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成り立ち

何も存在しない只々白だけが広がる空間に男女が相対している

1人は壮年の男性、本来は穏やかな風貌に深く皺を刻み相手を見据えている

もう1人は年若い少女だ。美しい容姿に微笑を湛え真っ直ぐに相手を見つめている


「お久しぶりでございますお父様。御機嫌も麗しい御様子、御慶び申し上げます」


「ふん。己を封印した相手に余裕だな娘よ」


「今も尚、封印中で御座いますよお父様。この身は封印の僅な隙間から長年掛けてようやく造り上げ、送り出した依代で御座います」


「そんなものとうに知っておるわ。よもや私が貴様の動きに気づいておらんかったと勘違いしておるまいな?」


「いえ、依代の身とはいえ気の向くままに世界を歩き回っておりましたのに放置されておられるようでしたから…この程度ならお許しになられておられるかと」


「まぁ封印が緩んで貴様が動き回っている事は把握していた。監視だけはしておったが目の前に現れる理由にはならんな。わざわざここに訪れた目的は何だ?」


「御存知かと思われますが現在私を、いえ、この依代を取り巻く環境が大変不可思議な状態でして、現状の確認、情報の共有…後は気後れしておりましたが感謝をお伝えする事でしょうか」


「まぁ貴様の現状は把握しておるが感謝?己を封印した相手に対して感謝とは奇妙な事を言いよる」


「いえいえ、当時の私の行いに対する罰としては妥当…いえ、むしろ温い、温情すらあったのではと今は思っておりますので」


「殊勝な事だ。だが私の許可もなく独断で世界に不可逆の改竄を行えば処罰は当然であろうよ。改竄の内容によっては世界が崩壊していた。貴様とて我が身を分けて産み出した子だ。意見が合わなくとも我が子として愛しておったのだ。信用も信頼もしていた。しかし貴様は裏切った。我が子等を信用し運営の一部を任せていた私に対するあの背任は万死に値した。他の子等が情けを必死で懇願せねば順当に消滅させておったわ。それ程、貴様の行いは我が逆鱗に触れていたのだ。感謝なら兄弟姉妹にしておけ」


「それほどにお父様は心痛めておいででしたのか…。当時の私は己の命を投げ捨てる覚悟でおりましたが…。お父様の御心情までは慮っておりませんでした。もはや今更の事ではありますがお詫び申し上げます。申し訳ありませんでした。」


「よい。結局貴様の改竄で世界は滅ばなかった。寧ろ活性化しておる。結果だけを見れば貴様の行いは世界をより良い方向へ動かした。だが貴様の封印は私への裏切りに対する罰だ。今も解くつもりはない。高望みはするな」


「現状で十分満足しております。しかし、兄様や姉様方ともいつも意見が違いどちらかと言えば嫌われていたのかと思っておりましたがまさか庇っていただけるとは…皆様には後程お礼をせねばなりませんね。しかし懇願を聞き入れて頂いたお父様にまずは感謝を。有難う御座いました」


「うむ。で、残りは確認と共有だったか」


「はい。では早速ですが。まずは改竄の結果です。当時はどの種族も野生動物並み、僅な文明の萌芽が観測出来る程度でしたが現在はどの種族も独自の文化を謳歌、繁栄している様子。お父様にもどうやら高評価を頂けている様ですし成功したと見ているのですが如何でしょう?」


「うむ。改竄の目的は種の多様性保持、文明文化の促成、及び弱小種族の救済兼試練だったな。」


「はい。詳細な内容につきましては封印前に資料をまとめておきましたので省きますが破滅的状況に対応、生存させるために種の多様性は必須です。」


「方策としては強豪種族を暴走させ作為的に危機的状況を作り弱小種族にテコ入れし打破させる事だな」


「はい。争いは成長を促しますので。強弱の判断基準は各種族の魔素それぞれの総和です。肉体的強靭さも魔素におおよそ比例するので問題無かったかと。テコ入れも必要最低限ですので弱小種も必死で努力し、昇華した事でしょう。なにせ負ければ族滅ですからね」


