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 選ばれた宙域は障害物のないフラットな空間。その端と端からスタートされる。互いの位置は分かった状態から始められている。

 基本的に障害物がない宙域は、防御側が隠れるものがないので不利な条件だ。しかし、攻める側が少数、特に1機しかいない場合は、障害物が無いことで相手をずっと見続ける事ができるので、防御側が有利になる。

 今回もバトル開始からフウカの位置は見失いようもない。奇襲される危険がないというのは、防御側が守りやすいだろう。


「さあ始まりました生意気女をぶちのめす模擬戦!」

「いや、シーナはなんでそんなにフウカが嫌いなの?」

「乙女の秘密です」

「さよか……」


 深く突っ込んだら負けそうな雰囲気を感じて、そっとしておくことにした。

 それよりもバトルの方が大事だ。


「改めて動きを見ると、BJのカスタマイズがよく分かるな。かなり加速性能に差がある」


 分離型の戦闘機は、2機分のコアを持っている。そのために直線的な加速性能はかなり上昇していたようだ。

 これが戦闘時の小刻みな機動性になると、機体の重量が足かせとなって、機敏さは失われてしまうのだろう。


 一方のファルコンは、良くも悪くもスタンダード。直線特化でも機動性特化でもなく平均的。オールラウンダーで汎用性は高いが、相手に高速で近づくといった事には向いていない。


「BJは今回のレイド戦でキーマさんを狙って長駆高速戦を仕掛ける前提だったんだろうな」

「BJは一匹狼らしいので、一撃離脱が基本戦術だと思われます」

「お、キーマさんが撃ったな」


 キーマさんが乗ったブラックベアは、レールガンが主武装として搭載された狙撃機。要塞砲ほどの威力はないが、まともに食らうと一撃で破壊されかねない威力を持っている。

 摩擦のない宇宙空間で質量を撃ち出すと、何かに当たるまで突き進む。実質、無限の射程を持つ武器だ。


 まだ宙域の端と端から少し縮まった程度なので、一方的な攻撃。光速には届かないもののそれなりに速い銃弾は、戦闘機の速度を遥かに凌駕する。

 レーダー上でもみるみるうちにフウカの乗るファルコンに接近し……そのまますり抜けた。


「おおっと、キーマの射撃は失敗。目測を誤ったかぁ!?」

「いや、フウカが避けたんだな。ぱっと見のカメラじゃわからない僅かな修正で避ける。フウカの真骨頂だよ」


 レールガンの弾は誘導性能や加速性能を持つわけではないので、等速直線運動を行う。来る位置が分かっていれば、回避するのは容易い。特に遠距離からの狙撃では、ルートをサポートシステムが予測できるので、対処がしやすくなっている。


「とはいえ、普通なら避けたのが目に見えるもんだが、フウカは機体1機分を見切って軌道を変えてる程度だから、傍目には避けていない様に見える。下手すると、キーマさんがわざと外した様にも見えるんじゃないかな」


 この辺りはBJも行っている。要塞砲の狙撃を最小限の動きで避けて、元の軌道に戻していた。最短距離をより早く詰めるための動きだ。


「しかし要塞砲と違ってレールガンはある程度の連射が可能。キーマさんが狙撃で名を上げてる理由は次で分かるはず……あれ?」


 ブラックベアから再度撃ち出された銃弾は、フウカに当たることなくすり抜けていく。フウカは動いたように見えない。キーマさんが撃ったのは散弾で目標に近づいた時に分裂、一定範囲に弾がばら撒かれる仕様だ。

 目標とどれだけ離れた位置でどれくらい分散させるかは、予め指定してから撃ち出されている。

 ファルコンの目前で分裂した弾は、ほとんど動かずに避けるフウカに合わせた調整のはずだが、そのことごとくを避けてみせた。


 高速で飛来する弾には動体センサーでマーカーが付く。その中でどこに隙間があるかを瞬時に見つけ出し、そこに機体が通せるかどうかを判断する機体感覚が、常軌を逸している。


『BJと思って挑めよ』

『『『『了解っ』』』』


 キーマさんの声で通信が飛び、迎撃チームが応答する。もう少し油断が続き、実際に交戦に入っていたらフウカの優位で進んでいただろうが、Foods連合の気が引き締まったようだ。



