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自己修復の終わったハンマーヘッドと合体し直して探索を続けていると、小惑星帯を見つけた。レーダーで確認しようとするとノイズが走っていて上手く探査ができなかった。
「なんだこれ?」
「さて?」
シーナも首を傾げている。攻略に関することはアドバイスできないらしいので、実は知っているのかもしれないが。
小惑星帯に近づいていくと、何やら揺らめくものが見えた。
「こんぶ?」
「いえ、ワカメの様です」
「ワカメか〜そういえば、オークションにあったな、宇宙ワカメ。という事は採取できるのか」
「はい」
「でも中に何かいるんだろ?」
「さて?」
コテンと首を傾げるシーナだが、ここは無理する場面じゃない。地図にマーキングだけして深入りせずに去ることにした。
「またワカメか」
「あれはコンブです。マスターの目は節穴ですか?」
「ぐぬぬ……」
普段から見分けている訳でもない海藻を間違ったくらいでそこまで言わなくても……。
この宙域にはそこそこの小惑星帯があって、近づいてみると、レーダーの阻害と海藻っぽい宇宙ワカメやコンブが生えている。採掘ポイントであると同時に、ゴブリンの様に小惑星帯に住む他次元生物もいそうなので深入りはしない。
「お、あれはサンゴだな」
「そうですね」
やはりこの宙域は海底を思わせる生物がレイアウトされているようだ。となると、コバンザメとかもいるのか……でもコバンザメがいるならそれが張り付く巨大な生物もいるかもしれない。
レイド級のクジラはいないだろうが、単体火力では厳しい敵が増えそうだな。
「しかし、海藻が生えてるとレーダーに影響出るのは厄介だな」
この宙域は粒子砲が使えない。そのため、メインウェポンはミサイルが主流になりそうだが、レーダーが阻害されると、ロックオンもしにくくなるはず。
となると、使えるのはレールガンだけとかなり絞られる。
「俺の場合は高速振動剣があるけどな」
それでも海藻揺らめく中、視認もしづらい。苦戦は必至に思えた。何か抜け道があるんだろうか?
そんな事を考えるうちにようやく宙域を一周できた。マップは埋まったものの、小惑星帯を中心に海藻のあったエリアは詳細が分かっていない。
「もうちょっと準備してから詳しく探索するかな」
一度ステーションに戻った俺は、続けてDarkronへも行ってみる事にした。Bravoサーバーを経由して、宙域へと飛び出すと視界は黒一色で、星が全く見えない。光を吸収する粒子が宙域を覆っているので、視界が全く利かないのだ。
なのでレーダーを頼りに探索を進める事になる。
「ハンマーヘッドのレーダーがあれば問題ない……はず」
とはいえ周囲は真っ黒。前に進んでるかも分からないような宙域だ。
「これ、ユーザーに不評なんじゃないか?」
「ええー、開発に対するご質問にはお答えできない規則となっており〜」
「日和見な政治家みたいな意見は求めていない!」
とはいえサポートシステムに回答は無理だよね。
モニターは真っ黒で、レーダーを頼りに宙域をさまよいながらマップを埋めていく。
「暗黒物質、ブラックマターが手に入るんですよね?」
「ここで得られるのは、吸光物質であって、変なファンタジー物質ではありませんよ?」
「ふむむ……まあ、採取はしておくんだけど」
光を反射しないというのは一見すると、隠蔽に向くように感じるが、実のところ光の反射の中に穴ができるので、全然隠れることはできない。
船体の塗装に使っても、星空の中に1箇所だけ、星がない区間があるような感じだ。
光を集めて武器として使うレーザーに対しての防御効果を発揮しそうにも感じるが、反射せずに全て受け止めてしまうので、逆に大きなダメージを受けてしまう気がする。
盾のように受け止める物として使えば役にはたつのだろうが、そもそもレーザー兵器は威力が低めでメインウェポンではないから対策の優先度は低い。
「液晶パネルの黒として使えば映えるんだろうけど」
今のところ吸光物質を集めても使い道は思いつかなかった。
視界の利かない中でぼんやりと探索を続けていると、唐突に警告音が鳴り始めた。
「敵影確認、海賊です!」
「なっ」
シーナの声に反応して、スティックを操作。機体を大きくスライドさせると、進行するはずだった場所に粒子砲が走った。
レーダーに発砲した機影が3つ映っている。
