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開拓ステーションは、その名の通り未開の星系を探索する拠点となる場所である。つまりは星系内もまだ未探査、未開拓の場所が大半を占めている。
これを探査していくのもプレイヤーに課された任務の一つであった。
星系の開拓度は、サーバーごと、一定数のプレイヤー間で共通して管理されていて、開拓度が上がっていけば市場に出回る物の質も上がっていく。
開拓度は、宙域の探査の他、星系内の他次元生物の駆除でも上がっていく。普通にゲームをしてれば勝手に上がっていくものなのだ。
それを促進させる意味で任務が設定されている。
「一定宙域を飛行して情報を集めると、その量に応じて報酬が支払われる」
「はい、そういう任務があります。マスター、抜け目ないですね……」
「元々実績は埋める派だったからね。最初にどんな事でポイントがもらえるかは調べる質なんだよ」
多くのゲームではその進行に応じて、実績が解除されていくようになっている。ストーリーの進行に関わるものはシークレットになっているが、その他の「○○km歩いた」「○○体の敵を倒した」といったカウント式の実績も中にはある。
そういうのがある場合は、ザコ戦をむやみに避けたりせず、マップを無駄に蛇行しながら進行したりするのだ。
このゲームでもそういったものが設定されているかと、ヘルプ内を確認したところ、宙域探査の実績があるのに気づいていた。
しかもゲーム内での報酬がある。ならば効率よく稼げるなら稼いでしまおうと思ったのだ。
「探査レーダーに優れたソードフィッシュ型なら飛行するだけでかなりの情報量が取れるし、補助ブースターで加速性能を上げてれば、その速度もあげられるだろ」
「そうですね、マスター」
更に個人の実績だけでなく、開拓ステーションとしての実績もあるので、人より早く探査を進めればボーナス報酬がもらえるシステムでもあった。
そして何よりこの手の実績の報酬には、称号が付き物だ。開拓王とか、先駆者とかそれっぽい称号を手に入れられれば、成金王から脱する事ができる。
NPCに会う度に成金王呼ばわりされるのは避けたい。
「そんな訳で早速GOだ。この星系で探査されてないエリアを中心に飛んでいくぞ」
「はい、マスター。航路をピックアップします」
ブラックイールに乗り慣れた俺にとって、ソードフィッシュ型はかなり感覚が違った。補助ブースターのおかげもあるが、加速が段違いに速い。さっきの半分ほどの時間で小惑星帯に到着。レーダー波を飛ばすと、大小の小惑星が観測できる。
「成分分布は……やっぱり、大した事なさそうだな」
レーダーによる観測で、小惑星の成分までかなり判別できるらしい。大きい小惑星の場合は、中を割ってみないと駄目みたいだが、ほとんどの構成物質が分かった。
今までのブラックイール型では、ヒートブラスターで実際に溶かしてみて、キャプチャービームでコンテナに入れるまで細かな成分は判断できなかったので、作業効率はかなり良くなりそうだ。
「ま、今は宙域探査が先だな。次のポイントへ向かうぞ」
「はい、マスター」
この星系には、5つの惑星がある。内側から2つは小ぶりで公転軌道が近く、かなり高速で動いている岩石惑星だ。
そして第3惑星が土星のような輪を付けた小ぶりのガス惑星。第4惑星は大きなガス惑星になっていた。
第5惑星は氷の塊でほとんどが水でできている。
生命居住可能領域に位置する惑星は無く、その軌道上に生産コロニーが設置されていた。太陽光を集めて野菜などを育て、家畜も飼われている。
そうしたコロニーは、公転軌道上に10基等間隔に並んで生産を続けていた。
「ここを狙われたら大変な事になりそうだがな」
「そのための防衛はしっかりされてますし、他次元生物に狙われないように多次元化合物は持ち込まず、太陽エネルギーで発電、生産を行っています」
「なるほどねぇ」
このゲームには食事という概念は入れられていない。VRとはいえ、再現しているのは視覚、聴覚と手首から先の触覚のみ。
物を食べたとしても味も匂いもしない。それにゲームの主旨は、戦闘機でのバトルだ。空腹ゲージとか導入したところで、邪魔にしかならない。
