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閑話 4

レイド戦の特務曹長キーマ・ブラック視点です。

「曹長、お願いします」

「分かった。射線に気をつけろよ」

「了解です」


 データリンクで位置を把握している目標ターゲットへと狙いを定める。重力場の中心で頭だけを出している標的アリジゴクはかなり小さい。しかし、止まっているというだけで、かなり当てやすい部類に入る。


 スラスターを吹かして大まかな位置を合わせると、旋回する動きの中で標的を定めて、タイミングでトリガーを引く。


 いつも使用しているレールガンと違って、超大口径の粒子砲は眩しい。あまり画面を直視していると残像が残るので、発射の瞬間には微妙に視点をずらしている。それでも止まっている標的を外すようなヘマはしない。

 このゲームを始める前から、数多のゲームでスナイパーをこなしてきた。それでも発射して当てる。その感触は何とも言えない満足感を俺に与えてくれた。



 その出会いは完全なる偶然だった。

 さして目立つ訳でもなく、声を荒げていた訳でもない。どうして気になったのか、今となっても分からない。

 強いて言うなら美形揃いのプレイヤーの中で、あまりパッとしないぼやけた風貌が目に止まったのだろうか。

 隣にいる少女は青髪の美形で、逆によく見るプレイヤーという雰囲気。その対比が目に付いたか。


「超長距離から狙撃していく感じ」


 ただそんなセリフが聞こえると、捨ておく事はできなかった。


 成金王キリシマユウヤ。

 数少ないβテスターの称号持ち。撃墜王のフレイアや特務曹長を貰った俺。他にも宇宙滞在時間トップだった巡回者ワンダラーコジマ。対人戦でトップの闘士グラップラーランスロット。そして多少因縁のある海賊王ブラッディ・ジョーカー。

 それぞれに各サーバーでの活躍が見られる。


 しかし、成金王はほとんど表舞台に出てきていなかった。サービス開始当初にネットが炎上したのも大きいが、β時代からその存在は知られていなかった。

 ぼんやりした目立たない事を狙ったようで、逆に目に止まってしまう風貌を見るに、裏方志望というか脚光を浴びたくないタイプなのだろう。

 それでも利用価値があるなら放っておく訳にはいかなかった。


「面白そうな話をしているね」




 話をしてみると、成金王は普通の青年という感じだった。引きこもりのコミュ障という訳でもなく、受け答えから社交性は高い。大学生か社会人か、下手すると俺よりも年上かも知れない。そう思わせる落ち着きを感じさせた。


 ただ開発に対する情熱はかなりのもの。

 俺としては既製品の組み合わせでのカスタマイズで、それなりに満足していたが、彼はパーツ自体を開発しているらしい。

 修理用工作機械だけでも連合ユニオンで出資を募って購入したのに、彼は1人で全ての機器を揃えているようだ。


 そして今回試そうとしている要塞砲。

 ステーションの防衛機構の1つを独立運用させようというアイデアに加え、輸送機とはいえマンタを改造してポンと貸し出すその資金力には驚く他ない。さすがは成金王というところか。




「曹長!」

「おう、任せろ」


 チームチャットで次の狙撃ポイントが指定されると、そちらに回頭して射撃を行う。俺がポイントを荒稼ぎしている状態に、申し訳なく思うが、連合のみんなは『日頃から助けられてますから』と返してくる。

 β時代からの仲間もいるし、新規参入者も増えた。いい連合に育っていると思う。ひとえにリーダーであるヤキソバの人当たりの良さが、連合内の潤滑油として結束に繋がっている。


「俺ではあそこまでの気遣いはできないからな」



 重力場に潜むアリジゴクを狙撃して仕留めるうちに、その親らしいカトンボが現れた。ゆらゆらと飛翔し、輪郭が歪む光学迷彩的な何かが備わっている。

 正直、狙撃に最も厄介な相手だ。


「それでも当てる……それが仕事だっ」


 チームで相手をまとめて、そこへと粒子砲を撃ち込む。粒子砲としては極太ではあるものの宇宙と対比すれば細い糸。直撃は難しいが、照射時間の長さを活かして薙ぎ払い、カトンボを引っ掛けていく。