「さっきまでいなかったよな!?」
「完全に静止していた様です」
視界の利かない中、宇宙を漂っているだけの状態は、宇宙船なのか極小の小惑星なのかゴミなのか判別できない。それをいちいち拾っていてはレーダーには影だらけになってしまうので、条件が揃ったものだけがレーダーに映るようになっていた。
エンジンを切って漂ってるだけの海賊船が待ち伏せ状態のところに、俺が突っ込んだという事か。
「敵は中型の戦闘機イーグル型です。カスタマイズは不明」
初期戦闘機のファルコン型をそのまま中型機にしたようなイーグルは、汎用性の高い機体で扱いやすい。しかし、中型機相応に火力が増しているので敵としての難易度はかなり上がっている。
「ミサイルが来ます」
「くそっ」
ロックオンアラートの後、シーナの声に合わせて舵を切る。視界のない中、レーダーだけが頼りだ。
「前方に小惑星」
「おおっと」
スクリーンに小惑星を示すマーカーが灯り、それを慌てて回避する。見えないだけで宙域には色々と物が漂っていた。
この宙域は海賊が待ち伏せに使うだけあって、多数の物が散乱するゴミ溜まりみたいな場所のようだ。
戦闘速度に上がると、漂うだけの物体に対する脅威度が上がる。静止する岩に触るだけなら怪我することもないが、自ら勢いよく突っ込んでいけば大怪我するだろう。
先程までは脅威となっていなかったゴミ類が、こちらが加速した事で障害物としての条件を満たし、どんどんとレーダーに映っていく。
「うへっ、こんなに障害物があったのか」
後方から迫る敵機と前方に現れた障害物。一気に窮地へと追いやられていた。
「破壊可能な物を色分けして」
「了解、破壊可能な物は赤にします」
モニターに映るマーカーが色分けされて、表示されるとそれを粒子砲で壊しながら進路を確保していく。
そうやって破壊できるものを壊して、できない物を盾にする様に飛行を続けると、後方の3機との距離が離れはじめた。
どうやら純粋な操縦技術では俺の方が勝っているらしい。まあ、不意打ちで倒せなかった時点である程度は勝敗が決まっていたか。
そのまま破壊不可能な小惑星をかすめるように飛行を続けて距離を稼ぐと、やがて諦めたのかUターンして離れていった。
戦闘速度から巡航速度に落して宙域の探索を再開する。逃げ回ったおかげで探査マップが歪になってしまった。
「かといって戻るとまた絡まれる可能性もあるし、外縁から埋めてくか」
海賊のいた宙域を離れて他の部分を埋めていくことにする。
「しかし、この宙域は他次元生物はいないのか?」
「さて?」
そこは自分で調べてくださいという運営からのお達しだろう。速度を落したことで、脅威となる障害物は減少し、レーダーに映らなくなる。
ただ海賊船が息を潜めて待ち構えているとなると、デブリの類も注意しないといけないな。
「宇宙船サイズの物は表示してみて」
「はい」
するとレーダーには多くの点が表示されて塗りつぶされた様になってしまった。
「こんなに物が溢れているのか」
「小惑星の欠片が多いですが、宇宙船の残骸などもありますね」
「海賊が出没するって事は被害者もあるんだろうな……でも、こんな宙域を航行する船なんてあるのか?」
「資源探査の船はある程度来ているかと」
そこに金目の物があれば、探そうって人はいるか。しかし、海賊がいるってのは分からんな。獲物を見つけるにも目が見えないのは厄介だろうに。
……違うか。逆に探されないためにこの宙域に居る可能性があるな。ここは狩場ではなく、隠れ家とするならうってつけかもしれない。
となるとさっき襲ってきた海賊達は、侵入者を排除する監視役か。するとあの辺りに海賊達の基地が隠されているかも。
「ふうん、海賊の宙域か。そういえばデフシンの海産物の出品は目立ったけど、ダクロン産の出品物は分からなかったもんな」
海賊船が相手となると、手に入る物も宇宙船がメイン。オークションで売られていたとしても星系の特色はわからないだろう。
「掘り出し物のパーツとかあるかもしれないな」
食事の概念がないSTGでは、デフシンの宇宙海産物とかどう使えばいいのか分からないが、宇宙船のパーツなら何とでも使えそうだ。
生産職としてはこっちの星系の方がおいしいかもしれない。まあデフシンの小惑星からとれる鉱物も調査はしていかないといけないが。
「グラガンのスカラベも倒してみないと鉱石取れないし……どこから攻略を進めるかな」