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「さて……反省会を始めようか」
意気消沈している迎撃チームと、やや達観した様子のキーマさんが共有ロビーへとやってきた。俺達が座る4人がけテーブルの前に戦術ディスプレイが表示される。
「戦闘評価としては10対0でフウカ嬢の勝ち。こちらは目標である俺と迎撃チームの1機を落とされ、フウカ嬢には有効打が一撃もないままに終わった」
「ちょっと油断があったかな……」
「あんな方法で出し抜かれるとは思わなかった」
「ファルコンなら追いつけると思ったしなぁ」
チームのパイロットが口々に反省点というか、自分達の予想外だった部分を上げていく。それを聞いていた俺は、1つの結論を得た。
「なるほど……COM慣れしすぎているのか」
そのつぶやきに、キーマさんをはじめ、エースパイロット諸氏が俺を振り返った。
「どういう事だ?」
「Foods連合の人達は、特務曹長の下で撃破任務を多くこなしてきた。そのためにCOM思考、コンピュータの判断に慣れてしまっているんですよ」
STGのCOMはそれなりに複雑で飽きさせない思考が組まれている。しかし、コンピュータの処理速度で的確な判断を下してしまうと、人間には対応できない難易度になってしまう。
そのため、プログラマー達によって隙を意図的に組み込まれてるのだ。例えばパターン化された動きとか、攻撃の間隔とか。相手の攻撃を避けたら、こちらに攻撃のチャンスが来るといった『やられる事が前提の動き』が存在する。
しかし、対人戦ではそうではない。相手も全力で潰しにきているので、基本的に『やられる動き』なんてのはしてこないのだ。
逆にそんな動きがあれば誘い、フェイントである可能性が高くなる。
例えばフウカの動きだが、十字砲火から逃れる為にミサイルを放ち、目くらましをかけて下へと潜った。
COMであればそこから攻撃に転じてプレイヤーを襲ってくるだろう。
エースパイロット達もそれらの動きへの反応は鍛えられているので、フウカの発見は早いし、そこからの攻撃に備えるか、相手が攻撃体勢に入る前に撃破という流れはできていた。
しかし、フウカは人間で相手の動きを見ていた。自分の機動に食いついて反応を示した事で、攻撃に転じるのを止めて、さらなる誘いに切り替えたのだ。
「そんな事が……」
「キーマさんの狙撃に対してもそうですね。キーマさんは、フウカが避ける位置を予測して攻撃を行っていましたが、フウカは攻撃したのを見て回避を行っていました」
「ええ!?」
レールガンの弾は高速で飛来する。それだけを見て回避するのは至難の技だが、弾を発射するにはその方向に銃身を向けなければいけない。その動きを捉えていれば、発射の際のマズルフラッシュを元にタイミングを測ることができるのだ。
「ふむ……COM慣れか」
キーマさんは俺の分析結果を検討し始めた。
「しかし、ウチのチームは対人メインではなく撃破任務メイン。今から切り替える事はできないしな」
「そうっすね。といってBJにやられっぱなしというのも嫌ですが」
「フウカ嬢に手も足も出ない状況ですしね……」
Foods連合はキーマさんを中心とした撃破任務でポイントを稼いできたチーム。COM特化ではかなり上位に入っているのでそれを捨てるというのは得策ではない。
「そう言えば撃破任務をこなしているのに、どうやって海賊に襲われるんですか?」
「ん? 乱入されているんだが……その辺のシステムを知らないのかい?」
「すいません、あんまり撃破任務はやってなかったので」
キーマさんの説明によると、海賊行為を行う人間は撃破任務を行っているプレイヤーに対して、その任務に乱入する事ができるらしい。
その時に任務の目標だったCOMは攻撃を止めるので、乱入してきた海賊との勝負となる。乱入する側は、撃破任務を行っているプレイヤーより少人数で乱入しなければならないルールがあるので、戦力的には劣る。そこをプレイヤースキルで覆すのが、海賊行為の醍醐味らしい。
