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「ヒャッハー」


 金曜日の夜。今週は比較的残業がなく元気を維持して週末を迎えることができた。なので、夜からしっかりプレイできている。

 平日に準備したレールガン装備のファルコンを従えてデフシンの海藻が生えた小惑星帯を目指していた。

 合体機の性能を確認すべく最大加速でファルコンを引き離しに掛かると、一気に距離が開いていく。この加速感はたまらない。

 ただそのまま置き去りにしては意味が無いので途中でUターン、合流して目的地へ向かう。




「やっぱり、レーダーにはノイズが出てるな」


 海藻エリアはレーダーが不調になる。全く見えなくなる訳じゃないが、不要な物が映るのでレーダーとしての役割を果たせていない。

 これでは敵が潜んでいても発見できないだろう。


「と言うことで、ファイアーッ」


 ファルコンを3機並べてレールガンで掃射する。撃ち出された弾は、海藻の前で分裂。一定範囲をなぎ払っていく。


「……これ、環境破壊で訴えられないよな?」

「小惑星を幾つも融解させてる時点で手遅れですよ」

「そうか……」


 昔、とある村民ゲームをやってた時に、森林伐採して家を建ててくのが、すごい罪悪感があったのを思い出してしまった。

 人間の身勝手で自然を破壊していく……エゴの塊だな。


「ヒャッハー、なぎ払えっ」


 宇宙ワカメがなぎ倒されて、レーダーのノイズがなくなっていく。それと共に小惑星の解析が進んで含有物が表示されていくが、初期星系と違うものも結構ある。


「汎用素材も上位があるんだな。そしてレア鉱石も埋まってると」


 以前ならレーダーで見つけて戦闘機に乗り換え、ガーディアンとして出てくる他次元生物を退治してから、輸送船で採掘するという手間があったが、合体機にしたおかげで探査からそのまま戦闘に入ることができ、一定量ならハンマーヘッドの空きスペースで持ち帰る事もできるようになっていた。

 これはかなり時間効率が上がっている。


「ハンマーヘッドとファルコン隊は待機だな。ファルコンの散弾を撃ち込まれたら、俺が蜂の巣になる」


 ハミングバードを分離して、レア鉱石を含む小惑星へと接近。高速振動剣を撃ち込んで、反応を見る。


「時空振を観測。他次元生物出ます!」

「高速振動剣を回収、戦闘に備えるぞっ」




 ノイズのなくなったレーダーに次元の歪みが発生し、そこから一本の長い棒が現れた。


「カジキか?」


 かつて使用していたソードフィッシュを思わせる長い角。それからやがて丸みを帯びた頭が見えてくる。それは魚類というより哺乳類、イルカやシャチに近い印象だ。


「何はともあれ、アレが武器だよな。高速振動剣を近接モードに」


 相手が体当たり主体で来るなら、こちらも近接戦に備える。普段は撃ち出して使用する剣を、本体に接続した状態で使える様に固定した。

 攻撃範囲は狭くなるが、連続して使用できるのがメリットだ。

 対して一本角のイルカも全身を現し、こちらに目標を定めたようで、体の向きを変える。


「来るか……っ」


 尾ビレをビダンと打ち付けたイルカが一気に加速して迫ってくる。その速度はコバンザメを思い出させた。

 機体をスライドさせて体当たりを回避するが、通り過ぎた時に船体が揺らぐ。空気のない宇宙では風にあおられるような事もないはずなんだが。


 こちらが体勢を立て直していると、思いの外、鋭角に向きを変えたイルカは、またも尻尾をひとふり、加速して迫ってくる。カウンターを狙うより安全を考えて、大きめに回避を行ってその姿を観察した。

 白っぽい体に黒い斑が幾つが見える体。その表面が波打って感じられた。空間が歪んでいる?


 そういえば漫画でイルカは表皮を動かす事で水の抵抗を受け流すような仕組みを持っているとか読んだ記憶がある。それを再現しているのだろうか。


「イルカの表面が歪んでいるのは何か分かるか?」

「あれはイッカク型他次元生物です。体表面に微弱ながら時空振を観測、何らかの方法で加速力を得ているのかと」

「最初にこっちが揺られたのも、その影響か」


 相手の分析を進めている間、相手が待ってくれる訳もなく、今度は長い角を振り回すようにしながら突っ込んできた。


「ぬぉっ」


 するとレーダーに時空振の反応があり、角を振った先から波が観測された。カニが振り回していたよりは反応が弱いみたいだが、直撃していい影響はありえないので回避する。

 しかしそれはこちらの動きを誘導するためのものだったらしい。回避した先にイッカクが突っ込んでくる。


「なめるなっ」


 機動力では随一を誇るハミングバード。回避で体勢が崩れたとしても、そこから立て直してスライド機動、イッカクの下へと潜り込む形で避けきった。目の前をイッカクの体が過ぎていくと、体表面の時空振に引っ張られて、機体が揺れて視界がブレる。


