10【紫陽樺】例え大変でも自由気ままで暮らしていけるからこれで幸ㄝ
「じゃ、ボクはここで。雛御坂先輩、蒼莉姉のことはよろしくお願いします」
楓幸くんと電話番号交換した後、ここでお別れ。次はオレが山葵野さんと2人で彼女の家に行く。
「だーかーらー、なんでキミがあたしの保護者みたいなセリフを言うんだよ!」
「うん、わかった。オレは山葵野さんをちゃんと監視しておく」
「雛御坂さんまで!」
「それじゃね。楓幸くん」
「さあ、雛御坂さん、行こう。いろいろ話したいことがあるのよね」
「うん」
やっと山葵野さんと2人きりになった。
「楓幸くんはいい人だね」
別れた後、オレはまだもう少し楓幸くんの話をした。
「うん、やっぱり楓幸くんはキミ……ヨスカくんと似ているね」
そうだよね。楓幸くんは前世のオレと似ている。
「なんかオレの代わりに、彼はいままであなたを見守ってきたみたいだね」
「まあね」
「優しくて面倒見のいい幼馴染。彼がいてよかったよね……」
なら、オレはもう必要ないんじゃないかな?
「でもね、勘違いしないでほしい。ヨスカくん、キミの代わりなんていませんわ!」
「は?」
「確かに楓幸くんはいまのワタクシにとって大切な幼馴染だけど、それ以上何でもありませんわ」
「アフィユネ……」
もう二人きりになったから、お互い前世の喋り方に戻った。
「ワタクシの好きな人はキミだけですわ。ヨスカくん、ワタクシの運命の人はキミしかいませんの」
「運命の人って……」
そんな言葉は嬉しい……けど、これでいいのかな? いまのオレは……。
「お姉ちゃん、告白?」
「わっ……! 青樹、いつからここに!?」
突然10歳くらいの黒髪の男の子が声をかけてきた。
まったく、2人きりで話す時間っていつも短くてあっさりと終わるよね。話は全然進んでいない。
「これって百合?」
「どこからそんな単語を? てか、盗み聞きするな!」
男の子の登場で、山葵野さんが取り乱してしまった。『百合』だなんて……。まあ、いま客観的に見ればこうなるよね。
「盗み聞きじゃないよ。ここは道路。しかも家の近く……」
こんな簡単に聞こえられるのか。まあ、そうだよね。ここで堂々とこの話をして、しかも大声を出したのは不覚だった。
「そ、そうなんだけど。後で説明するから、とにかく誰にも言わないでね」
「どうして?」
「お、女の子の話よ……」
なんか精いっぱいごまかそうとしている。というか、『女の子の話』って……。いや、いまはそんなこと突っ込まないほうがいいよね。とにかくこの子は誰なのか訊いてみる。
「あの、この子は?」
「あたしの弟よ」
やっぱり弟か。ということは、ここはもう山葵野さんの家の近くだよね。
「山葵野青樹です。はじめまして、お姉ちゃんの彼女さん?」
「か、彼女っ……」
違うし。いまはもう……。いや、前世でも『彼女』ではなく、『彼氏』だけど。
「やだ、青樹にはそう見えるの? えへへ」
な、なんで山葵野さんは恥ずかしそうな顔でニコニコしているの? いまはごまかすべきところだと思うけど。
「お姉ちゃん、やっぱり……」
「と、とりあえず、雛御坂さん、家に入ろう。話は後だ」
「あ、うん。そうだね」
「あっちの家よ」
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「ただいま」
「お邪魔します……」
オレは山葵野さんの家に入ってきた。
「あたしの家は狭くて仄暗いのよね」
「え? まあ……」
山葵野さんに言われて周りを見てみたら、確かにここはなんかあまり広くない。
「でも、あのでかい屋敷より、ワタクシはこの家のほうが好き」
「そうか」
そういえばこの家は前世のアフィユネの住んでいた屋敷とはいろいろ比べ物にならないよね。広さも居心地も。なのに彼女は『好き』って。
「何の『屋敷』なの? お姉ちゃん」
「青樹……、何でもないよ」
そういえば青樹くんもいるよね。そしていまの話も聞こえられたようだ。
「とにかく、ワタク……あたしは自分の部屋に入るから邪魔しないでね」
「さっき『ワタクシ』って?」
「あれも忘れて!」
なんか弟相手だと、山葵野さんはあまり余裕ないようだな。
「もう帰ってきたのか?」
家の中から中年の男が出てきた。
「パパ……ただいま」
パパ……、つまりお父さんか。
「おかえり。友達を連れてきたのか?」
「友達じゃなく、『彼女』だそうだ」
「おい、青樹!」
山葵野さんは答える前に青樹くんは割り込んできた。
「は? 彼女って?」
「ち、違いますよ。冗談です。オ……わたしは山葵野さんのクラスメートです」
いま、『オレ』と言ったらまずい気がするからとりあえず『わたし』。普通の女友達としてなら大丈夫だよね。
「うん、あたしの新しいクラスでのクラスメートだよ」
「は、はじめまして、わたしは雛美坂紫陽樺です」
「はじめまして、蒼莉の父です」
家に来たらすぐ弟さんとお父さんも迎えに来てくれるとはな。ちょっと緊張してしまったけど、とりあえずあいさつを交わした。
「いまあたしの部屋に連れていくね」
「うん」
「女の子の話だから、二人とも絶対邪魔しないでね!」
二人きりの会話に邪魔が入らないように、山葵野さんは弟とお父さんに言っておいた。
でも、また『女の子の話』って? やっぱりなんか違う気がするけどね。
믕음몽움뭉옴묭윰뮹욤믕음몽움뭉옴묭윰뮹욤믕음몽움뭉옴묭윰뮹욤
「ごめんね。弟は迷惑かけましたわ」
山葵野さんの部屋に入ってやっともう2人きりになれた。
「いや、何の問題もなさそうだし」
「とにかく、やっと二人きりになりましたわ。今回は絶対に邪魔されないように、扉もロックしておきましたの」
この部屋はなんか女の子の寝室っぽいけど、ずいぶん散らかっていて汚れているところもある。大きな家に住んでいるわたしから見ればここは居心地があまりよくない。
「この家にはこの3人しかいませんわ」
「お母さんは?」
「8年前から亡くなったの」
「……」
この家の環境はなんか……。
「でもね、さっきも言ったけど、ワタクシはいまの生活で満足していますの」
「そうなのか?」
前世は貴族令嬢なのに、いまはこんな生活で満足しているとは意外だね。
「前世からワタクシは祈ったことがありますわ。『生まれ変わったら、貧乏でもいいから自由気ままで生きられたらいい』って」
「そうか」
確かにオレはアフィユネのこの気持ちをよく知っている。前世では貴族でお金持ちなのに、カゴノナカノトリであまり自由がなかったからね。
だから彼女にとってお金や大きな家よりも『自由』のほうが宝物のように見えるよね。
「いまあの祈りは本当に叶いましたわね」
「そうだね。おめでとう」
どうやら彼女は転生して自分の望んだ通りの家族に生まれてきて幸せになったみたいでよかった。
「でも、まだもう一つの望みがありますの」
「もう一つの望み?」
「それはね……キミと結ばれることですわ」
「は?」
オレと……?
「さっきからの続きね。ワタクシはキミのことが好き。愛していますわ。結婚しましょう」
「えぇっ!?」
これはさすがにいきなりすぎるよね!
結婚って……2人はまだ未成年だけど。いや、それより女の子同士だよね……。
どうしよう? これってただの冗談だよね!?




