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キーマさんが取り出してきた鉱石は、初期星系で採れるグレード1の物だ。ただ中には見たことのない色の鉱石も混ざっている。撃破任務専用の鉱石なのか、星系独自の物があるのか。単に俺が見つけられてないだけという可能性もあるな。
「これですね。これがあれば工作機械をアップデートできます」
「ほう」
「ただアップデートには、開発用工作機械が必要となるのですが……」
「それはないな……」
「だと思うのでこちらで処理を行います。修理用工作機械を回収してその間修理が止まっちゃうと困ると思うんで、こっちでアップデートしたのを納品します」
「え?」
「Lv2の修理用工作機械を納品しますので、その時にLv1の修理用工作機械を渡してもらえたらOKです」
「それだと機械が余るだろ?」
「それも加工して売れば稼げるんで」
Lv2の工作機械はまだ売りに出していないが、オークションならそこそこの値段で売れるだろう。
「いや、それだとこちらが受け取りすぎだ。交渉は公平でないと禍根を生む」
「俺は別に気にしてないんですが……」
「どこから風評が広まるか分からないからな。Foods連合は成金王の犬とか呼ばれる可能性まで出てくる」
「えぇーっ」
そんな訳があるのか……?
ネット社会の情報操作、炎上騒ぎは自らも体験したので一概に否定はできない。
「わ、分かりました。しかし、どうしましょう?」
「ウチの修理機器をアップデートしたら、それもウチが買取ろう。それとさっきの鉱石の中で欲しいのがあれば譲渡する」
「ふむ……」
修理用工作機械は高価で買い手がつくまでに時間が掛かる事を考えれば、即売れるというのはメリットか。
鉱石の中には見たことのない物もあったし、解析が捗りそうだ。
「わかりました。それでいきましょう。とりあえず、1台目のアップデートに30分ほど掛かるんで、それが終わってから納品に来ます」
「うむ、ありがとう」
キーマさんと取り決めをして俺は一旦格納庫へと戻ることにした。
ちなみにフウカは反省会の最中から、ずっとプレイルームでナマケモノのスロスとキーマさんの白熊相手にゴロゴロしていた。
「ああ、そうか……」
格納庫に戻った俺は、今持ってる工作機械がそのまま渡せる事に気づいた。合体用のジョイントパーツが開発されたら、それを組み込むために必要だが今現在は修理する機体はない。
「じゃあこれをそのまま渡して……」
あれ、アップデートをしようにも開発用工作機械は、ジョイントパーツを開発しているぞ?
「どどど、どうすれば」
「マスターのおっしゃっていた様にFoods連合には今ある修理用工作機械を渡せば良いかと。その間にLv1の工作機械を自作しておいて、開発用工作機械の作業が終わればアップデートを開始すれば良いです」
「お、おおぅ」
「今からなら素材採取からでも時間があるかと」
シーナのスケジュール管理機能によって整理された情報に従って行動を開始した。
工作機械の作製に必要な鉱石は、初期星系で採れる。ゴブリンの相手になるので、ハミングバードで出撃。マンタを連れて採掘&ゴブリン撃破を行う。
久しぶりのゴブリン戦。どうかなと思ったが、やはり初期の敵ということだろうか、相手の攻撃がぬるく感じた。
「敵が止まって見えるなっ」
ゴブリンの攻撃は、接近してからの殴りか、遠くからの投石。粒子砲が飛び交う宇宙戦に比べると全体的に遅い。
小惑星帯という狭い空間ではあるが、ハミングバードの高機動性能をもってすれば、こちらのフィールドとして戦える。
更には刺突槍の様に接続したまま使えるようにした高速振動剣は、接近戦を仕掛けてくるゴブリンにはかなり有効だった。
「まさに無双!」
ゴブリンのボスに高速振動剣を突き刺してとどめを刺した俺は、自分なりに腕が上がっているのを確認できた。
「比較対象がフウカとかだと、自分の不甲斐なさばかりが目立つからなぁ」
ゴブリンを掃除できたので、マンタに工作機械用の素材を集めてもらう。あとはカニからアップデート用の鉱石を採れたら言うことないんだが……探査用ポッドを忘れていて、鉱石を含んだ小惑星を見つける事ができなかった、残念。
ハンマーヘッドとドッキングできるようになれば、レーダーも常備できるんでそんな心配はいらなくなる。開発に期待だ。
わずか10分ほどで戻ってきた俺は、修理用工作機械の作製を開始。開発用工作機械の作業進捗を確認しつつ、オークションの動向をチェックしていく。
「改めて市場を見てみると、鉱石の出品も多いな」
撃破任務で獲得できる鉱石は、長らくその使い方が分かっていなかった。最初は物珍しさから高値で出品されていたが、定期的に採れる事が分かり出品者が増えるに連れて値下がりが起こっていた。
その中にはキーマさんに見せてもらった鉱石やアップデート用の鉱石も混ざっている。
「これは……稼ぎ時かっ!?」
β終盤のビックウェーブを感じる。とりあえず目立たぬ様にまだ持ってなかった鉱石を少量ずつ確保して、開発機に読み込ま……ああっ、パーツ作製中で読み込めないっ。
ならば開発機をもう1機用意し……ああっ、修理用工作機械を作っているっ。
「ご利用は計画的に」
「ぐぬぬ……」
約束通りLv2の修理用工作機械を納品。その際に今まで使用していたLv1の工作機械を回収。更には報酬が前倒しで受け取れたのでホクホクと格納庫に帰る。
次の納品は明日にしてもらったので、多少時間に余裕ができた。
「ただ今後を考えると、各工作機械を2台ずつ揃えた方が無難だな」
「他のプレイヤーが聞いたら発狂ものですね」
やりたい事ができない時間というのは苦痛だ。
俺が資金繰りに苦労していないのは、工作機械を自作できている点。ここは流石に公表したくない部分だな。NPC相手に商売しても資金を稼げてはいるが、それでもサービス当初に比べると買取は下がってきている。
もし広くプレイヤーに広まれば、市場経済が組み込まれているSTGでは供給過多で値崩れ、なんて事も考えられた。
工作機械は初期型宇宙船一隻とほぼ変わらない価格。NPCへの販売は当初等価だったが、今は6割程度まで落ちている。
次なる商品開発が求められていた。
ひとまず2機を接合するジョイントパーツが完成したところで、鉱石の解析を行う。
「ふむ、ジャマー適性に情報解析適性、他次元生物特効か」
鉱石は兵器作製時に加える事で、性能をカスタマイズできる。開発用工作機械を持つ人が少ない現状では、その事が知れ渡っていないので利用する人はすくないが、情報が出回れば鉱石の値段が上がってしまうだろう。
ジャマーはレーダーを阻害する機能、自らが隠れるステルスと違って、相手のレーダーにノイズを混ぜたりして妨害する効果が期待できる。敵に発見されて戦闘になってから、相手のレーダーによる射撃補正などを妨害に役立つはずだ。
情報解析は受け取った情報を分析する能力が上がるはず。となると遠隔制御ユニットの精度を上げるのに使えるだろう。
「やること増え過ぎだな……」
工作機械の体制が整うまでやれる事がない。いや、AlphaサーバーやBravoサーバーから解放された新星系に偵察に行けるか。
「よし、新星系への探索だ!」
「マスター、マスター。ハンマーヘッドは解体されてます」
ぐはっ、ジョイントパーツを付ける為にレーダーやらコックピットが外れた状態だった。
「ままならないな……ご飯食べてくる」
「いってらっしゃいませ」