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新星系をざっくりと探索し終えてステーションの格納庫へと戻ってくる。体感したのは武装の弱さか。
最小の戦闘機ハミングバードに、偵察機であるハンマーヘッドをくっつけた合体機は、元々装備が弱めになっている。
ハミングバードに搭載した高速振動剣は、既存武器の理を外れていて高威力を発揮していたが、エイ型他次元生物を倒すのに時間が掛かっていた。
至近距離まで接近しなければならないリスクを負う武器で、一撃必殺でなくなるのは結構つらい。
高速振動剣を射出する高速回転弾も開発してはいるが、ブラスター発生装置を内包して威力を増す武器のためにどうしても大型になり、一発辺りのコストも高くなっている。
星系を攻略する上で赤字の武器を使っていくのは間違っている気がするので、戦力を整えるのが大事だろう。
「と言うことで戦力の増強を図ります」
現有戦力は、合体機の他は、遠隔制御ユニットを搭載した輸送機マンタが3機、戦闘機ファルコンが3機。
輸送船は置いておいて、ファルコン型は主武装である粒子砲の命中率が悪く、下手な鉄砲数撃ちゃ当たるというレベル。制御ユニットの精度を向上させれば改善されるはずだが、そのためには新星系の素材が必要になるだろう。
それをカバーするために、弾自体に誘導性能のあるミサイルを採用したい。粒子砲と違って弾薬コストが掛かるが、そこは工作機械で補っていくつもりだ。
そうなるとミサイルはサブウェポンに過ぎないファルコンより、ミサイルを主武装として持っているヘジホック型を揃えたいところだ。
「ファルコンはファルコンで改善の余地があるんで置いておきたいから、新たに購入するわけだが」
「先立つものがありませんよ?」
ステーション建設からレイド戦とコスト度外視で準備を進めたので、蓄えがなくなっていた。
工作機械を製造・販売すればある程度は稼げるが、供給過多になりつつあり買取価格が下がっている。新たな収入源を確保する必要があった。
「と言うことで、新規事業として能力アップ兵器の販売を開始します」
工作機械で宇宙船のパーツを作製する際に、特別な鉱石を加える事で性能に変化を付ける事ができる。まだあまり知られていない情報のようで、オークションなどでもそうした出品物は見かけない。
稼ぐなら今だ。
部品作製用工作機械を製造し、新たな武器製造ラインを構築。初期星系で採れる特殊な鉱石類は、使い道が広まっていない事で、比較的安価でオークション出品されている。
それらを購入して、一番効果がわかりやすい攻撃力アップの武器を作製、出品していく。
ライバルのいない独占市場なので好きに値段を付けられるが、高すぎれば買ってもらえない。新しい物は受け入れられるかどうかでその後の売れ行きが変わる。
まずは性能を知ってもらうために、安さで普及を目指すべきだろう。そして性能を偽らず、無駄な煽りは加えない、シンプルな説明文で出品する。
「後は結果待ちだな」
商売相手がプレイヤーなので、結果が出るには時間が必要だ。NPC相手に工作機械を販売するのは、ラグがなくて楽ではあるんだがな。
「早く宇宙船を開発できるようになりたいもんだ」
そんな事を考えながらログアウトした。
さて平日は仕事をこなすのが当たり前。気になる事があってもそれで手を止めてはかえって帰りが遅くなるだけ。
いそいそと作業をこなし、早すぎて他人の仕事を押し付けられないように調整しながら業務を終わらせる。給料分は働いているのだから文句はないはず。
家に帰って用事を済ませ、1時間でもログイン時間を稼ぐ。正しい社会人の在り方だ。
「ただいま〜」
「おかえりなさい、マスター」
いつもの挨拶にほっこりしつつ、明日の仕事に差し支えない様にやることをやっていかねば。
「お、売れてるな」
落札履歴を見ると時間はまばらでそれぞれ別の人なので、これらの人が使って効果を感じてくれたら販売は伸びるかもしれない。
