表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/200

81

 キーマさんにレールガンのプレゼンを終えた俺は、すぐさま格納庫へと戻ってきた。

 早くガス惑星へと挑戦したくなっている。

 底値になってしまっていたハミングバードを購入し、改造を施していく。


 ハミングバードは機動力では最高の機体。

 しかし、『最速』ではない。摩擦のない宇宙空間では、加速力が優れていればどこまでも速度が上げられそうな気がするが、実際はそうでもない。

 なぜなら機体の剛性が足りないからだ。

 物理法則の1つ、動いている物体はそれを維持しようとする力が働いている。いわゆる慣性だ。車で急にハンドルを切ると、横向きに力がかかって横転してしまう。その横向きの力に船体が耐えられないと、機体が捻れて自壊してしまう。


 ハミングバードは機動力を得るために軽さを極めた機体。そのために捻れに対する耐久力がそこまで高くないのだ。

 加速するだけなら可能だろうが、少し舵を切るだけで、速度がそのまま船体へのダメージになる。そうなると最高速は自ずと限られた。


 しかしガス惑星の重力に対抗するには、速度が必要だ。重力に負ければ惑星の中心に引きずり込まれ、自分の重さに耐えきれずに潰されてしまう。

 十分な速度を持って惑星に突入しなければならない。


「ハミングバードの弱さは、全方向に動くために偏っていないせいだ」


 それは戦闘においては強みになるんだが、今回のガス惑星アタックには向いていない。機体の縦方向の強度を高めて、高速領域での横Gに耐えれる機体に仕上げていく。

 一般車をスポーツカーに改造する際に、剛性を増すためにはロールバーと呼ばれる車体を支える棒を入れたりする。こうすることで、捻れて力が抜けるのを防ぎ、車体の強度を上げるのだ。

 これをハミングバードに流用し、機体の剛性を高める。しかし、余分なパーツを増やすだけだと質量が増して肝心の加速力も落ちてしまう。

 今回のアタックは戦闘ではないので、余分な装甲を取り払っていく。ただしガス惑星内には、氷の粒などが含まれる危険があるので、正面の装甲はやや厚めに残しておく。


「本当ならカニの甲羅を集めて軽量化したいところだがなぁ」


 しかしドロップ率は悪いし、ガス惑星では事故死もありうる。全損の危険があるので有り物で済ませないと時間がいくらあっても足りなくなるだろう。


 そんな感じでカスタマイズしていくと、頭でっかちでヒョロヒョロボディのクラゲみたいな機体になってしまった。


「あんまり速そうじゃないけど、今の最適解はコレのはず……」


 気体の中を飛ぶので、もっと流線型の空力を考えたデザインの方が良さそうだが、俺にはそんな知識はない。

 開発用工作機械でパーツを作製し、ハミングバードを改造していくと、夕飯前には何とか形にできた。


「腹ごしらえしてアタックだな」


 俺はワクテカしながら一旦、ログアウトすることにした。




 夕食は出前でカツ丼にしてみた。お値段は高めだが、できたてが届いて肉もジューシー。たまの贅沢には満足できる一品だった。

 美味しいご飯を食べつつ、掲示板を覗いてみるとやはり話題のメインはデフシンで行われるレイド戦だ。海の他次元生物が出てくるエリアなので、予想はやはり海産物。満を持してサメじゃないかという意見が優勢か。

 次点はシューティングといえばシーラカンスだろうという懐古中な意見も目立つ。他はタコ系のクラーケン説とかだな。中にはクトゥルフとか毛色の違う意見も出てきていた。


「盛り上がってはいるみたいだなぁ〜」


 他にもAlphaからの開拓星系なのでフレイアちゃんの活躍に期待する声も多い。


「でも今の俺はガス惑星だな」


 掲示板を検索してみるが、まだガス惑星の攻略に関する情報は上がっていなかった。ガス惑星は情報があっても技術がなければレア鉱石を取得できない。情報を秘匿して独占するよりは、みんなで挑んで競い合いたい気分だ。