 羽などにダメージが入れば、機動力は落とせるので、後は仲間が始末してくれる。

 ひとまずレイドはアリジゴクとカトンボの2種が相手の撃破戦のようだ。数をこなせばクリアなら、敵の増援で難易度が上がったりするだろうが、対処できそうだった。



 しかし、レイドの進行を確認していたのは俺達だけでは無かったようだ。


『宙域外縁部に所属不明機を確認。その数増えてます!』


 連合のチャットに情報が流れる。予想されてはいたが、実際にやってくるとはな……。


「総員、海賊の襲来に備えろ。レイドの敵より厄介だ。海賊への対応を急げ!」

『『『了解』』』


 連合をまとめるヤキソバは、戦闘面ではそこまで優れたプレイヤーではない。どちらかというとエンジョイ勢で、大規模戦闘の指揮は俺に委ねられていた。

 狙撃手として戦場全体を俯瞰して見てきた俺は、どこに戦力を集め、どう対応すればよいかの判断には慣れている。適材適所ではあるだろう。


 海賊の動きを観察していたチームメイトの情報は、チーム内で共有できる。狙撃の際もその情報を元にポイントを決めていた。

 そして海賊達の動きを見ると、こちらへ近づく素振りはない。


「何か、タイミングを計ってるみたいだな」

『どうします?』

「すまんが、俺が動けない以上、攻撃圏に入ってくるまでは待機だな」

『了解』


 海賊達も俺をターゲットに狙ってくるのは見えている。こちらから出向くよりは、迎え撃つ方が勝算は高い。




「なるほどね」


 成金王からの援護要請を受けて砲身を旋回させていると、こちらの海賊達も宙域への侵入を開始した。

 海賊達も連携を取っているようだ。

 脳裏に血に染まった様なクリムゾンレッドの機体がよぎったが、アレは群れる様なタイプではない。となれば群れを作る海賊は、中の下といった連中かね。


 成金王の依頼で海賊のシールド機を撃ち抜く。その間にこちらの宙域も騒がしくなってきた。


「こっちにも出始めたから、あまり援護はできないかもしれん」

『いえ、遠方から狙撃があるってのを見せられたんで十分です』


 成金王の了承を得ながら、俺は自分の戦場へと意識を向ける。




「思ったよりは少ないか」


 成金王の方に30機ほど出たというが、こちらは20機ほど。こちらの方が戦力が多いのに、差し向けた駒は少ない。


「弱い所に戦力を集中してるって事か」


 宙域に侵入した海賊は、あまり深くは迫ってこない。どちらかというと離脱を考えて、外縁部に留まっている感じだ。

 連合が担当する宙域には様子見程度の戦力を出して、本命はソロの集合するエリアって事か。即席の連携だと綻びやすい。海賊としては狩場にしやすいんだろう。


「海賊の相手はほどほどに、レイド敵を片付ける」

『了解ー』


 やる気のない相手を追いかけても時間の無駄だ。狙撃可能範囲ではあるが、距離が離れればそれだけ当てにくくなってしまう。

 懐に入られると無力にはなるが、離れればいいというものでもない。位置取りを正確に掴む、この辺が狙撃の醍醐味だな。




BブラッディJジョーカーだっ』


 チームチャットに声が響く。レイドも終盤に差し掛かった頃、その一報に連合内に緊張が走る。


「思ったより遅かったな。他で悪さしてたか」


 BJの性格からして、派手に粒子砲を撃ってたら真っ先に狙ってくるかと思ったんだが……サーバー上位が集まる戦場。勝手知ったる俺達より、他の連中を調査してたって事かね。


「外縁の海賊も連携する可能性がある。そっちのケアを忘れるな。チーム1、2はBJ迎撃」

『おうさっ』

『今日こそ仕留めるっ』


 ミッションに乱入されてかき回されてきた連合のメンバーは、奴を倒すのに躍起になっている。それは俺も同じだ。いつまでもやられっぱなしではいられない。


「まずは狙撃で乱す。後は囲んで十字放火」

『了解』


 チームの偵察隊から奴の姿が送られてくる。血に染まった紅の機体。こちらをあざ笑うように一直線に突っ込んでくる。


「今日の狙撃は一味違うぜ……っ」


 レールガンの僅かな発光ですら反応して回避するBJだが、粒子砲の弾速はレールガンを上回る。普通なら避ける前に当たるはずだ……が、こちらが撃つ瞬間に機体を大きく振って回避してしまう。

 奴はエスパーか?

