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救護室へ向かうと思いきや、王太子の足先は執務室に向いていた。

学生ながらも公務を行う歴代の王族が使う部屋である。


ビアンカもついてくるよう促され、部屋に入る。

質の良い調度品で揃えられた部屋はさすがであった。


「グリード、ビアンカ、座って。話というのはわかると思うけれど、先程の令嬢のことだよ。次は投獄というのも本気だ。彼女の言動はあまりにもおかしいだろう」


穏やかな口調で、主にハインツに語りかける王太子。


ハインツは膝の上で握った拳をギュッと握り締め力を入れたまま、黙り続けていた。


「グリード、君が本当に彼女に恋をしたなら正式に婚約者として申し込むなり、彼女の行動を嗜めるなりすべきじゃないかな。彼女のためを思うならね」


「…ウォルシュタイン様、私の話を聞いていただけますでしょうか。到底信じられない話かも知れませんが、事実のみをお伝えいたします」


「わかった。聞かせてくれ」


絞り出すような声で話し出したハインツ。

その内容は、王太子の予想通りのものだった。


「彼女に話しかけられるたび、触れられるたびに自分の意思が強制されるのです。そう思い行動する事が当然であるかのように、彼女を正当化し、…愛情を抱いてしまうのです」



そもそも魅了というものは、好意的に受け入れられやすくするものであり、好意を抱かせるものではない。


その対象が好ましければ、魅了によって好感をさらに抱きやすくするものであるが、ハインツにとってメリーアンは天敵とも言える存在であろう。


女性らしさを押し付け、紳士として無碍にできないことを知っているからこそわざとらしくしなだれかかる。


メリーアンがハインツに魅了を使ったところで、ここまで強制されるものではないのである。


ということは、メリーアンは魅了以上の、つまりは法に触れる何かでハインツを操っているに過ぎない。


「グリード、話してくれて助かるけれど具合が悪そうだね」


「…何故か、あの女に関することを報告しようとすると…っう、」


こめかみを押さえながら呻き出したハインツに、王太子はすかさず安らぎの魔法をかけた。


しかしその魔法は何かに弾かれたように光と共に消えてしまい、ハインツは更に苦しみ出してしまった。


「ハインツ様…!光属性が駄目ならもしかしたら…!」


(闇属性だけれども、呪いから解くものがあるわ…効果は光属性に近いから効くかどうか…ええい、ままよ!)


ビアンカが手を翳すと、ガラスが割れたような音が響き渡りハインツの症状は消えていた。


その代償とでもいうように、ビアンカの体全体を細かい切り傷と痛みが襲っていた。


「ビアンカ!」


すぐさま王太子がビアンカに治癒魔法をかける。

いつもならばすぐに消える傷も、今回はゆっくりと消えていった。


(ウォルシュタイン様の魔法がここまで効きにくいなんて、メリーアン様は相当な魔法の使い手ということかしら…。それよりも、心地よい痛みでしたのにもったいないですわ…)


「ビアンカ、今回は確かに助かったけれど、今後捨て身な行動は慎むようにね」


にっこりと微笑む王太子は鞭を振るう時のものと全く同じであった。


「リーブス様、ありがとうございます。貴女にはここ最近本当に酷い言動を取り続けてしまい、大変申し訳ございませんでした」


憧れだった人に深々と頭を下げられ、ビアンカは複雑な気持ちであった。


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