「グラガンのガス惑星に、赤色鉱石が大量にある件……っと」


 探索系の掲示板スレッドに情報を撒いてみる。これで興味を持った人は攻略を開始してくれるだろう。

 この手の攻略は極めプレイの動画とかも楽しいので、どんどんと挑戦して欲しい。


「まあ、俺が一番乗りだけどなっ」




「準備は整っています」

「オーライ、それじゃ新しい境地を目指しますか〜」


 新たなハミングバードに乗って発進する。

 しかし、原型からかけ離れた姿のこいつをハミングバードと呼ぶのは抵抗があるな。

 やはりジェリーフィッシュと呼ぼうかね。

 グラガンのステーションを出発した途端、コックピットに声が響いた。


『なんでやねんっ』

「うおぉぉっ」


 声とともに急接近してくる機影があった。新星系で無改造の初期型ファルコンは珍しいだろう。


「ど、どうした?」

『遊ぼう!』

「子供かっ」


 ジェリーフィッシュの加速、最高速ならファルコンを振り切るくらいは簡単だが、そうするとずっと粘着されるのは目に見えている。

 ここはスッキリ、解消させるためにも新たな遊びに引き込んでやろう。


「じゃあ、これからガス惑星を攻略するのに付き合え」

『ガス惑星?』

「まずはここからだ」


 フウカとチームを組み、データを共有する。フウカの視力と操作能力なら、ガス惑星の乱気流も乗り切れそうなのが怖い。

 しかし、カスタムしたジェリーフィッシュで圧勝したいところだ。




 まずは一番外側に位置する惑星から。

 恒星から遠い分、熱され方が緩く、乱気流もやや弱いはず。また惑星自体もそこまで大きくないので、重力も小さめだ。

 ただ大気の成分に水が多く、氷が舞っている状態なので、大きな塊にぶつかると危険。そこをくぐり抜けて、惑星中心付近に集まっているレア鉱石を収集できればクリアと言える。


『ふむふむ』

「じゃあ、まずは俺から突っ込むから」

『なんでやねん』

「そのツッコむじゃねーよ」


 軽口を叩きながら、機体を加速させる。

 重力を脱するには、十分な加速が必要だ。しかし、速すぎると氷の塊ですら致命傷。そのコントロールが肝だろう。


 ジェリーフィッシュは、加速性能ではハミングバードと変わらない。ただし水平移動の能力を抑えて、前方への加速、剛性を強化している。

 その代わり機体後部の装甲は紙。氷の塊を食らったら大破しかねない強度しかない。乱気流で揉まれてしまって、重力が変に掛かれば折れてしまう可能性もある。


「ギャラリーもいるし、気は抜けないねぇ」


 そう思いながらも、そこまで悲観はしていない。いきなり高難易度だと挑むプレイヤーがいなくなるからな。

 俺は十分と思われる加速を行ってから、淡い水色の惑星へと突入した。




 恒星と反対側、夜の方向から突っ込んでいく。夜になると気体は冷やされて比重が重くなり、下降する。それに乗る形で速度を上げていく。


「むうっ」


 操縦桿が引っ張られる。宇宙空間では感じられない空気の抵抗がフィードバックされていた。その感触にできるだけ逆らわず、流れ乗るように調整しながら進路を定める。

 画面には視覚化された空気の流れが表示されているが、色々なところに竜巻のようなうねりがあった。それに巻き込まれるのは避けたいので、進路を修正。中々中心の鉱石へと近づけない。

 しかし、時間を掛けすぎると速度が落ちすぎてしまう。ある程度は覚悟を決めて、突っ込まないといけないな。


 竜巻の間をくぐり抜け、下降風に乗って中心へ。たまに氷の塊が飛んでくるが、多少のものならクラゲの頭頂部に取り付けた高速振動剣で溶かして砕く。


「ここかっ」


 少し小さめの竜巻に突入、その内側の目に入って一気に中心を目指す。スロットルを押し込み、加速を付けて、中心点へ。キャプチャーレーザーで鉱石の採取を行い、そのまま突っ切る。

 きしむ機体にヒヤヒヤしながら、惑星の中心を過ぎると、今度は上昇気流に乗って惑星の表面へと向かっていく。


「くおっ、とっとぉーっ」


 中心に向かって最大限に加速した状態から、今度は後ろ向きに引っ張られる中での加速。その切り替えはアリジゴク相手に練習できていたが、惑星内は気流にも引っ張られる。

 操縦桿が勝手に動こうとするのを押さえながら、慎重な操作が要求された。

 救いは徐々に開けてくる視界。明るい昼の領域に飛び出したので、周囲を確認しやすくなっていた。氷の塊の位置を掴みやすくなった。竜巻の流れに引っかからない様に軌道を修正。一気に外を目指す。


「おごごっこなくそーっ」


 最後の最後に大きめの氷の塊が進路を塞いでいたが、操縦桿を必死に倒して機体をこすりながら何とか回避。宇宙へと脱出できた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ガス巨星で採掘とは無茶をなさいますね。 地球航空力学みたいなできるだけ風に乗れるような形状ではなく、逆に風のの影響を受けにくい形にしないとあっという間に秒速数百mの非常に激しい乱流に巻き込ま…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