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夕食を食べながら状況を整理する。
Foods連合に自分の持っている修理用工作機械を納品して、Lv1の工作機械を受け取ってきた。これのアップデートは現在行っている。
それと同時に自分用の工作機械を作り直していた。
修理用工作機械は、宇宙船のメンテナンスを行うための工作機械で、機体の修理はもちろん、兵装の換装なども行える。これがないとせっかく作ったハミングバードとハンマーヘッドの接続パーツを組み込む事ができない。
開発用工作機械は、新たな兵装の開発を行える他、工作機械自体のアップデートを行える。今回問題になっているのは、自己の開発中に他人のアップデートを請け負ってしまっててんやわんやしてる点だな。
部品作製用工作機械は、開発用で設計した新装備や既存の兵装を作ることができる。ミサイルや探索ポッドといった射出兵装も量産できるので、今後ミサイル機を随伴するには必須の機械だ。
ステーション外装用工作機械は、ステーションの建造に関わるパーツを作ってくれる。基本的には納品任務をこなして資金を稼ぐためのものだが、新ステーションの建設が早まったり、要塞砲の作製なども行える。
そして俺が最も重宝しているのが、ステーション内装用工作機械だ。これはパーソナルルームの机や椅子といった家具を作るのがメインに見えて、その実は、ステーション内で使用する機械の作製も行える。
つまりは工作機械全般を作り出すことができる俺の錬金術、金のなる木とでも呼べる機械だ。
まだ宇宙船全体を自作する事ができない状況なので、工作機械を販売するのが一番稼げている状態だ。おかげで複数の宇宙船を所持できている。
俺は複数の宇宙船に遠隔制御ユニットを積むことで、一人で複数の機体を操って編隊を組むことができていた。
ただ遠隔制御は、プレイヤーより戦闘能力が劣るので、そこをフォローしないといけない。今までは汎用機のファルコン型を使っていたが、射撃精度が低いので粒子砲は当たりにくい。弾自体に誘導性能があるミサイル機に変更予定だ。
「そのためにも当座の資金は必要なわけだが」
工作機械のNPCへの販売価格は、サービス開始当初は初期型宇宙船1機分だったが、今では6割まで減少している。効率で見ると約半分だ。まだまだ撃破任務などに比べると稼げるが、先が見えてるのも事実。
「今後、中型、大型の戦闘機がメインになったら、全然足りないからな」
コストが5倍10倍掛かるようになると、今の稼ぎでは追いつかない。撃破任務の報酬は新星系が解放されてかなり上がっているらしいので、生産メインで稼いでいる俺みたいなの以外は順調に乗り換えが進むだろう。
新たな活路としては、まだ有効な利用法が広まっておらず、市場にダブつき始めている各鉱石だ。俺は開発の過程でそれらが兵装の性能アップに使える事を知っているので、利用する事ができる。
「しかし、ネックなのは撃墜されてしまうと兵装が壊れる点か」
損傷を受ける程度だと壊れることは滅多にない兵装だが、ライフがゼロになり撃墜されてステーションに戻されると兵装は破壊された事になる。
そうなるとチューンナップして付け替えた兵装はまた買い直しになってしまう。そこまでの価値をプレイヤーが見出すかどうかに掛かっていた。
「やっぱり、薄利多売で広めるのが吉か」
高級品で優越感に浸るよりも、使い潰してなんぼの兵器。質より量で稼ぐ方が向いているだろう。
「機体を壊さないプレイが広まっていったら、一点物の高級品を作る方向で進めよう」
となると必要なのは部品作製用工作機械になってくる。オークションで鉱石を仕入れながら、工作機械を充実させていこう。
「そして気になっているのは、他の新星系だな」
AlphaサーバーやBravoサーバーのゲートが開かれた時に追加された2つの星系デフシンとダクロンの探索も行っていきたい。
