料理……」

 「は?」

 「レストランで、料理を作る仕事」


 これなんか意外な答えだ!


 普通高校生が仕事をすると言ったらコンビニのレジとか、メイドカフェとかだよね。


 「お姉ちゃんは料理上手なの?」


 そういえば昼休みのときもこんな話をしていたね。アオリは自分で弁当を準備しておいた。


 「うん、お姉ちゃんの料理はすごく美味しいよ」


 やっぱりなんか全然イメージとは違いすぎる! それに前世は料理全然ダメだったのに。まさか料理スキルも本人の望んで手に入れたものなの?


 「すごいお姉ちゃんだよね」

 「うん、お姉ちゃんは家族のためにいっぱいがんばって稼いでいる」


 家が貧乏って言ったのは本当みたいだね。


 「お父さんは仕事をしないの?」

 「お父さんは最近体の調子がよくないから、ずっと家で簡単な仕事してる。いまお姉ちゃんのほうがたくさん稼いでいる」

 「そうか」


 まさか、アオリって意外とすごい立派な人?


 けさ教室でわたしと初めて会ったときのアオリの印象はすごく悪かった。彼女はなんか気ままでデリカシーなくて、人のことなんて全然気を遣わないやつだと、わたしは思っていた。


 でもどうやら全然違うみたいだ。けさのわたしはアオリのことを誤解していた。勝手に厄介なやつで関わりたくない人だと決めつけた。でもいまのオレなら……。


 「紫陽樺さん……」

 「あ、ごめん、ちょっと考え事」

 「お姉ちゃんのことが好きなの? 結婚するつもり?」

 「そ、それは……」


 しょうじき言うと、いまはあまり何もはっきり言えない。なんか難しい問題だね。


 さっきもアオリと話していた通り、オレたちが愛し合ったのは前世のことで、いまのわたしたちどうなるかまだよくわからない。


 アオリのほうがたぶんすでに決心したけど、オレのほうは全然まだ。


 だって、いまは女同士だよ? 昔みたいにあり得るのか? よくわからないよ。アオリだって迷いがないわけではないはずだと思う。家族の人からの反対も避けられないだろう。


 だからとにかくいまは普通の友達でいたい。アオリもわかってくれるはずだよね。


 「ごめん、わからない。これは未来のことだよ。でもこれから友達として仲よくなるよ」

 「こんなバカなお姉ちゃんだけど、よろしくです」


 弟までこんなふうに言われたね。楓幸(ふゆき)くんといい青樹くんといい、この2人の態度から見ればいままでのアオリの行いをなんとなく想像できたかも。


 「うん、それじゃわたしはこれで」

 「もう『オレ』と言わないの?」


 いきなり一人称を変えたから青樹くんに気づかれたよね。


 「前世のことは秘密だからね。わたしの中身が男だとバレてしまったら大変だろう。特にキミたちのお父さんにね」


 娘さんに男が近づいたら普通のお父さんなら不満を感じるだろう。だから言わないほうが身のためだよね。これは前世からの常識だけど、この世界でもまかり通るはずだ。


 「なんで? お父さんは優しい人ですよ」


 いや、優しいかどうかは関係ないし。『彼女の父親』はこういう生き物だよ。キミもいつか彼女ができたらそのときわかるかもね。


 「とにかく、お父さんに言ってはダメ!」

 「でも……」

 「この家の平和のために、お願いだからね。絶対にね!」

 「は、はい。わかりました」


 ちょっとおおげさな言い方をしたけど、これでこの子がわかってくれたみたい。


 「よし、じゃ……」


 そしてわたしはアオリの家から出て、そろそろ自分の家に帰る。


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