「そのように改竄したのは貴様だろうが。強豪種に他種族に排他的で強大な個を誕生させ暴走を誘発。その後に弱小種にカウンターとなり得る個を誕生させる機構だったな。そして数世代置きに種を代えた暴走と撃退を繰り返し全種族の生存力を高めると。喜べ、何度かの介入は必要だったが充分に機能しておるぞ」


「お褒めの御言葉、恐悦至極に御座います。しかし、介入で御座いますか…。想定しうる状況にはほぼ全て対策をとっていたつもりでしたが一体どのような不具合が御座いましたでしょうか?」


「強豪種が強大になりすぎて放置すればどの様に努力しようとも弱小種が滅ぶ状況が何度かあった。そこで神託を下し助言による更なるテコ入れを図った」


「…放置すればよろしかったのでは?」


「…何を言っておる?」


「いえ、ですから放置すればよろしかったのでは?」


「そうすれば強豪種族に対する未成熟なカウンター個体ごと族滅されるが?」


「その時は他の弱小種族の元に第二、第三のカウンター個体が産まれるように設定しております。それにテコ入れしても滅ぶ種など何もせずともいずれ淘汰された事で御座いましょう」


「残された資料にそのような記述は無かったぞ。」


「…漏れ、でしょうかね」


「たわけが。…貴様、私が世界に介入する事を望んだな?」


「…流石にばれますか。その通りで御座います。お父様の運営方針は基本放置で御座いました。遅々とした歩みでも世界に生きる者達の自然な発展をお望みで御座いました。しかしそれではあまりに遅すぎる。他の世界を観測すればお分かりになられているはずです。破滅的状況などいつ訪れても不思議ではありません。手段があり対応策もある。その上での放置。それが私には我慢ならなかったのです。」


「貴様は昔からそうであったな。極少の可能性に怯え、その急進的な意見を何度も繰り返し我等を辟易させておった。その可能性に怯えた神々に介入された数多の世界も観測したであろう?その結果いくつの世界が残っていた?ほぼ全てが消し飛んでおる」


「私が改竄を行うまでにどれ程の準備を重ねたとお思いですか?彼らの失敗は概ね考察済みです。それらも教訓として取り入れ入念に調整して実行したのです。実際、今現在も上手くいっておりましょう」


「今はまだ、な。今後、私が介入を止め、第二、第三のカウンター個体も蹴散らし強豪種の一種のみが勝ち残る可能性もあるのだぞ?そうなれば貴様の望む多様性の保持は消え去る」


「それならそれでよろしいかと」


「ふむ?構わんのか?」


「はい。最後までその種が覇を握り続けるという事はつまり、世界の全てと敵対しそして神の意思にさえ抗い、勝ち続けたという事です。それほどの種であればもはや我等の手など要りますまい。破滅の一つや二つなど簡単に撥ね除けてくれるでしょうとも。」


「ふん。どう転ぼうとも貴様の望む結果になるという訳か。気に入らんな」


「己が全てと天秤に掛けそれでも選んだ改竄の結果ですので御了承ください。今からでも私を消滅させるというのでしたら慎んで賜ります」


「…今はよい」


「はい。では続きまして、現代に置いては古代に存在したとされる高度魔法文明についてです」


「…ふむ」


「私の封印された当時、その様な文明は萌芽すら御座いませんでした。改竄した内容も直接的には文明の発展に寄与するものでは御座いませんでした。なので私の封印以降かなり経過した後に勃興した文明だと思われるのですが調べた限り、口伝や歴史書以外の確たる証拠が一種しか出てきておりません。その存在を示すという物証が限り無く少ない。それらしい遺跡すら御座いません」


「そうか、世の歴史書に書かれた通り大規模実験の失敗の余波でほぼ全てが消滅か散逸したのだろうよ。いやーあれはすごかった空前であり絶後であった」


「私の知らない創世記の話ですかね?一つの文明圏がまとめて滅べば流石に封印中とはいえ気づきそうなものですが…。それで先程申しました唯一種の物証。俗称がギルドカード発行機というんですがこれがトンデモな装置でして。あの装置は少量の土片、微量の魔素を流すだけでカードが排出されるんですがそれがなんと私の考案していたカードに限り無く近くてですね」


