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新しい惑星のアイデアに苦戦しつつ……
何とかガス惑星の逆側へと抜けた俺は、一息ついた。濃密な時間で長く感じたが、かかったのは2分ほどか。繰り返しやれば、レア鉱石稼ぎ放題だなっ。
まず気力が続かんだろうけど。
『なんでやねん』
「どうだ、面白そうだろう?」
『やるっ!』
「まあ、ファルコンじゃ難しいだろうから……ってオイ」
説明しようとした時には、フウカはもうガス惑星へと突っ込んでいた。ジェリーフィッシュに比べるとファルコンは一回り大きいし、翼もあるため気流の影響も大きいはず。
流石にフウカでも……と思ったが、2分後には惑星の逆側へと出てきた。
「マジか……」
『タイムは……くっ、負けてる』
「いやいや、俺はこれ専用に機体をカスタマイズしたんだがね?」
よく見るとファルコンの左翼は破損して短くなっており、他にも氷の塊が直撃したであろうヘコみができていた。
しかし、タイムなんてあったのか。
「ガス惑星突破のタイムアタックがありますよ」
シーナがサブディスプレイにランキングを表示してくれた。第7惑星のトップに俺の名前があり、17秒差でフウカの名前が出ていた。
「ほほぅ、これまたプレイヤーの競争心を煽ってくれるねぇ」
『やり直す』
それを見たフウカはやる気満々でステーションへと引き上げていく。修理してから挑むつもりだろう。
俺としては次の惑星に向かいたいところだが、そうするにしてもダメージは回復させないといけないので、一度ステーションに戻らないと駄目か。
「うう〜ん、タイムアタックを繰り返すなら、この往復は面倒だな」
「マスター、マスター。いいミッションがありますぜ?」
シーナがどこのダフ屋かという口調でサブディスプレイを更新。ステーションの納品ミッションに、追加された項目を表示していた。
「臨時ステーションの建設納品」
どうやら修理と採取物回収用転送装置に機能を絞ったタイムアタック専用みたいなステーションを、ガス惑星の側に建設する事ができるミッションらしい。
誰かがガス惑星を突破するのが、ミッション追加の条件か。
「これはやらんといかんなぁ」
ステーションとの往復時間はかなりのロスになる。これは早めにクリアして臨時ステーションを作っていかないとな。
俺はステーションへと戻りながら、先程レア鉱石の情報を書いた掲示板を開き、臨時ステーションの納品ミッションの情報を追記した。これで賛同してくれる人が増えれば、ミッションクリアが早まるだろう。
ステーションに戻った俺は、上位の汎用素材を使用して臨時ステーションの納品用パーツを作っていく。通常の素材よりも納品ポイントが上がるので、早く建築が進むはずだ。
それと並行して機体の修理。次の第6惑星を攻略する準備も進める。
更には採ってきた鉱石の解析だ。色は緑なので、回避性能にプラス補正の鉱石だな。回避性能=機動性なので、ガス惑星攻略への布石の様な気もする。
しかも新星系の素材なので、Lv2のスペックになるだろう。こうなると工作機械のアップグレードが発見される日も近いか。
開発用工作機械で解析を行い詳細を調べると、使用できる物がリストアップされる。遠隔制御ユニットもその1つで、無人機の回避性能が上がる様だ。
他は追加スラスターだな。今の機体に取り付ける事で機動力が上がる。既存のメインノズルとかを改装するパターンもあるようだ。
「しかし、全損するとロストする事を考えると躊躇が出るなぁ」
「転ばぬ先の杖ですよ」
「まあ、失敗したら時間もロスする訳だしな……取り敢えず作るか。レア鉱石もそこまで取りにくい訳じゃないし」
と言うことで一番効果がありそうなメインノズルを改装する事にした。実際に飛んでみた感じ、やはりハミングバードの水平移動に慣れすぎてて、機動力が落ちてる部分で無理が出ていたからな。
思ったよりも動きが鈍くて氷にこするとかダメージを受けていた。ほんの少しでも機動力が上がれば、ノーダメージでいけるはず……はずっ。
