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 レイド戦が終わり、新宙域にステーションが移動した。新たな拠点を得たプレイヤー達は、相変わらず重力場が点在して航行しにくい宙域で、探索を開始していた。

 一方の俺は……。


「づ、づがれだ〜」


 色々なトラブルに巻き込まれ、時間外作業に追われてログインできない日々を送っていた。メールチェックくらいしておきたいが、VRゴーグルを付けて確認というのは疲れた身体にとってハードルが高い。

 できたらスマホと連動してメールチェックくらいはできるといいな、要望を出しておくか。




 結局、金曜日までみっちりと作業に追われ、帰ってもぐったり。ログインできないままに土曜日を迎えた。


「お帰りなさい、マスター」

「ああ、おはよ……ってシーナ!?」


 瞳を潤ませ、祈るように胸の前で手を合わせたシーナが、声を震わせながら待っていた。


「どどど、どうしたんだよ」

「マスターに捨てられたかと思いまして……」

「そんな訳ないだろ。ちょっと仕事がアレで来れなかっただけだよ」

「……私と仕事、どっちが大事なんですか?」


 潤んだ瞳のまま、俺を上目遣いに見つめてくる。


「……仕事かな」

「酷いです、そこは嘘でもお前だよって言う場面では!?」

「こちらの反応見ながらニヤニヤした笑みを浮かべてなければ……な」

「チッ」


 おい、AI。態度が悪いぞ。少しはしおらしい所もあるのかと思ったら、シーナはシーナだった。




「茶番はさておき、1週間の変化は……色々あるな」

「運営的にもワンステップ進んだので」


 新星系の解放から新たな拠点の設置は、ゲーム的にも大きな一歩だったのだろう。色々な要素が解放されたようだ。

 今回のレイド戦ポイントの景品に、アンドロイドアバターがあった上に、アンドロイドアバター自体の値下げも始まっている。最低ラインが宇宙船25隻分のコストなので、今までの半額だ。

 シーナクラスのアバターも40隻分とリーズナブル……なのか?

 何にせよ、最前線走ってるプレイヤーが買えそうな値段になっているらしい。俺はもう変える気はないけどな。


 そして当初レイド敵だと思われていたスカラベも撃破されていた。やはりかなりの硬さで、多数のプレイヤーが集中砲火して、何とか撃破できたらしい。

 ドロップアイテムの鉱石類は、多くがオークションにかけられているが、設定金額が高すぎるのか、使い道がわからないのか、落札されている物は少ない。


「買うには高いんだよなぁ。使い道が分からないし……自分で狩りに行くには火力不足だし……」


 いや、高速回転弾ドリルを使えばいけるのか?

 ファルコンの代わりにミサイル機であるヘジホックとかで編隊を組んで、高速回転弾を連続で打ち込めばあるいは倒せてしまうかも!?


「そうだ、格納庫の拡張は……よしよし、値下げされてるな」


 ステーションが増設された影響で、格納庫を広げる価格が安くなっている。流石に値下げ幅は小さくなっているが、それでも大きい。

 ステーション建設のために増やしていたステーション外装用の工作機械を売りに出して、資金を確保すると拡張を行った。


「これで新たに3機の宇宙船を買っても置けるはず……が、宇宙船を買う金が無いな」

「当たり前ですよ。普通はそんなにポンポン買えるものでは無いです」

「ファルコンを下取りに出して切り替えるという手もあるっちゃあ、あるんだが……」


 初期型戦闘機は買取と販売のコストが変わらない。なので同じ初期型であるファルコンとヘジホックの等価交換が可能だ。

 しかしレイドに向けて蜃気楼ミラージュシステムを積むために兵装を外していたり、色々と改装してしまっているので、そのまま下取りに出すと価格が下がってしまい、元に戻そうとしてもやっぱりコストが掛かる。

 そして今のファルコン達も使い勝手がいいので残しておきたいというのが本音だ。


「となると金策は必要だな……」


 やれる事の幅が広がった分、それに伴う費用も増えてしまっていた。




「それはさておきメールはっと……」


 特務曹長から要塞砲やマンタの弁償費用が振り込まれていた。まあ要塞砲はステーションのパーツで作製可能な代物なので、ほとんどタダ同然。マンタも輸送船なので戦闘機ほど高価ではないので、補償で戦闘機を買えるほど甘くは無かった。


