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 蜃気楼ミラージュシステムの映像投影技術を利用して、宇宙空間に白い幕を形成。それによりウスバカゲロウの輪郭が歪んで見える現象に惑わされないようにしながら、攻撃を行っていく。

 しかし、ウスバカゲロウ自体がユラユラと揺れ動きながら回避するので、射撃に自信のない俺はあまり戦果をあげられていない。


「な、何か、集まってないか?」


 そうやって撃破に時間が掛かっていると、ウスバカゲロウが俺に向かって集まってきていた。三匹ほどが俺の目の前にやってきている。


「でもあんまり攻撃してこないな?」

「どうやら閃光幕の方に集まっている様です」

「誘蛾灯みたいになってるのか!?」


 夏の夜に街灯へと虫が集まるように、宇宙空間に現れた白い光の幕へと、ウスバカゲロウが集まってきているらしい。


「俺の正面にウスバカゲロウが集まるみたいなので、狙ってください!」

『本当だ、助けに向かいますっ』


 周囲の攻撃機に援護を要請すると、皆集まってきて攻撃を開始してくれる。撃破してポイントを稼ぎたいだけなのかも知れないが、俺の言葉に反応して動いてくれるのは嬉しい。

 妙に密集しているウスバカゲロウは、集まってきた攻撃機の攻撃も当たりやすく、撃破のペースが上がってきた。


「マスターの攻撃は当たりませんけど」

「ぐぬぬ……」


 おかしい。一番近く、正面にくる敵を撃ってるはずなんだが、ヒラヒラと避けられてしまう。


「ま、まあ、役にたってるからよし」



 ウスバカゲロウを更に誘引すべく、宙域を回って集めていく。それに伴って、周囲にチームの攻撃機も集まり、かなり効率よく狩れるようになっていった。




「あっちは凄いことになってるな……」


 レーダーとファルコン偵察隊から集まる情報で、フウカの方を確認すると、PK5機との激しい空中戦が展開されていた。

 PKの数は減っているが、フウカが撃破した訳ではなく、他の宙域に散っていったようだ。フウカが撃破を奪えなくなっている。


 フウカはPKの隙間を縫うように移動しながら、攻撃を繰り出し、PKの同士討ちを狙っているようだが、PK達は十字砲火を徹底して互いの射線に入らないように動き回っている。

 機動性に勝るPK達が、フウカのファルコンに対応して位置を変え、取り囲む様にしながら攻撃を加える。フウカは背後に目があるようにそれらを回避していくが、攻撃のチャンスがなかなか無いようだった。


 目まぐるしく位置を変えながらの攻防は、他のプレイヤーの参戦を許さず見ているとついつい手に力が入ってしまう。


「これだけで金取れるんじゃないか?」

「ファルコンからの映像は、録画しています」

「後でじっくり分析させてもらうか。今はウスバカゲロウに集中しよう」


 フウカがPKを引き受けてくれているので、俺はウスバカゲロウへと集中する事にした。




 ウスバカゲロウを閃光幕へと誘引し、周りの人に撃破してもらうと宙域にアリジゴクが現れる事は少なくなり、また現れたとしても情報を共有して即座に撃破してもらう。

 安定しながら撃破を稼ぎ、レイドゲージも順調に伸びていく。

 他のサーバーやユニオンも海賊の攻撃の中、しっかりとアリジゴクやウスバカゲロウを撃破していっているようだ。


 やがてゲージが満タンになり、システムメッセージが流れる。


『宙域の安全を確認。ステーションの転移がはじまります。皆さん、後1分の宙域確保を願います』


 既にウスバカゲロウも数える程になり、実質的なウィニングランに入ってる。


『面白いように攻撃が当たるぜ』

『成金王さんの射撃補助のおかげだろ』

「俺は倒せてないから、皆さんの腕ですよ……」

『でも本当、助かりました』


 ファルコン偵察隊による三次元レーダーは、敵の位置を正確に把握できるので、射撃にシステム的な補正を受けられるらしく、普段より命中させやすいらしい……なぜ俺のは当たらん?