ひとまず一番使用頻度が高いであろう中口径粒子砲をまとめて出品しておく。
武器自体は汎用素材と特殊鉱石で作製できるのでほぼ自前で用意できるので、売上のほとんどはそのまま利益になる。とはいえ単価は安いので今のままだとそこまでの稼ぎにはならないな。
「オークションの出品数は限られてるし、まとまった受注を取らないと収入源にはしづらいか」
まとめた販売となると連合に売るのが確実だろう。唯一繋がりのあるFoods連合に広告を入れてみることにした。
『通常兵器より攻撃力の上がった武装をお求めではありませんか? レンタル試用も受け付けます!』
などとキーマさんに送ってみた……ら、すぐに返信があった。
『オークションで話題になってる奴か。やっぱり君だったんだな。話を聞かせてくれないか』
おおう、話題になっていたのか。チェックしてなかったや。とりま、キーマさんにアポをとって、連合ロビーに行くことになった。
「いらっしゃいませ、霧島様」
「どうも」
ベティに案内されて、連合のロビーへと入っていく。既にキーマさんが待っていた。
「やあ、呼び出してすまないね」
「いえ、うちには応接室とかないんで」
連合と違って、うちはパーソナルルームしかない。別に散らかっているわけでもないが、人を招くのはなんとなく抵抗があった。
「まずは礼を言わせてくれ。修理機器がかなり助かっている。修理時間が減ったのがかなり好評だ」
連合内で共有している修理用工作機械は、修理コストが高くなる全損や大破した人から優先的に使っているらしい。そうなると当然、修理に時間が掛かるので順番待ちが発生してしまう。
そこに工作機械のアップデートで修理時間が短縮された効果が大きく出たようだ。その上で台数も2台になった事で、スムーズに修理が回るようになったらしい。
「それにフウカくんもビシバシ、うちのを鍛えてくれてるようだしね」
「アレに関しては俺自身が絡まれるのを押し付けた形なんで、申し訳ないです」
「いやいや、助かってるよ」
フウカ自身が楽しんでる間、俺への矛先はそれるんでかなり助かる。いっそ、俺よりちゃんと強い人を見つけて切磋琢磨して欲しいところだ。
「で、今度は攻撃力アップの武器だったかな?」
「はい。既存武器の性能を向上して、だいたい5%ほど威力が上がります」
「ふむ」
上がり幅としてはそこまで大きくないが、それでも強くなるというメリットは大きい。同じ武器で撃ち合っていても、一方的に勝てるようになるのだ。
「これは中口径粒子砲だけじゃないよね?」
「はい、キーマさんにならこちらかと思って用意してきました」
レールガンの最大口径モデルに攻撃力アップを付加した物だ。一発の威力が高いレールガンは、攻撃力アップの影響も大きくなっている。
「さすがだね。新星系に入って、敵が硬くなってるから威力アップは純粋に嬉しいよ。試用期間なしでも構わないんだが」
「そこはまあ、思ったのと違うとなった時に、次の商売がしにくくなりますからね」
「……ふむ、もう次を考えてると」
「あ、ま、まあ、色々と、へへへ」
危うく口を滑らせそうになってしまった。連合の人数で生産分野に乗り出されると、個人零細のウチは一気に飲み込まれる可能性がある。
手の内はあまり見せずに、顧客として接しておきたいところだ。
「ウチとしても霧島くんと優先的に取引できる状況は大事に思っている。探られたくない腹を暴くような真似はしないよ」
「そ、そういってもらえると、助かります」
さすが大手連合のサブリーダー、交渉にも慣れていて俺の心を見透かされている様だ。
「じゃあ、他にも幾つか置いておきますので、使用感など教えてもらえると嬉しいです。取り付けは修理用工作機械で、できるんで」
「ああ、分かった。連合のみんなにも使ってもらって、聞いておくよ」
「はい、お願いします」
主導権を握られたまま、交渉は終了してしまう。
やっぱりNPC相手に商売した方が身の丈にあってそうだ……。