閑話 3
主人公が遠隔制御ユニットを搭載したファルコン連れて無双プレイを行った際に、開発・運営側で起こっていたやりとり。
「今度は何をやらかした!?」
「ミッションのタイムアタックが一気に更新されていて、原因を調査中です」
「で、そのプレイヤーは?」
「成金王っすよ」
「奴は生産系でやらかすだけで、この手の事はあんまりじゃなかったのか?」
「だから余計に調査が必要で……これか……」
一大事だと休日に駆り出されて現場に行くと、プログラマー総出で調査が開始されていた。
ミッションのクリアタイムが大幅に短縮されており、アラームが出た様だ。不正行為で攻撃力を増大させたり、自機がダメージを受けないなどの改変をされていると大事だ。
全てのプレイを録画するなんて事はできないので、プレイヤーの操作や敵の動きをログに取り、それを元にリプレイする事で状況を再現する。
個々の端末にある情報と、サーバーに残された情報に齟齬があれば何らかの不正行為が疑われるが、今回はちゃんと整合性が取れていた。
「……」
リプレイされた映像を見ながら一同沈黙する。
「まず、成金王が連れているファルコンだが……無人機か」
「そうみたいっすね。コックピットの代わりに誘導ミサイルの制御ユニットから開発した遠隔制御ユニットが組み込まれています」
「うう〜む、AIで開発可能かの判断を下せるようになったが、そのためにチェックが甘くなったか」
「いえ、AIによる開発許可が出た時に、品質管理班でチェックはされてます」
成金王の主な用途が、小惑星からの採掘がメインで、サポートシステムは自発的に攻撃できない事から、一般的な攻略には使えないと判断されたようだ。
「そもそもが戦闘機を何機も揃えられるプレイヤーがほとんどいないですしね」
「で、今回は何があったんだ?」
「攻撃をプレイヤーに同期させて、同じ標的を狙う様に指示したみたいっす」
「ふむ?」
「本来、サポートシステムで補助していたのは、1機の戦闘機で複数の砲台を制御している場合に、攻撃点がズレないようになってました」
「まあ、しっかり狙って撃ったのに、バラけたらストレスだからな」
「ただその補助が遠隔制御にも同様に掛かってしまっていて、ピンポイントに攻撃が集中できたようです」
ファルコン3機の中口径粒子砲が、1点に集中できたことで、一撃でシールドを飽和状態に追い込み一気に撃破できてしまったようだ。
現在使用できる大型機の攻撃力を大幅に越えているので、バランスが崩壊してしまっていた。
その上、言葉で連携を取る必要もないので、動きがスムーズでロスがない。
他のプレイヤーと協力して叩き出したハイスコアを、ソロプレイヤーが追随を許さないスコアで塗り替えてしまっては、モチベーションの減衰を招きかねない。
早急に対応しなければならない案件だ。
「対処としては……」
「遠隔制御での射撃に乱数入れるって辺りですかね」
「あまりバラけても印象悪いな。今後、他のプレイヤーが使うようになる可能性もあるし」
「制御精度の能力値を設けて、将来的にはしっかり当たるように道を作りますか」
「そうだな、今はバラけてもユニットが進化すれば、当てられるようになると……で、ランキングの方は?」
「タイムの差が大きかったので、グローバルへの反映はなく、保留状態になっています」
「一応、成金王がプレイしたミッションを洗って、許容範囲内でも記録更新したものがないかをチェック」
「はい」
「で、成金王への補償はどうしましょう?」
「侘び石……侘びコストかレア素材か」
「とりあえず、サポートシステムを召喚して何がいいかを聞いてみますか」
「ああ、そうだな。性格で何を貰えば納得するか、判断材料にしよう」
「で、成金王は何を貰ったら納得すると思う?」
「マスターは、物欲に乏しく、功名心も薄いので……今回もプレイしながら、『修正されるよなぁ』と呟いてました」
「本人もバグの類と認識してそうなのか」
「そうですね。うちのマスターは、新しいことを考えるのは好きみたいですが、それで成り上がろうというのはないみたいなので。称号でも渡しておけばよいかなと」
「称号コレクターになってきてるな……何かいいの考えとけ。倫理がうるさいから、孤独なとかぼっちとかは使うなよ」
「はい、幾つか候補を出しておきます」
「今が午後8時で、修正してビルド、チェックして……午前8時には修正できるか」
「鬼ですかチーフっ」
「幸い対象プレイヤーは1人でログアウトしている。平日は仕事もあるようだし正午までにしようか」
「……それでも俺らは泊まりですよ」
「安心しろ、企画からもチェック要員を付けてやる」
「そりゃ当たり前ですよ」
「しかし、成金王の作るものは細かくチェックしないとな……この高速振動剣って何だ?」
「刀身を振動させて発熱し、対象を溶断する武器……ですね」
「実際は電磁波を照射して対象を加熱してるんで、振動も発熱もしてませんが、溶断するって部分はあってます。ブラスターの近距離高威力版みたいな感じです」
「これは大丈夫なのか?」
「刺突槍と威力は変わりません。ただワイヤーを付けて多少射出できるようにしてあるみたいです」
「まあ100mじゃバランス崩壊まではいかないか」
「硬い系のボスを出す時に熱に強いとか付けないとまずいかも知れませんが」
「新星系でそれ系の敵はチェックしとけ」
「また仕事が増えた!?」
「開発系は1人が独走してくれてるなら対応が間に合うが、人数が増えてくるとまずいか」
「AIでの判断できちんと捌けているとは思いますが……」
「今回の件は複合的でしたからね」
「AIで判断できないからこそ、人間の価値が問われる部分だな。幸い、売上は悪くないし、成果を出せばボーナスに返ってくるから、頑張れよ」
「そんな他人事みたいに……」
「現場のアイデアは俺の仕事じゃねーからな。俺は実装をするかどうかの判断が仕事だ」
そう言いながら上着を手に取る。
「えっ、帰るんですか?」
「当たり前だ。俺の仕事は終わったからな」
「チェックは……」
「お前たちの仕事を取るわけにはいかん」
「そんな殺生な〜」
休日に呼び出されて、時間外の業務をしても管理職は手当がつかない。帰れる時に帰る、これが大事だ。
休日出勤に残業と作業に追われる姿に同情はするが、社員なら代休や時間外手当が出るので稼ぎにはなる。
対して管理職には自己管理能力も問われる。特に欧米と共同開発のこのゲームは、その辺の管理にもうるさい。
会社にいる時間で評価されがちな日本と違って、だらだらと時間を掛けているのは無能ととられてしまうのだ。
今後もレイドが待っているし、その対応で時間を取られる可能性は十分にある。無駄に在社時間を使う訳にはいかなかった。
「それじゃ、朝一にチェックするから、資料まとめといてくれ」
ヒラヒラと手を振りながらオフィスを出る。社員の中では陰口を叩くやつもいるだろうが、ストレス発散のはけ口になるのも上司の仕事。
多少憎まれるくらいで丁度良い……と、自分に言い聞かせる。
現場の叩き上げとしては、ずるずると現場で雑談しながら作業するのを懐かしむ部分はあるのだがね。