新素材の追加もあるが、純粋に新しい星系というだけでワクワクする。
「そのためには新しい機体の完成だな」
真紅の海賊BJによりもたらされた合体機。その構想からハミングバードとハンマーヘッドのドッキングシステムを開発した。後は機体に取り付けるだけだ。そのためには修理用工作機械が必要になるが、現在鋭意製作中となっている。
Foods連合とフウカの模擬戦中に気づいたBJの高加速性能。それは後部ユニットの推力を純加速に割り振って、機体制御に関しては前部ユニットが担当していたからのようだ。
なのでハンマーヘッドの推力を後方にまとめ、巡航速度のアップを図る。そして機体の制御に関してはハミングバードの機動力を活かすことにした。
「ただ機体の重量は上がっているからハンマーヘッドよりも機動性は劣るよな……そうか、ハンマーヘッドの軽量化も進めよう」
カニの甲羅を使った装甲は、通常の装甲より耐久性は落ちるが軽くなる。ハミングバードはカニ装甲に置き換えて、武装を充実させたが、機体が軽くなればその分機動力も上がっていた。
ハンマーヘッドの装甲も置き換えれば、機動力の向上が見込まれる。
「Lv2の修理用工作機械を普及させるためにもカニは狩る必要があるしな。カニ退治を進めるか」
工作機械を作っていくにはまだ時間がかかる。ハンマーヘッドの一部をバラして乗れない状況で、新星系には行けないので使えるのはハミングバードのみ。
となればハミングバードでやれるカニ退治をこなすのが良いように思えてきた。
「よし、方針が決まれば行動開始だ」
「ただいま」
「おかえりなさいませ、マスター」
ログインし直した俺を、いつものようにシーナが迎えてくれる。その口元にはご飯粒が付いている。
俺がログインしたから慌てたんかな……ってなんでやねん!
心の中で突っ込んで、あえて指摘はしない。レディに恥をかかせてはいけないからな、紳士的に振る舞おう。
「修理用工作機械の作製はどうなってる?」
「はい、完了しております」
「ぶふぉっ」
澄まし顔で答えたシーナの上の歯は、お歯黒を付けたように海苔がくっついていた。その不意打ちに思わず吹き出してしまって、シーナにガッツポーズされてしまった。
「ムダに芸が細かいんだよ」
「お褒めにあずかり光栄です」
慇懃に礼を返すシーナに気を取り直して指示を出す。
「Lv2へのアップデートと、次の工作機械の作製を進めてくれ」
「次はどの工作機械ですか?」
「修理用……いや、先に内装用を増やして生産効率を上げよう」
「了解しました」
Foods連合から受け取った工作機械のアップデートが終わってるので、ハンマーヘッドへジョイントパーツを組み込む作業を開始させる。
そして自分はカニを倒すためにハミングバードへと乗り込む。随伴するマンタには、探査ポッドを忘れないように積み込んでおいた。
「ハンマーヘッド用のカニ甲羅を集めるからその段取りで」
「了解しました」
一発芸で笑いを取ったことで満足したのか、平素の有能な秘書モードに戻ったシーナは、着々と準備を進めてくれる。
初期ステーションを発進すると、先程ゴブリンを全滅させた小惑星帯へと向かう。探査ポッドを打ち出して、小惑星の中からアップデートに必要なレア鉱石を内包したものを探し出した。
マンタを連れてきているので、採掘してもいいのだが、カニを出現させるだけなら高速振動剣を突き立てるだけで事足りる。採掘に使用するブラスターと基本的には同じ仕組みの剣は、小惑星を溶融しながら突き進み、レア鉱石をむき出しにした。
すると周辺の宙域に次元振動が発生して、次元の隙間からカニが這い出てきて襲ってくる。粒子砲を軽減する泡を吐き出し、ハサミで生み出した次元断層で攻撃してくるカニに対して、ハミングバードの機動性を利用して回り込み、無防備な背中へと高速振動剣を突き立てると、あっさりと撃破できた。
ハミングバード様々のあっさりとした撃破劇だ。改めてマンタにレア鉱石を採掘してもらいつつ、俺は次の小惑星を目指した。