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甲高い声の主はピンク色の髪の毛に、蜂蜜色の瞳をした見た目も声も甘い女子生徒だった。
そしてマナーはみたところほぼ身についておらず、ビアンカのことを知っているようだが敬う様子もない。
「どうして私を呼び出さないのよ。悪役令嬢なんだからそれくらいこなしなさいよね!あんたがフラグを立てないとイベントが進まないんだから!」
小柄な女子生徒はキッと下からビアンカ強く睨み上げた。
言っていることの意味はサッパリわからないが、その眼差しは悪くないと感じていた。
「初めまして。確かに私がビアンカですわ。申し訳ございませんが、お名前を教えていただけませんか?」
「メリーアンよ。よく覚えておきなさい。貴女は私のことを虐めて最終的には階段から突き落とさないといけないんだから!とりあえず今日はこれで勘弁してあげるけど、明日からちゃんと動きなさいよ!」
そういうと彼女、メリーアンはビアンカの手首を握り、ビアンカの手を使って自分の頬を思いきり叩いた。
パァンという乾いた音が響き、メリーアンが小さな悲鳴をあげる。
思わぬ事態に固まっていると、鋭い声が聞こえた。
「そこで何をしているんですか!リーブス様、これは…?」
「これは、その…私が悪くて…ビアンカ様に従わなかったから…っ」
潤んだ瞳で私とハインツの顔を繰り返し見ながら、腫れた頬を押さえるメリーアン。
先程とは打って変わって怯えた表情をしていた。
ビアンカはといえば、突然の事態と手のひらの衝撃と、何やりハインツから送られる侮蔑の眼差しで動けずにいた。
「グリード様、私、私…っ」
とうとう涙を流しながらしなだれかかったメリーアンに、ハインツは優しくハンカチを渡した。
ビアンカには変わらず強い視線が送られているが、メリーアンを優先するらしく、後で話を聞きますと残して2人で去っていってしまった。
(いや、メリーアンったら素敵ですわ!ハインツ様のあのゴミを見るような目!はあぁ…一生あの目に晒されて生きていたい。未熟でダメな私を蔑んでくださらないかしら…!)
後で話をと言われた為その場で待ち続けたが、ハインツが帰ってくることはなかった。
放置プレイでパンパンになった足をお風呂で侍女にマッサージしてもらい、息をつく。
メリーアンが言うにはビアンカは明日も彼女に会い、嫌がらせ行為をしなくてはならないらしい。
(嫌がらせで思い浮かぶのは、前世の記憶では物を隠したり、水をかけたり、陰口や噂あたりかしら。しかしそんなものではぬるいでしょう)
ビアンカは次の日の昼休みにメリーアンと偶然出くわした際、アイコンタクトを送られたのを感じた。
どうやら今らしい。
ということで、昨日考えた魔力による見えない魔法の嫌がらせである。
魔法は見えるが魔力は見えない。
それを利用し、彼女の髪の毛のあたりで弾けさせた。
ボンッと音と共にチリチリ髪になったメリーアンと目があった。
綺麗なストレートロングは、焦げてしまい台無しになっていた。
整えたらショートになるだろう。
髪の毛は女の命と言われる世界。
流石に顔周りに怪我はさせられない、と髪の毛のみを狙った絶妙なコントロールである。
この嫌がらせには納得してもらえたのでは、と自信満々にメリーアンに笑いかけるビアンカ。
その瞬間、メリーアンはわんわんと大泣きして走り去ってしまったのである。
よければ魔法攻撃、最低でも平手打ちくらいはもらえると思っていたのだが、期待外れだった。
とりあえず悪役令嬢の名に恥じないよう、焦げた髪の毛の痕跡を消して立ち去った。
悪役令嬢なのだから、やる時は完璧に。
これは王太子の婚約者としても譲れないものである。