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シールド機は、相手の攻撃を防ぐのが役割で、そのために高出力のエネルギーシールドを展開できる。
先のレイド戦でポチョムキムキンが使っていた様な機体だ。船体も大きく、装甲が分厚くできていて、基本的には機動性がない。
しかし中には機動性が高いものも存在する。フレイアちゃんの相棒であるフレイが乗っているアクティブシールドと呼ばれる機体だ。
多くのシールド機は、広範囲にシールドを展開し、その内側に護衛対象を含める事で守るのだが、アクティブシールドは相手の攻撃に割り込むことで護衛対象を防御する。
そのために機動力は高めで、防御性能は自機の周囲だけだが、その分耐久性があった。ガス惑星で使うならこっちの方が向いてそうだ。
「だからあえて普通のシールド機を選ぶぜ」
「なぜあえて茨の道を……」
アクティブシールド機は機動力がある分、軽量でコア出力もハミングバードほどではないが小さめ。第5惑星で詰まった重力と風に負けないパワフルさには足りない。
ジェリーフィッシュとは違ったアプローチをするには鈍重な機体を試したいところだ。
「シールドを小型化、自機の周囲のみにして……」
普通なら自機を中心に一定範囲をカバーするシールドを、アクティブシールドの様に自機の周囲のみに限定することで、出力に余裕を持たせる。
その上でブースターを追加して出力を確保。超重力圏から脱出できる推力を出せる様に改造する。
「中型のシールド機は……ライナサラス型か」
サイだな。しかし、やっぱり高い。元々金策のためにガス惑星を攻略するはずだったのに、思った以上に出費が必要になってきた。まあ、先に進まずクリアした惑星を周回してればいいんだろうが……。
「そういえば、第6から採ってきたレア鉱石があったな」
青色鉱石は精度アップの効果がある鉱石だったはず。ということは、遠隔制御ユニットが使いやすくなるだろう。
「先にこっちを充実させるか」
第6惑星はジェリーフィッシュ向きの惑星だったし、サクッと周回して制御ユニットを向上させる事にした。
第6惑星のタイムを縮めていきながら、鉱石を採取。制御ユニットを作って、ファルコンへと搭載していく。その間にランキングを確認すると、フウカ以外のプレイヤーの名前も掲載されはじめていた。
「まだ俺に迫る奴は……フウカくらいか」
どうやらムキになってフウカは第7惑星にトライしているらしく、あと1秒のところまで迫っていた。他のプレイヤーとは10秒ほどの差ができている。
第6惑星にもちらほらと登録が増えていて、こちらの方が差が少ない。マカロニ突破は難易度低めなのだろう。
「第5惑星はまだ突破してる人はいないな……が、4はクリア済みになってる」
しまった、5がクリアできてないからその先を見てなかった。別に順番にクリアしないといけないシステムじゃなかったなぁ。
1から3に関してはまだクリア者が出ていないが、果敢に挑むプレイヤーがいればいずれはクリアされるだろう。
「最初の一人になれないのは残念だが、タイムで上回れば逆転は可能……」
「負け犬の遠吠えですね」
「うっさい、うっさい」
俺自身を騙す為に言ってるだけで、やっぱり一番にクリアはしたかったさ。でもまあ掲示板で情報を公開した時点で、先を越されるのも想定のうち。
独り占めは優越感があるものの寂しさも伴う。やはりネトゲである以上、切磋琢磨するのが本筋だろう。
「問題はどうやってクリアしていくかだが……」
第4がクリアされた事で多少の情報が増えている。第4惑星は、第5惑星よりも小さく、その分大気圏突破はしやすいものの、障害物が出てくるので左右の動きが必要になるらしい。
第5惑星用に重量級の突入機を作っても、回避できずにぶつかりそうだ。逆にいうとジェリーフィッシュでも突破はできそうということか。
1から3に関しては、生物が発生するかもしれないハビタブルゾーンより内側に公転軌道があるため、昼と夜の温度差が激しく、風の強さが半端ないらしい。
