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Foods連合の面々に対人戦の嫌がらせの数々を伝授したら、『腹黒参謀』の呼び名をもらってしまった。対人戦のあるゲームをある程度やってたらこの程度は身についちゃうんだけどね……。
「フウカ相手に粘れるようになれば、BJ相手でもやれると思うんで」
「がんばれ」
「あ、ああ……」
フウカの感情のこもってない励ましに虚ろに応えるパイロット達。その壁は高すぎたのかもしれない。
Foods連合に修理用工作機械を納品して格納庫に戻ると、いよいよ新星系へと探索に向かうことにする。
「そういえば合体機の名前を考えてなかったな」
「ハミングヘッドとかでは無いんですか?」
「そんな適当に頭としっぽをくっつけた様な奴じゃないのがいいなぁ」
とはいえ適当に考えてもいい案は出ないから保留だな。そのうち思いつく事もあるかもしれない。
「とりあえず出発するか、向かうのはデフシンの方かな」
「ハンマーバード発進」
「もうハンマーヘッドのハンマー部分は無いけどな」
ステーションを発進して、ゲートへと向かう。そこからAlphaサーバーを経由して、Difusinサーバーへと移動する。
宇宙空間はほんのりと緑色のモヤがかかっている感じだった。試しに粒子砲を撃って見ると、みるみるうちに細っていき、有効射程の半分もいかないうちに拡散してしまった。
粒子砲は荷電粒子を束にして撃ち出す武器だが、荷電というのは磁石の様に互いに反発しあっている。それを外側から封じる様に収束して撃つのだが、時間とともに収束する力が弱まっていき、拡散してしまう。
この宙域ではその拘束力を急激に減衰させる物質が漂っているために、射程が極端に短くなり威力もでなくなってしまう。その辺を人為的に生み出すのがBJも使っていた防御幕というわけだ。
「この辺の粒子も採取できる?」
「はい、マスター。量は少ないですが、サンプル程度は採取可能です」
「じゃあひとます確保で」
ゲートを離れて宙域へと入っていく。情報収集がメインなので最高速は出さずに星系内を塗りつぶす様に進んでいく。
恒星デフシンには7つの惑星が連なっていて、幾つかの小惑星帯も散見される。鉱石を集めるという意味では探索しがいのありそうな星系だ。
そして次元の揺らぎも確認できるので、他次元生物もそれなりにいるのだろう。今回は探索メインなので避けるように進んでいく。
「やっぱりハンマーヘッドのレーダーは楽だけど、もう少し範囲を広げたいなぁ」
「人間、最初はありがたみを感じるのに、すぐに慣れてさらなる物を求めてしまう。欲深い生き物ですね」
「哲学的な話をするじゃないか」
「私も人間を知り、よりマスターの助けになれるように努力していますから。褒めていいんですよ?」
「……最後の一言がなければ褒めていたかもしれない」
敵を避けながら宙域のマップを埋めていく作業は、新しい発見があったとしても、実際に近づいて確認するには危険が伴う。まずは危険を避けて大雑把に把握するだけなので、緊迫感は薄くて暇ではあるんだよな。
その間はシーナと雑談して過ごすので、無駄知識ばかりが増えるシーナも重宝する。
「もはや俺にはなくてはならないパートナーだ」
「唐突に何をいっているんだ、お前は」
「マスターの心の声を代弁してみました」
なんと言うか、俺の心をシーナに読まれるとか落ち着かないんだが。ただ予測の精度が上がってきているのが恐ろしい。
そんなシーナとの心理戦を展開していると、ふと違和感があった。長年ゲームをしてきたことで培われた勘というヤツだ。勘というのは、人間が積み重ねた経験からくる本人が説明できない予測の様なものなので、バカにはできない。
「レーダーに異常はない……が」
「どうしました、マスター。ボケました? ボケは私の担当ですよ?」
そんなシーナの戯言は捨ておいて粒子砲を撃ちつつ軌道を変える。この宙域の特性で撃ち出された粒子砲の弾はすぐに拡散を始めるのだが、細かく散っていく粒子の動きに、歪みが混ざっていた。