他にもプレイヤーキャラクターとしての能力は設定されていない。成長するのはあくまでも宇宙船で、プレイヤーの成長は、自身の操縦技術や射撃技術といったプレイヤースキルを磨く事になる。
ゲームとしてはかなり硬派な部類に入るだろう。
戦闘機の強さでハンデはできるが、開始当初は横並び。上手いプレイヤーが一歩抜きん出るのは確実。
もちろんβ組も先行したアドバンテージを持って動き出しているはず。俺も負けじと有利なポジションを獲得するつもりだ。
しかし、先行探査は思ったよりも暇だった。
仕事をするのはレーダーで、極力無駄無く探査するにはルートも決まってくる。たまに他次元生物の反応があって迂回する必要はあったが、それもレーダーで先に感知できてるので、遭遇戦になることもなかった。
なのでやっているのはこのサーバーのデータチェックだ。
「思ったより探索に出てる奴が少ないな」
「基本的には撃破任務を受けるはずなので、自由出撃を選んで宙域探査を行うのは、βテスターの中でも特殊な性癖の持ち主かと」
「……それ、暗に俺を変態と言いたいんだな」
「……」
「そこで黙るなよ、真実味が増すだろ!」
「……マスター、自分が特殊ではないと思っているなら、考えを改めた方が良いかと思います」
「そんな真面目に言われると怖いんだが……そんなに変かね?」
「はい。私達AIにとっては、全く予想が立たず、対応に苦慮いたします」
「その割にはグサグサ心が抉られるんだが」
「例えば私達と普通に会話してますよね。他のプレイヤーは、あくまでサポートする役割として質問したり、命令したりするだけです」
「俺も基本的にはそのつもり何だけど……」
「マスターの場合は、質疑応答に関しても、掛け合いを求めている節が見受けられ、必要最低限の会話に終わらないのです」
「それはぼっちで話し相手がいないからと言いたいのかね?」
「そういう問いかけを返す部分な訳ですが。おかげで私も色々と努力する羽目になってます」
「迷惑なの?」
「AIの私には面倒臭いという考え方はありません。ただまあ、そのやり取りが特殊で監視されがちだと言う事です」
「……怖い事言うね。俺としては目立たず楽しめれば十分なんだが」
「だったら普通に撃破任務受けて、任務を達成するのを選びますよ」
「そこはそれ、こういう遊び方が好きなんだよ」
「だから特殊だと申してます。止めろとは言いませんが、変わってるのはご自覚された方がよろしいかと」
「くぬぬ……」
AIに説教されるとは……そんなに変わった事をしているつもりも無いんだがねぇ。
とりあえず、撃破任務をやるにも今乗っている偵察機じゃ無理だし、コストを稼いで乗り換えれるようになってからだな。
「さて、そろそろ星系を一周できるかな」
「はい、あと5分で広域探査は終了します」
レーダーの探査範囲を広げた状態で星系を回って、主な他次元生物の出現ポイントや小惑星の座標などをマーキングして、開拓ステーションへと共有する。
これで開拓度が進展し、撃破任務や採掘任務の種類が増えるはずだ。
そして俺には開拓度を進めた事による報酬が入ってくる。それなりのコストがもらえたが、まだ工作機械を買うには足りてない。
「新たに称号を獲得しました」
「待ってました!」
「新たに獲得した称号は、『覗き魔』です」
「まてまて、なんだって?」
「『覗き魔』です」
改めて読み上げて、モニターにもデカデカと表示された。
「……悪意がありすぎるだろう。開拓度を上げてこんな称号渡しても誰も使わないんじゃないか」
「この称号は、かなり特殊な条件を達成した場合のレア称号です。開始から僅かな時間で、高性能レーダーで探査のみを行って地図を埋めた場合にのみ付与されます」
「単純に開拓度を上げた事による称号ではないって事は分かるが……やはり、悪意しか感じない」
「……マスターの行動は良くも悪くも運営に目を付けられやすいようです」
「それは、俺がこういう探査を行ったから作られた称号って事?」
「禁則事項です」
それは是って事だよね。運営はこうした探査は望んで無かったという事か。でも探索機がある以上、レーダーで地図を作成するのは予測の範囲内だろうに。
開始から僅かな時間でっていう条件か。そこが予想外だったと。特別な称号をわざわざ作るって事は、俺に対する警告なのか、いいぞもっとやれって事なのか、判断に迷うところだなぁ。
何にせよ、こんな称号、成金王以上に設定する気は起こらんな。