「それは下手だからさ」

「ぐぬぬぬぬ……」

「まあマスターの場合は、一番距離が近い分、相手の動きを追いきれない部分が大きいですけどね」

「そ、そうだよな。近いとその分、射角を大きく動かさないといけないしな」


 距離が近いと的が大きく見えるが、攻撃用のカーソルも大きく動かさないとターゲットを捉えられない。ハミングバードよりは旋回性能が劣る分、カーソルを合わせるのも難しかったりするのだ。


「それでもちゃんと動きを予測すれば、当てられるのでしょうけど」

「そんな技量があれば、苦労はしない……」

「ちなみに、ファルコンからの情報を元に蓄積したデータで予測ラインを表示できます」


 そんなシーナの言葉と共に、ウスバカゲロウの移動先を予想するラインが描かれ、それに沿うようにウスバカゲロウが移動していく。


「なっ、早く言ってよ!?」

「マスターは、自力で何とかされるものだと思いましたので」

「ぐぬぬぬぬ……」


 まあ、システムの補正を受けながら攻撃するのは、何かやらされている感が出てくるんで、確かに俺向きではないか。シーナに馬鹿にされないように、射撃の腕も上げないとな。

 そんなやりとりをするうちに、いよいよレイド終了の時間が近づく。


『5』

『4』

『3』

『2』

『1』

『『ゼロー』』


 チームチャットごしにカウントダウンが聞こえ、それが終わると共にステーションが転移してくる。

 ゲートから現れたステーションは、コンテナを数珠つなぎにしたような少し変わった形をしている。コンテナ部分が居住区兼格納庫になっていて、中央にある大きなコンテナが、交流ロビーになっているのだろう。


 ステーションが持つ他次元生物へのジャマーにより、残っていたウスバカゲロウも宙域外へと逃げていき、残っていた海賊達もそれと合わせるように引いていった。




『みんなー、レイドイベント楽しかったかなー。私もそこそこ頑張ったよ! それじゃ、新ステーションでミニライブやるから、良かったら打ち上げに参加してねーっ』


 レイドが終わるとフレイアちゃんの全体チャットが流れて、交流ロビーでの打ち上げ、ミニライブが告知される。

 かなりの人数が参加するんじゃないだろうか。

 俺はどうするかな……。


『成金王さん、またロビーで』

『うぉーライブ会場のいい席確保せねばっ』

『くっ、シールド機は脚が……』

『成金王さんありがとーっ』


 何気ない会話を残し、チームから人が抜けていく。ただ短い感謝の言葉に喜びを噛み締める事ができた。

 即席の指揮官だったが、皆が受け入れてくれて良かった。戦果としても悪くない。貢献ポイントもそれなりに貰えている。

 ただそれ以上に皆とイベントをこなした事自体が報酬と思えた。


『くぅ、見つけて倒す』

「フウカもお疲れ」

『絶対、勝ってた、5機、卑怯』

「フウカも仲間を増やせばいいじゃん」

『なんでやねん、付き合え』

「なんでやねん、これから打ち上げだよ」

『むぅ……』

「PK達もログアウトするんじゃないか?」

『むむむぅ……』


 結局、フウカは5対1で撃破されることなく戦い抜いたようだが、撃破が奪えずに欲求不満らしい。


「打ち上げで皆集まるし、対戦相手探せるんじゃないか?」

『疲れた、眠い、落ちる』

「そ、そうか、じゃあ、またな」

『ん……』


 既に眠そうな声で、フウカは答えそのままチームを抜けていった。何だかんだで上級者相手の立ち回りに疲れていたのだろう。それは単に疲れたと言うよりは、全力で楽しんだがゆえの疲労感だと思う。


「ま、フウカも楽しめる相手が見つかって良かったな」


 少なくとも俺がターゲットにされ続けることは避けられそうだ。


「じゃあ、俺達も打ち上げ会場に向かうか」

「では、スニを用意しますね」

「いや、もうシーナのままでいいだろ。一人の私怨に振り回されるのはもう止めだ」

「はい、マスター」


 そう答えるシーナの声は、どことなく嬉しそうに響いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「では、スニを用意しますね」 「いや、もうシーナのままでいいだろ。一人の私怨に振り回されるのはもう止めだ」 ↑ 結局残ってたアンチはあんちくしょうだけだったか(ノ´∀`*)漸くマトモにMMO…
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