 迎撃チームとフウカが交戦距離に入る。

 4機編成カルテットの迎撃チームは、2機ずつのデュオに分かれて、左右から挟み込むように十字砲火を浴びせていく。

 それに対してフウカはミサイルを一発発射というか目の前に置いて、一気に下降。砲火を浴びたミサイルが爆発するのに紛れる形で姿を消す。


『下だ!』


 しかし、トップ連合の中でもエースのチームは直ぐにフウカを発見、対応していく。下降して見せたフウカに対して、迎撃チームも追いかけていく。

 そこでフウカは視覚トリックを仕掛けていた。

 機体を下降させるように前傾させてレーダーの下方へと逃げた後、すぐさま機体の向きは変えずにスラスターで上昇を開始していた。

 後追いする形で下降を始めた迎撃チームだったが、気づいた時には一瞬で上下の位置が入れ替わる。


 そして戦闘機で最も面積の広い上面をフウカの正面に晒した事になった。続けざまに中口径粒子砲が撃ち込まれ、更にはミサイルも追加。一気に過負荷に追い込まれて1機が爆散してしまう。


『散開して回り込めっ』


 チームのリーダーの指示に、3機が分かれて回避行動に出る。しかし、フウカの目標はあくまでキーマさんの乗るブラックベアだ。大きく回避してしまった3機を置き去りに、キーマさんへと距離を詰めていく。



「見事なもんだな」

「何がどうなったんですか?」

「ファルコンって典型的な戦闘機だからどうしても前に進むっていう印象がある。だからこう機首を下に向けると、下に逃げると思ってしまう」

「ふむふむ」

「実際、レーダーからは下に移動したように見えただろうしね」


 フウカは一旦下降したのは確かで、チームからも下だというセリフが出た。そして迎撃チームも機首を下げて下降に入ったのを見計らって、機首は下げたまま上昇に転じる。

 追いかける側は正面にフウカを捉え、自分が加速しているから徐々に近づいていく。そして初期型ファルコンというのがまたトラップで、迎撃チームの乗る中型戦闘機の方が速度が速いので近づいても不思議では無かったのだ。


 実際、グングン近づくフウカ機が、実は上昇している事に気づいた時には、彼我の高度は逆転して視界から消えてしまう。

 更には迎撃チームは機首が下向きで、フウカの機首も下向き。高度が入れ替わった時に、フウカの上面を抑えていたはずの迎撃機が、フウカに捉えられる形に入れ替わっていた。

 急にフウカを見失った機と、正面に捉える事が分かっていたフウカ。後はもう一方的な撃破に至るのが自然な流れだった。



「そして仲間を撃破された迎撃チームは回避行動を取らざるをえないが……」

「あの女の狙いは、狙撃機というわけですね」

「迎撃チームの機体の方が速度は出せるが、向きを変える間に距離はできている。キーマさんに迫る間に追いつけるかどうか……だな」


 迎撃チームは180度向きを変えフウカを追うが、宇宙空間で真逆の方向に進むには、まずは前に進む速度を殺して、向きを変えて加速を開始するか、ぐるりと大きな弧を描きながら向きを変えるか。

 どちらにしてもロスは大きい。


 迎撃機の2機はその場で機首を反転、後部のメインエンジンを吹かして進行方向を変える方法をチョイス。

 もう1機は旋回する方法を選んだ様だ。

 やがてフウカの後方に回り追いかける構図が出来上がる。

 粒子砲は光速で進むので攻撃は可能だが、有効距離に捉えないとエネルギーシールドに防がれてしまう。

 ミサイルもファルコンより早いが、まだ距離があるのでフウカに追いつくまでに燃料切れを起こすだろう。要は射程距離に捉えないと攻撃はできない。迎撃チームは必死に追いかけるしかなかった。



『俺も黙ってるわけにはいかないな』


 キーマさんもただ待つだけではない。迎撃チームと交戦に入るからと控えていた攻撃を再開する。銃弾を通常弾に散弾、更には軌道がカーブを描く曲射弾などを混ぜながら、正面から、回避しそうなポイントを狙いながら、幾つもの軌道でフウカを狙い、レールガンを連射していく。

 しかし、正面からの射撃という事は銃口の向きが見えて、発射のタイミングが分かる。フウカは発射に合わせて軌道を変えることで、的確に避けていく。すると、後方から追いかける迎撃チームに銃弾が襲いかかる事になった。

 直撃は避けられても余分な動きが必要になって、追跡する速度が遅くなっていく。結果として、フウカがキーマさんに到達する方が早くなってしまった。


『チェックメイト』

『させるかっ』


 ブラックベアを駆り、フウカと一騎討ちに入るものの機動力に劣る狙撃機ではいかんともしがたい。多少の時間稼ぎでは迎撃チームが戻ることもできずに、キーマさんのブラックベアが撃墜されてしまった。


「結局、ワンサイドになってしまったな」

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