「ん、添付動画があるな」


 要塞砲が撃破された時の動画が添付されていた。それを確認してみると……。


「何コレ、かっけーっ」


 真紅の機体が特務曹長達の攻撃を巧みに避けながら距離を詰めてくる。しかし、特務曹長もそれを見越して最期の手段、拡散砲で迎え撃つが、粒子砲の威力を減衰する防御幕で防がれた。

 かと思いきや、それを更に見越して特務曹長側が防御幕では防げない実体弾による集中砲火。しかし、真紅の機体はその猛攻すらも空蝉の術かという半身を切り離す事でかわしてみせた。


「分離とは……これまた滾るな。こんな機構売ってるのか?」

「いえ、オークション等の出品はないので、独自開発した物かと」


 開発用工作機械を使用して、独自に生み出された装置らしい。俺が使っている高速振動剣や遠隔制御ユニットみたいな物だな。


 この分離システムは、俺が今陥っているハミングバードの火力不足という問題に、1つの解答を示してくれていた。

 小型で機動性が売りのハミングバードは、コアの出力も小さく、積める装備品が限られている。コアの出力を上げるには、全体的な重量が増えてしまって機動性が損なわれる。


「2機を合体させる事で、小型機の出力不足を補っているよな……そうか、要塞砲の運用にマンタを2機使ったのが近いか」


 輸送機の大型コアでも要塞砲の運用には耐えられず、マンタを2機接続することで出力不足と機動性の確保を行った。あれはケーブルで無理矢理繋いだ形だったが、ジョイントパーツを開発して1機の機体として扱えるようにすれば、普段は出力を確保して機動性は劣るが強力な攻撃力、必要な時は分離して高機動で戦うという選択肢が出てくる。


「早速、開発に回そう。要塞砲とマンタを接合したジョイントパーツをベースに、ハミングバードと……もう1機はどうしよう。ファルコンかハンマーヘッドか……」


 ハミングバードは小型機の中でも最小の機体なので、ファルコンなどの通常の戦闘機でも十分に火力を補うパーツにできる。

 ただ動画にあった機体は、中型から大型に見えた。高出力の恩恵を重視するなら、中型機以上を繋げた方がメリットが大きいだろう。


「よし、ハンマーヘッド、君に決めた!」


 ハンマーヘッドは、偵察機なので元々火力が高いという訳でもない。そういう意味では合体機のパーツとしては不向きかもしれないが、ソロで航行する事が多いので、高性能レーダーは有用だ。

 そしてハミングバードには劣るものの、機動性は高い方の機体。火力偏重の機体の方が、合体するメリットは大きくなるが、分離の前後で操作感覚が大きく変わりすぎる。それについていく技量がパイロットには求められるが、俺にそんな卓越した適応性は期待しない。


 戦闘機の兵装管理を行うデザインツールを立ち上げて、ハンマーヘッドを映し出した。

 ハンマーヘッドの特徴的な頭部を一度分離して、コックピット部分は取り外す。分離するだけじゃなくて、合体も加味するなら後方パーツも少しは動ける様に、遠隔制御ユニットは組み入れた方がいいか。

 ハミングバードを前、ハンマーヘッドを後部パーツとしてジョイントして、ハンマーヘッドのレーダー部分は背ビレの辺りに移設。

 デフォルトでは6発の中型ミサイルを抱えていたが、今は高速回転弾ドリルを装着していた。中口径粒子砲2門は、使い勝手はいいもののもう一回り大きくしたい。


「大口径に載せ替えて、ミサイルを減らすか」


 装備の取捨選択を行いながら、デザインを進めていった。




「ふう、思いの外時間を使ってしまった」

「暇でした」


 機体を1から組み立てるというのは、楽しい作業で没頭してしまった。放っておいたシーナは不満顔だ。


「まだ色々と確認すべきメールがありますよ?」

「そ、そうだった……」

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― 新着の感想 ―
[一言] 人のアイデアに刺激を受けて、じゃあ自分ならどう料理をするか色々考えを廻らしている時って最高に楽しいですよね。 理論面からの効率特化や脳筋の恐竜的進化、はたまた有り物ででっち上げた妙ちくりんな…
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