「敵がいるぞっ」
その声に反応した訳じゃないだろうが、何も居ないように見えた宙域が唐突に色味を帯びたかと思うと、平たい物体が襲いかかってきた。
「ヒラメかカレイか……」
「あれはエイですね」
瞬間的に加速してこちらに向かってくるエイは、ハミングバードに匹敵する加速を見せている。機動力が低下している合体機だったが、予め軌道を修正していたのが功を奏して初撃を回避できた。
が、通り過ぎたエイのしっぽから、棘が発射されてシールドを貫通して直撃。機体が揺らされた。
「おごごっ」
「ハンマーヘッドの左翼に被弾、飛行には支障なし……異常な電磁パルスを検知、回路にダメージが入ります」
「エイといえば毒針かよっ。ハミングバード分離」
「了解」
エイの棘を受けて何やらヤバ気な雰囲気を感じてハミングバードを分離させる。エイの方も向きを変えて、こちらへと戻って来ようとしていた。
「ハンマーヘッドを狙われると厄介だから迎えにいくか」
分離した後、慣性のままに進んでいくハンマーヘッド部分には回避能力がない。それを守るためには、こちらから攻撃に出たほうがいいだろう。
ハミングバードの機動性で一気に加速、向きを変えたエイへと粒子砲を撃ち込む。が、すぐに減衰してしまってほとんどダメージを与えられない。対するエイは下面にある人の顔の様に見える口を開き、こちらへと迫ってきた。
「怖えょ」
心霊写真に写る人の顔みたいなぬぼっとした面が迫ってくるのを回避しつつ、高速振動剣を撃ち込む。すると剣が刺さったエイが暴れ始めた。ワイヤーで繋がったハミングバードも揺さぶられる。
「お、おおっ、一撃じゃ倒せないのかっ」
今までかなりの威力を見せてきた高速振動剣は、大抵の敵を一撃で屠れていた。しかし、新星系のエイはそれに耐えてきた。
ただ高速振動剣は元来小惑星を溶断する為に開発した武器。刺さった後こそ威力を発揮する。継続的にブラスターを照射し、対象へと熱を伝えて溶かしていく。
更には刀身に仕込んだスラスターによって相手を逃さず切り口を広げていった。こちらが離れないのを見て取ったエイはしっぽを振って叩きにくるが、何とかそれをかいくぐり距離を保つ。しっぽの付け根から棘を撃ちだしてくるのにも注意しつつ、何とか耐えしのんでいるうちに、高速振動剣が相手を分断した。
大ダメージを受けたエイは、それでもしばらく暴れていたが、二度目の攻撃で何とか沈黙。撃破することができた。
「やっぱり敵が強くなっているな……」
グラガンにいたスカラベは巨体で攻撃が効きそうになかったので戦闘を行ってなかった。レイドを除けば新星系で初めての戦闘。相手が強くなっているのも頷ける話だ。
「しかし高速振動剣で一撃じゃないとなると、戦い方を考えないとな」
ワイヤーの長さ100mは、宇宙空間でいうと白兵戦距離。その中でムチの様にしなるしっぽと叩きあいとか、正直身がもたない。
この宙域では粒子砲が使えないとなると、候補はレールガンかミサイルとなってくる。やはり遠隔制御ユニットを使用した護衛編隊に、ミサイル機を導入するのが優先事項かな。
「ハンマーヘッドの様子はどうだ?」
「撃ち込まれた棘をレーザーで除去、その後回路のダメージを精査中です」
ウィルスを撃ち込まれたというよりは、妨害電波を発生させていた感じらしい。棘を破壊すれば、新たな被害は出ないようだが、ショートした回路の修復が必要で、復帰には少し時間が掛かる。
まあ時間があればナノマシンで修復できるとの事なので、ハミングバードで機動を確認しながら5分ほどを過ごした。
「戦闘が終われば問題ないが、戦闘中に5分は致命的だな」
「一応、回路遮断等で応急処置をすれば、着弾位置によって機能制限が入る形になります。ただ放置して爆発なんて事にはなりません」
「ふむ……武器が使えなくなったり、エンジン出力が落ちたりって事か。何にせよ厄介ではあるな」
他次元生物に新たなる脅威を感じながら、新星系の探索を進めた。