「あ、記録が更新されましたね」
「む……」
シーナがタブレットでランキングを見せてくる。俺の記録を3秒上回りフィニッシュしていた。俺ももう一度挑めば、それくらいの更新は可能だ。
『ぶいぶい』
真顔でダブルピースしながら煽ってくる動画が送られてきた。レーシングゲーマーとしての意地を見せたくなってくるが、それよりも新規開拓を優先させなければならない。臨時ステーションを建設するには、誰かがガス惑星をクリアしないとミッションが出現しないからだ。
「まあ、でもノーダメージでクリアしたら問題ないよな」
「やっちゃってください、マスター。小娘に格の違いを見せる時です」
「だな」
義務感でやるゲームほどつまらないものはない。今を楽しむ、それならタイムアタックだろう。俺はメインノズルを交換して宇宙へと飛び出した。
「まあ、こんなもんだな」
二度目の第7惑星へのアタックは、ノーダメージでフウカのタイムを5秒更新して終わった。やはり初回のおっかなびっくりで挑んだ時とは心の余裕が違う。
コースも見えて、脅威となる氷の塊への反応も良くなっていた。まあ、余裕を持ちすぎてタイムが思ったほど伸びなかったのは残念か。
『むぅ……』
「機体をカスタムしてたらこれぐらいは出る。いい機体に乗るのは、楽ができるってよりは、限界に挑めるって意味もあるのだぜぃ」
『ふむむ……』
ファルコンにこだわるのも1つのプレイスタイルだろうが、やはり限界は低い。より速い速度で飛ぶにはそれを扱う技量も必要になってくる。
F1は誰が乗っても速い訳じゃなく、選ばれた人が乗るから速いんだ。
これから先、高速で高出力の戦闘機が増える中、ファルコンにこだわったがゆえに取り残されてしまうのはもったいない。
基礎は大事だが、応用に活かせてこその基礎とも言える。
「まあ、気が向いたら相談してくれてもいいぞ」
そう言い残して、俺は第6惑星へと向かった。
第6惑星はチクワかマカロニかという筒状の岩が飛び回っている奇妙な惑星だった。
「気流の流れを見るに、この筒を縫うようにくぐり抜けていくしかないって事か」
ハミングバードをベースにしたジェリーフィッシュは、かなり小型の機体なので穴をくぐるのも多少は余裕を持てる。
とはいえ、筒自体が回転しているものもあるので、ルート選びが大事そうだ。
「行くか……」
尻込みしていても始まらない。死ぬわけじゃないし、特攻してみるのも一興だ。何となくルートが見えたところで、惑星へと突入する。
序盤は第7惑星と変わらず、気流が吹きすさぶ中への侵入。ただ氷の塊がない分、進みやすさを感じられた。
しかし、その先はマカロニゾーンだ。避けて中へと突入するルートもなくはないのだろうが、その隙間に機体をねじ込む方が、マカロニの中を通るよりも難しそうだ。
マカロニルートの1つ目へと差し掛かる。穴の直径は、中型戦闘機でも入れる様にだろうか、思ったよりも余裕がある。
そして中に入った途端、気流の流れが落ち着いた。マカロニの壁が空気の流れを遮断して、入り口から出口へと向かう気流に整えられるからだろう。今は追い風だが、向かい風パターンもなくはないか。
それでも横風よりは飛びやすい。
「ぬおっ」
マカロニ内が静かな分、そこを抜けた瞬間に、横風を受けると軌道がずれる。その緩急が曲者のステージだった。
しかし、次のマカロニに入れば体勢は立て直しやすく、機体が小さいので縁にぶつかるという危険も少ない。
慣れてくれば第7惑星より飛びやすい感じだった。
そのまま惑星の核付近にあるレア鉱石を採取し、脱出ルートへと向かう。帰りもマカロニ経由なので難易度が変わる事はない。重力を振り切るためには十分な加速が必要だが、それも突入時に稼げているので問題は無かった。
「うしっ、クリア」
「モー」
シーナのボケをスルーしつつ、ランキングを確認。まあ、一人しかいないから、当然の1位だ。納品ミッションも見て、無事に第6惑星も解禁されているのも確認できた。
「この調子で全惑星突破だなっ」
そう思いながら次の惑星を目指した。