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――昼休み、中庭にて。
ビアンカはメリーアンの姿を探そうとしたが、その必要はなかった。
なぜなら、中庭のベンチにはハインツを膝枕しているメリーアンがすぐに目に入ったからだ。
(何故あんなに密着しているの…?ハインツ様は婚約者がいないとはいえ、あれは適した距離では無いわ)
令嬢モードのビアンカが内心引いていると、メリーアンと目が合った。
メリーアンが笑った瞬間、ビアンカの頭の中でゴングが響いた気がした。
「きゃっ!ごめんなさい、ビアンカ様!私、ハインツ様の具合が悪そうだったから、ほっておけなくて…っ」
最初のメリーアンの悲鳴で起きたハインツは、怯えるメリーアンを見てビアンカを睨み付けた。
「…ハァ、リーブス様、また貴女ですか。彼女の言う通り、好意でしてくれていた事です。大体、貴女には関係のないことでしょう」
(メリーアン様が何故かウインクをしてくるわ…ということは、ここで本来ならば悪役令嬢としてベンチを壊すくらいはした方がいいのでしょうが、そうはいきませんわ)
ビアンカは、指先を動かし魔法にて透明の水晶玉を作り出す。
これは前世を思い出してから開発した、録画機能付きの水晶玉である。
王太子はこれからの行動は全て記録するようにビアンカに命じた。
これに従い、ビアンカは毅然とした態度で2人に向き合う。
「いいえ。私はウォルシュタイン様の婚約者です。ウォルシュタイン様の側近であるハインツ様の体調を心配するのも当然のこと。王太子としての公務も最近はお一人でこなされる事が増え、負担が増したのは確実」
ビアンカはゆっくりと2人に向けて足を踏み出し、ハインツに手を差し出した。
「ハインツ様、体調が優れないのでしたら救護室へ参りましょう。体格的にメリーアン様よりも私の方が適しております。お送りいたしますわ」
有無を言わせぬよう、王太子の笑みを真似て微笑んだビアンカに、2人は何も言えず固まったままだった。
そこにタイミング良く王太子が登場する。
ちなみにこれは水晶を通して様子を見ていた王太子の計算されたタイミングであった。
「グリード、万が一でも女性に支えてもらうのは気がひけるだろう。私が行こう。話もしたいし…」
「ウォル様!グリード様は少し横になりたいと言っただけで、先程治癒魔法もかけましたから大丈夫です!それより、」
「メリーアン・ベリアル嬢。仮にも王太子の言葉を遮った上、許可もなく愛称で呼ぶなんて不敬罪に当たるよ。以前から注意しているし、つぎは投獄するからそのつもりでね」
王太子の腕を掴もうとメリーアンは手を伸ばしていたが、それが届く前に冷たい声に遮られてしまった。
信じられないとでも言いたげに口を開け、瞳を潤ませるメリーアン。
(先程までハインツ様を膝に乗せておいて今度はウォルシュタイン様…?尊い方を許可もなく愛称で呼ぶなんて許されない行為なのに、まだ演技を続ける気なのですね…)
メリーアンはまだ諦めまいと王太子になおも食い下がっていたが、どの言葉や仕草も冷たく叩き落とされていった。
「ウォルシュタイン様、救護室へ向かいましょう。治癒魔法では疲れは治せませんもの。ハインツ様はきっとお疲れなのでしょう」
(これ以上ウォルシュタイン様に冷たくされるのは許せないわ!私の役割なのに…メリーアン様のようにわざと可愛らしく振る舞った方が良いのかしら?)
悶々と考えながらも王太子とハインツを促し、メリーアンに頭を下げて2人の後ろを歩く。
メリーアンが何か言っていた気もするが、残念ながらビアンカの耳には届いていなかった。