「乱入された時点で、受けていたダメージや使用した弾丸は補充されるので、プレイヤーの疲労感以外は、こちらが有利な状況なんだがね」
「でも海賊プレイヤーは大型戦闘機なんかで仕掛けてくるから、普通に強いですよね」
「奴らは船が全てだからな」
海賊行為を繰り返すとステーションの出入りが禁止され、パーソナルルームなども没収されてしまう。自分がカスタマイズできるのは、宇宙船のみに限られるのだ。
「修理などを請け負う闇業者はいるらしいが、ステーションの倍以上ぼったくられるみたいで、ダメージを受けずに倒すってのが海賊の基本思考だな」
「なるほど……」
数の劣勢を個の強さで覆すプレイヤー達か。フウカですら撃破できずに手こずっていたからなぁ。
「後は傭兵を雇うくらいかねぇ」
「奴らも結構、ぼったくってきますけどね」
「傭兵ですか?」
「ああ。乱入された後で救助要請を出せば、外部のプレイヤーが入って来れる様になるんだが、基本的に海賊は強いからあんまり人が来ない」
「そこに目を付けて傭兵団として、海賊狩りを請け負う連合ができてるんだが……奪われるよりマシだろって事で結構な額を吹っかけてくるんだよ」
「なるほど……」
俺が知らない世界が出来上がっていたんだな。
俺が海賊に遭わない理由は、ソロでしか入らないからそれより少ない人数では入れないからか。
「外部に頼めないなら、自分達で用意するしかないですね」
「とはいえ君が分析したように、うちはCOM慣れしている。乱入者用に人員を残したところで海賊に勝てるかは賭けになってしまう。いたずらに人員投入すれば、被害が広がるばかりだ」
「対人戦をメインにしている連合と提携するという形にしたいところですが……海賊の強さ的にはリスクが高いんですね」
対人戦が好きな人なら海賊という個人スキルで戦う人々との対戦も受け持ってもらえるかと思ったが、戦闘に負けると機体の修理やらで持ち出しが発生する。
修理用工作機械は船体の修理や武装の取り付けは行えるが、破壊された武器などは生産できない。そうなるとパーツを買って取り付けてとなるので、どうしてもコストが掛かってしまう。
そうなってくると傭兵団として活動している連合も、収支と言う意味では結構カツカツだったりするのかもしれない。
「となると修理コストを下げれば協力してくれる所も出てくるのかな?」
「そうだな。連合で所持している修理機器も順番待ちで、結局はコストを支払って修理しているメンバーも多いからな」
「となるとまずは修理用工作機械のアップデートと部品作製用工作機械の導入ですね」
連合所有の修理機器をアップデートできれば、多少は時間短縮になるだろう。武装類もノーマルなら汎用素材で作製可能。かなり経費が削減できるはずだ。
「まてまて、そのアップデートとは何だ?」
「工作機械に特定の素材を合わせるとアップデートできますよ。そうすれば修理に掛かる時間が短く出来ます」
「そ、そんな情報をいきなり渡されても困るんだが……」
「一段階目のアップデートは、初期星系で可能ですし、後生大事に抱えとく情報じゃないですよ」
そんな俺の様子にキーマさんははぁ〜とため息をつく。
「君が成金王だって事を忘れていたよ」
「忘れてくれてもいいんですよ?」
「忘れさせてくれないのは君の言動だけどね。正直、修理機器のアップデートの情報だけでどれだけ稼げるか」
「でも持ってる人は少ないし、それほどでもないでしょ」
「修理代をペイできるのが連合くらいだからな。それでも修理時間が短縮されていくなら話が変わってくる」
「ま、プレイヤーから巻き上げるよりはNPCから稼いでおくほうが、恨みを買わなくてすみますから」
「……その辺の余裕が成金王か。まあいい、君がそう言うならありがたく情報をもらおう」
「そう言えば、撃破任務の報酬の中にも鉱石ってありましたよね?」
「ああ、ドロップするが使い道が分かって無いから溜め込んである」
「ちょっと見せてもらっても?」
「……構わんが、本当にそんな……まあ、うん」
キーマさんは何かを諦めた顔で連合のストレージボックスを操作する。