「これ、酔いそう……」


 距離をとって機体に制動を掛けるが、その間にイッカクも反転してこちらに向きを変えていた。

 攻撃自体は直線的だが、角からの波動と反転速度でこちらに攻撃する隙を与えない。

 通り過ぎざまに高速振動剣を突き立てれば大ダメージを与えられそうだが、その身にまとう時空振の影響で狙いが定められない。


「困った」


 攻め手を欠いて防戦一方だ。何度か攻撃を避けるうちに、角からの波動が撃てる範囲も予測できて何とか回避は安定してくるが、反撃しようにも粒子砲は宙域の特性ですぐに拡散、威力を失ってしまう。

 高速振動剣を撃ちだして避けられるとこちらが不利になる。ワイヤーに繋がった状態の高速振動剣は、ハミングバードを引っ張ってしまうので、動きに制限が出てくるのだ。


「思い切って突っ込むか」


 剣での相打ちを狙うような作戦くらいしか思いつかない。あの角の先端なら体表面の時空振の影響は受けないだろうが、狙いを外した時が致命的になる。


「先にそっちを試すか……」


 もう一つ浮かんだ打開策の方が危険は少なそうなのでその作戦を試すことにした。




「もうちょっと……ここかっ」


 イッカクの突進を避けながら、位置を確認。ベストポジションで次の攻撃を待つ。反転して再度突進してくるイッカクのルートを誘導し、影響を与えないようにギリギリで回避。


「ファイアッ」


 リンク状態のトリガーを引絞り、ファルコン3機がレールガンを発射。イッカクが俺を通り過ぎ、反転を行うであろう宙域に、散弾をばらまいた。

 反転する為に速度を落したイッカクに、横から散弾が襲いかかる。体表面の時空振は防御効果もあるようで思ったよりも直撃弾は少ない。

 しかし時空振が及ばない場所もあった。鋭く伸びた角は散弾にさらされて直撃を受ける。何発か被弾するうちに根元からポキリと折れてしまった。


「今だっ」


 角を折られた痛みか、イッカクが身をくねらせているところに接近し、剣を突き立てる。小さな弾丸とは違い、しっかりと質量のある剣は時空振の鎧でも流されることなく、体へと届いた。

 激しく暴れるイッカクに巻き込まれない様に注意しながら、傷口を広げて倒しきる。




「ふぅ、何とかなったな」

「お見事です」


 ファルコンが役立ってくれて助かった。ただタイミングがシビアなので繰り返しやってると失敗しそうだ。

 安定して倒すためにはプラスアルファな要素が必要だろう。


「さてさて、鉱石はっと。お、赤色じゃないか!」


 Foxtrotの赤色鉱石に比べて色が鮮やかになっているように感じるそれは、願っていた鉱石の1つだった。これで威力を増した特注武器を作れれば、1つカードを確保できることになる。


「まあ、オークションに出すわけにはいかないんで……結局は、キーマさん頼りになるか?」


 とはいえアレコレ悩んでもまだ武器自体作れるかも分からないので、探索を進める方が先だな。


 この小惑星で採れるのは上級の汎用素材と上質の赤色鉱石。後は幾つか未知の物質があるようなのでそれらを回収しておく。開発機で分析すれば色々と幅が広がりそうだ。




「マスター、敵です」

「うぉっと!?」


 小惑星帯を物色していると、レーダーに敵影らしきものが映っていた。レア鉱石のガーディアンではなく、この小惑星帯に生息する他次元生物か。


「あれは……チンアナゴ?」


 小惑星からちょろりと伸びる細長いものは、テレビなどで取り上げられる事もある愛嬌のある魚に似ていた。

 その大きさはハミングバードよりも小さく、こちらを襲ってくる雰囲気も感じない。


「敵……なのか?」

「他次元生物に違いありません」

「まあ、そうなんだろうけど」


 距離が近づくにつれて、こちらを認識して顔を向けてくる。粒子砲で牽制したいところだが、この宙域ではできない。無視して去るのもありなんだろうけど……。

 そんな事を考えるうちに、チンアナゴは小惑星の中へと引っ込んでしまった。


「隠れる前に倒せ系の敵だったか」


 経験値を多く持った逃げる系の敵だったのかもしれない。まあ、STGには経験値の概念はないので特殊な素材が手に入る感じなのかも。

 今度見つけたら仕留めてみるか。

 周囲に同じような敵が居ないか確認してみようと、レーダーの精度を上げると、小惑星の中にある本体に反応があった。


「なっ、ヤバッ」


 チンアナゴが潜った小惑星に見えたソレ。視覚的には単なる小惑星にしか見えなかったが、ソレは小惑星の皮を被ったそれなりの大きさを持つ他次元生物だった。

 その事を見て取った俺は、接近していた向きを変えて、脱出を図る。しかし相手もこちらが逃げる事に気づいたのか、単に距離が縮まったからか動きはじめた。

 小惑星の表面に亀裂が入ったかと思うと、ぱっくりと2つに裂けたかのような大口を開けて、ソレが襲いかかってきた。

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