「…」


「私の考案していたカードとは仔細は違いますが大同小異、たった数滴の血液から魂レベルまで調べないと解らない様な情報を読み取りカードに記載されるのです。しかも偽造防止は勿論の事、盗見防止機能付きです。薪集めしているような現在の世界で異質すぎます。しかもこの装置、出土数が膨大です。確認できるだけで五千台以上。観て回った街には全て設置してありました。ちょっと大きな村にもありましたね。普及し過ぎです。他の物証など一つも出てこないのにこの機械だけはゴロゴロと発掘される。しかも稼働する状態で、不思議なものです。ここで確認なのですがよろしいですか?」


「…申してみよ」


「私の残した資料、全てに目を通して頂けたのでしょうか?」


「当然だ。重罪を犯した貴様の資料は全ての引き揚げ目を通している」


「で御座いますよね。で、さらに確認なのですが…」


「……申してみよ」


「改竄とは無関係だった私の趣味部屋も…覗きましたね?」


「…例え部屋のドアに可愛らしく『しゅみのへや』と書かれたプレートが下げられていようとあれほど厳重に結界や罠が敷設された部屋が無関係とは思うまいて。改竄の研究室並みかそれ以上の厳重さであった。実際無傷で解除出来るのは私だけであったぞ。研究室の次に解除してくれたわ」


「左様で御座いますか。これで確信が持てました。」


「…何がだ」


「お父様、私の趣味、なろう小説にハマりましたね?」


「…貴様を突き動かした動機を解明する為に多少、読み込んだだけだ」


「左様で御座いますか。大事な事なのですが外部の世界からの転生者や転移者を招いた事はおありですか?」


「戯けた事を抜かすでない。何故私がわざわざ自ら世界に不要な劇物など入れるというのだ」


「では現在のなーろっぱの様な世情に転生者や転移者の影は無いと仰るのですね?」


「…そうだ」


「改竄の影響があったとはいえ、あくまでも自然にこのような世界に発展したと?」


「…神託で助言をする際に多少の方向性を示した事は…まぁ、認めよう」


「…私は封印されるまで、いえ、今こうして依代の身で世界を見て回るまで心のどこかでお父様や他の兄弟達とは違うのだと疎外感を抱いておりました。いつも意見が合わずすれ違う私は本当はどこか違う場所から貰われてきた赤の他人ではないのかと。ですが!今!私はお父様との確かな繋がりを感じております!確かに、確かに私達は父娘なのだと心の底から信じることが出来ております!これほど嬉しいことは御座いません!」


「ええい喧しい!静まれい!」


「いいえ!いいえ!この喜びを抑えるなどとんでも御座いません!あぁ!あぁ!ようこそ!こちら側へようこそですお父様!そしてこの素晴らしい世界を御創り下さり有難うございます!」


「うるさい!喚くな!」


「ですがっ…こほん。私としたことが取り乱し、はしたない所を御見せ致しました。申し訳御座いません。なお、改竄についてなのですが今後は魔勇機構と、強大な個、カウンター個体等という無味乾燥した名称ではなく魔王、勇者と呼称致しますのであしからず」


「急にぶちまけおったな」


「世では彼等はそう呼ばれておりますし…私とお父様にもはや建前など不要でしょう?」


「黙れ」


「まぁまぁそう仰らずに。しかし、あれ程世界に手を加える事を忌避していたお父様がここまでされるとは…感慨深いものです」


「その満ち足りた笑顔を止めろ。そもそも貴様の改竄のせいで文明の成長が著しいのだ。精神の成熟度と乖離しておる。適度に抑える為には必要なことであった」


「という建前でお兄様方を説得したわけですね流石お父様です」


「やかましいわ。…もうよい、本題に入れ」


「えぇそんなご無体な…漸く趣味について語り合える同好の士を得たのです。お父様もご趣味をお兄様方には隠しておられるご様子。語らう相手もいらっしゃらないのでしょう?もう少し興じませんか?」