 こちらの考えを見抜いたように最小限の動きで粒子砲を回避すると、更に加速して近づいてくる。


『曹長、お守りしますっ』

『曹長のアバター、お姫様にしとけば良かったな』

『ムサイおっさん守るのってモチベ上がらねー』


 などと軽口を叩いているが、チーム1、2は連合内でも猛者を集めた部隊。互いが射線に入らないように角度を付けながら接近し、集中放火を浴びせる。しかしBJは木の葉が舞うようにユラユラと射線を避けて、狙える範囲に反撃。ミサイルで弾幕を張りながら、こちらへと向かってくる。


「チャージ時間がもどかしいな」


 レールガンというか通常兵器に比べるとかなり長いチャージ時間を要する要塞砲。ステーションなら複数の砲台を連携させて間断なく撃てるのだろうが、マンタ2台で運用している現状では仕方ない。正直、狙撃でBJを仕留められるとは思っていない。狙撃で乱れた所をウチのインファイター達が仕留められるかどうか。そこに掛かっていた。



「背後に目どころか、百個目がついてんじゃねーか?」


 チーム1、2の8機が束になってもほとんど命中弾がない。たまに当たる分ではエネルギーシールドを突破できず、ほぼ無傷を保っている。

 一方でこちらも撃墜された機はないので、初期に比べたらかなり善戦していた。が、BJの脚を止めきる事はできなかった。


「最期っ屁をかますからレーダーの範囲に気をつけてくれ」


 レーダーに最期の攻撃の攻撃範囲を表示する。

 徐々に近づくBJの機体。チーム1、2は後方からの射撃になっているが、命中させられない。普通のドッグファイトなら背後を取ったら有利なんだが、こいつ相手にはそのセオリーも通じないようだ。


「さすがにこれを避けきる事はできないはずっ」


 チームが作ってくれた時間でチャージ完了した要塞砲を発射する。それは遠方を狙撃する粒子砲ではなく、近距離を一掃する拡散砲。一発の威力は落ちるが、広い範囲に弾がばら撒かれる。

 しかし、BJはこちらの最期の攻撃を見知っていたかのように一発のミサイルを発射していた。機体の前方で雲のように広がったソレは、粒子砲の収束を邪魔して威力を減衰する防御幕。レーダー波を乱反射させて狂わせるチャフの様に、狭い範囲だが粒子砲を防ぐ事が可能な装備だった。


「今だっ、実体弾を撃ち込めっ」


 防御幕でカバーできる範囲は狭い。そこから出られないとなれば、回避に大きな制限がかかる。宇宙空間での移動範囲の制限は、戦闘において最も不利となる条件。




『いやはや、さすがFoods連合の皆さん。素晴らしい連携でした』


 外部チャットで感想を述べながら戦場を後にするBJ。その機体は約半分の大きさになっていた。


「分離可能な機体とかアリかよ……」


 要塞砲の拡散弾の中、逃げ場の少ない防御幕へと押し込み集中攻撃した時、BJの機体は前後2つに分かれ、後方部分が爆発。チーム1、2から射撃された実体弾の多くを誘爆に巻き込んでディフェンスすると、2回りほど小さくなった前方部分は拡散弾の合間を縫って接近してきた。

 最期の手段を使った後、要塞砲から自分の乗るマンタを切り離して離脱していなければ、BJの撃ち込んだミサイルに巻き込まれて撃破されていただろう。


 流石に分離した機体には武装が少なかったのか、漂うマンタを攻撃してくる事はなかった。要塞砲を破壊した後、BJはそのまま宙域の外縁部へと逃げていく。


「まだ完敗なのか」


 こちらも撃墜されてこそいないが、9機掛かりで足止めもできず、目標を破壊されてまんまと逃げられてしまった。

 自分達がトップだとは思っていないが、それにしてもその差に愕然とする。何とか対策を練らないといけないが……。

 成金王に相談してみるかねぇ。

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