ランキングに挑戦者の人数が出ているが1に挑んだ人が圧倒的に多いようだ。
「赤色鉱石が採れるというのもあるだろうが、1からクリアしていきたいという心理の方が大きそう。その辺、ちゃんと忠告してる?」
「サポートシステム回覧板に回しておきます」
「そんなのあるのか……」
難易度から考えると最も太陽に近い第1惑星は気流が激しく、石ころがレールガンの弾の様に襲ってくるらしいので最も高い。エネルギーシールドでは防げない石ころの散弾は、一瞬で機体を全損させるという。
「こいつもまた違うアプローチが必要そうだ」
第5惑星用に構想している重量級でも散弾を受け続ければ厳しいはず。しかも気流が激しい中となると、運営はクリアさせる気ないんじゃないかと思えてくる。
「第1惑星は餌なんだろうけど、それにしても酷い」
現時点で突破口は見つからなかった。
「ああ、もうこんな時間か」
ガス惑星へのタイムアタックを中心に時間を使っていると、既に明日のレイドに向けた会議が始まる時間を越えていた。
元々参加する意欲がなかったのもあって、レイドはすっぱり諦めることにする。デフシンは粒子砲が拡散する中での戦い。レールガンやミサイルが主役となるだろう。それに対応できる機体は今手持ちにないしな。
「というか色々手を出しすぎて、機体がとっちらかってるな」
蜃気楼システムを搭載したファルコン部隊も、デフシン探索用にミサイル中心の装備に換装してあるが、粒子砲装備時に比べると戦力は落ちている。
遠隔制御ユニットによる操縦は、射撃精度がおちるため、誘導性の高いミサイルを積んでいるため装弾数が少ないのだ。自分で出入りできる自由出撃なら問題ないが、レイド戦の様に長丁場になると役立たずになるだろう。
ハミングバードとハンマーヘッドの合体機もメインウェポンは粒子砲。高速振動剣は使えるが、射程は短い。
ミサイル型の高速回転弾を持っていくことはできるが、装弾数が少ないのでやっぱり長丁場には向かない。
輸送船のマンタは言わずもがな。
「デフシンの星系探索に向けても、戦力は整えないといけないけどな」
「まあ、一般のプレイヤーは中型、大型戦闘機に乗り換えることである程度対応してますけどね」
「先立つものがないのでなぁ」
「マスターほど稼いでいる人はいないんですけどね」
俺の場合は自機を乗り換えるだけじゃ済まずに、ファルコン部隊をまるっと入れ替える必要が出てくるからな。
他のプレイヤーみたいに腕でカバーとかできないし。
更には手を広げすぎたがゆえに、多方面で出費がかさんでどれも中途半端な状況に陥っている。
「ガス惑星ランキングトップで報酬でもあれば」
「ありますよ?」
「何!?」
「確定するのは月末ですが」
タイムアタックで1位をキープできたプレイヤーには、賞金が出るシステムがあるらしい。その集計が月末になるので、賞金がもらえるのは月末。あと10日ほど時間が必要だった。
「その間に塗り替えられそうだな」
第7惑星はフウカに肉薄されてるし、第6惑星もライバルとの差はさほどでもない。俺みたいに機体を用意してって人は少ないはずだが、そもそもの腕が違うんだろう。
「このままタイムアタックを続けるか、他を探索するか悩みどころだな」
専用の機体を持っている優位はあるものの、得られる物は各種レア鉱石と月末の賞金。新たな星系、ダクロン辺りを探索するのに比べると魅力は乏しい気がする。
「そういえば、遠隔制御ユニットの精度が上がったよな?」
「はい、以前よりは言うことを聞いてくれるようになりました」
第6惑星で手に入れたレア鉱石で、遠隔制御ユニットの射撃精度が上がっていれば、ファルコン部隊の戦力は上がったと言える。
「問題はどこまで戦えるかだが」
「せいぜい初心者ってところですね」
修正直後はわざと外してるレベルで当たらなかったから、まともに狙ってくれるならそれでも格段の進歩と言えるが、新星系であてにできるほどかは不明だな。
「Foxtrotで戦ってみるか」
新しい事を試すのに夢中で、レイドの事は頭からすっぱり抜け落ちていった。