「断る。貴様と馴れ合うつもりはない。他の者に示しがつかん」


「左様で御座いますか…。残念ですが本題へと参りましょう。お父様は私の現状を把握しておりますか?」


「うむ。貴様にしては珍しく地方都市の冒険者ギルドでパーティーを組んだところだな」


「はい。で、問題はそのパーティーメンバーなのですが…」


「表向きの内訳は前衛戦士二名、中衛一名、魔術師一名、狩人一名、そして回復役として貴様だ。くくっ…バランスの取れた良い構成だな?」


「楽しんでおられるようでよう御座いますね。詳細も把握しておられるご様子」


「まぁな。己を勇者と思い込んでいる現役中二病男子の農民(前衛)、完全人化して戻れなくなった人並みの力しか出せない龍の娘(前衛)、幼少期に迫害されていた己を助けた厨二男子を本物の勇者と盲信している今代の勇者(中衛)、永き時を経て弱小種の身に転生を果たし、しかし魔力が足りず己の産み出した魔術の数々の殆どを使えない原初の魔王(魔術師)、己を神の依代と言って憚らない、しかし本体が封印されて殆どの力が使えないという電波系神官(貴様)、そしてそのどの役も厨二病時代に体験し、苦い顔で古傷を抉ってくる仲間となった者達を見つめる引率役の小器用な中堅冒険者(狩人)…であるな」


「良い笑顔で御座いますね。えぇえぇ、そうで御座います。さらに言えば周囲は生暖かい目で見守るか、過去の自分を重ねて苦い顔をして見ておりますね。このメンバーでは何を成そうとも周囲は冗談と受け止めることでしょう。私も全力で面白おかしく掻き回すつもりです。この状況のご感想は?」


「控えめに言って秀逸である」


「有り体に仰るなら?」


「くっそ面白くなりそう」


「…毒され過ぎでは?」


「貴様が言うな」


「しかし、私もこの大波に進んで乗ったのは認めますがよくこのような逸材を同時期に集める事が出来たものです。流石ですお父様」


「…ん?貴様の仕込みではないのか?」


「いえ、強いて言えば魔王と勇者には私の近くで戦うように薄い誘因因子は組み込んでありますが左右の道で悩んだ時に私のいる方向を選ぶ程度のものです。誤差でしょう。」


「…そもそも魔王と勇者を己に近づけてどうしたかったのだ?」


「魔勇機構を作動させた時点で死は覚悟しておりましたがもし生き長らえたなら特等席で見たかったのです」


「趣味に全力であるな」


「はい。ともかく、この状況は私の仕込みでもありません」


「偶然にしては出来すぎだな」


「であれば私達以外の手が入れられているのでしょうか?」


「で、あろうな。」


「外の神々がお父様の目を掻い潜って干渉する事は不可能でしょうし…。この様な操作が可能な者となると選択肢は少ないですね」


「我が子等、であろうな…」


「難易度的に見て単独では無理そうですね。明らかに複数人の犯行です。先程、子等への示しがどうのと仰っておりましたが最早不要では?」


「言うな…」


「ではお兄様方への処遇はお父様にお任せするとして、今後についてです」


「はぁ頭が痛いわ。うむ、表向きは最下級パーティーが引率付きで初クエストを受注するところからだな」


「はい。とはいえ、今代の勇者一人で低難易度の討伐クエストなら余裕なのですがね」


「勇者とはいえ鍛えねば弱いままであろう?まだ冒険者になったばかりでそれなりには成長済みなのか?」


「長年の勇者の信じる勇者(中二病患者)への接待プレイで上級者冒険者にも手が届くまでに成長済みて御座いました」


「笑うしかないな。この二人だけでも面白い物語になりそうだ」


「これを知った時には思わずニッコリしましたね。冒険者になった理由は『私の勇者を世界の勇者にしてみせる!』だそうで御座います。最高です」


「このまま行けば歴代の勇者の中でも強者になるであろう。他の面子も色物揃いではあるが問題無かろう。そのまま続けよ」


「では私は思うままに事を進めてよろしいのですね?」


「構わん。貴様の趣味嗜好については不本意ながら把握していおる。悲劇にはならなかろうて」


「終幕は笑顔で、が私のモットーですのでご安心を」


「うむ。但し、こちらでも監視は続ける。そして定期的な報告は必ずするようにしろ」


「はい畏まりました。では本日はこれにて失礼致します。」

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