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色々と思案する事柄はあるが、試射が終わったのでログアウト。やはり寝不足な為か思考が鈍い気がしたのだ。
正午前だが昼寝を行い、夢の中で良案を考える。
「よしっ、コレでいくぞ!……ってなんだっけ?」
夢の中で画期的なアイデアを思いついた気もしたが、意識が覚醒していくにつれてその記憶が曖昧になって忘れてしまっていた。
「まあ、机上どころか夢想の空論だったから大したことなかったんだろうな」
そう思う事にして、昼食を摂りながら思考をまとめていく。
フウカという攻撃アイテムを手に入れたので、俺自身は目に徹する方が効率が上がりそうだ。元々重力場で動きを封じられる中、ハミングバードでの出撃は考えにくかったので、ハンマーヘッドで周囲の情報収集に努める予定。
「蜃気楼システムは……無理か」
対フウカ用に準備した蜃気楼システムは、探査ポッドを利用して視覚を撹乱する兵装。しかし、重力場が点在して動いていく、今回の星系では探査ポッドを撃ち込む小惑星も無ければ、宙域に放置したとしてもポッドが重力場に引き込まれてしまう。
使えそうになかった。
「そうなんだよなぁ、探査ポッドすら満足に使えないのか」
キーマさんが普及させたポッドによる観測での射撃も、今回は難しくなっている。となると索敵する上でも、射撃の補正をする上でも探査能力の補完が必要になってくる。
「チームを組んで、索敵編隊から情報を集めるのが一番……だな」
ひとまず方向性が見えてきた。
ログインし直してから、思いついたアイデアを実現すべく、作れるアイテムを開発していく。探査ポッドが使えないので、その代わりとしてファルコン部隊を偵察小隊に改変する。
重力場が多くて使いにくいミサイルポッドを下ろして、偵察用レーダーを追加。遠隔制御ユニットも探査能力が伸びる物へと載せ替えて、ハンマーヘッドとの連携を強化した。
レーダーでの観測も一点から探査するよりも多角的に探査した方が、遠近の計測精度が上がっていく。三角測量にZ軸、上下の概念まで付けて観測すれば、かなり正確な情報が得られるはずだ。
他にも蜃気楼システムを搭載して、視覚的カモフラージュも試してみる。探査ポッドと違って自身が動くので、映像に不自然な部分が出るはずだが、逆に移動しながら幻影を被せる事で目を眩ませる可能性もある。
他次元生物の知覚がどうなっているかは分からないが、レイド戦に現れる可能性のある海賊達には効果があるはずだ。
「まあ、こんなところかな」
思いつく限りの準備はした。後はなるようになれだな。
レイド戦は20時からなので早めの夕食を摂るためにログアウト。しかし、食べてゲーム、食べてゲームな週末を送っている気がする。身体には悪そうだな。
「明日はちょっとでかけるかねぇ」
そんな予定を立てながら三度ログイン。
するとキーマさんから健闘を祈るとのメッセージが届いていた。こういう気遣いがユニオンをまとめていくんだろうな。
「そんじゃま、行きますかね」
なんだかんだでイベント戦というのは、いつもと違う雰囲気で気分も盛り上がる。
格納庫へと転移して、ハンマーヘッドへと乗り込んだ。
「システムオールグリーン、発進スタンバイ……」
シーナのオペレートを聞きながら、機体の最終確認をしていく。高機能の探査レーダーを持つハンマーヘッドに、ファルコン3機のデータがリンクしている。今は格納庫の中だが、得られる情報量が上がっている。
ハンマーヘッドのコックピットからでは死角になるような位置も、ファルコンのカメラがカバーしていた。それを知ってか知らずかシーナがコンテナに座って、髪をいじっている。妙に人間臭い仕草に見入っていると、ふとこちらを見てニタァといつもの猟奇的な笑みを浮かべた。
「みぃたぁなぁ〜っ」
「うわわぁぁぁぁぁっ」
コックピットに響いた音割れしたオドロオドロシイ声と共に、電磁カタパルトで加速して打ち出された。
「乙女の身だしなみを覗くなんてデリカシーがありませんね」
「乙女っておまっ」
そもそもファルコンのカメラ自体、制御しているのはシーナで、こちらに見せているのもシーナだった。すべてが仕組まれていたのだ。
「何がしたかったんだよ……」
「イベント前の記念撮影?」
サブディスプレイで小首を傾げたシーナは、手にしたタブレットをこちらに見せてきた。すると驚きのあまりに目を見開いて大口を開けた男の姿が。
「なんでリアルの方の顔なんだよっ」
「より記念になるかと……」
STGのVRキットには、表情を読み取って3Dモデルに再現するフェイシャルキャプチャー機能がある。その表情を読み取る外部カメラでわざわざ俺の顔を撮影したらしい。
「音声付きで販売したら稼げるかもしれません」
『うわぁぁぁぁぁっ』
「だれが野郎の悲鳴を喜ぶんだよ」
そんな訳の分からないやりとりの間に、オートパイロットでゲートに到着していた。移動時間を忘れられたのはいいんだが、もっと有意義に使いたかった気がしないでもない。
新星系……グラガンへと到着すると既に幾つもの機影がレーダーに映る。ミッション開始までまだ30分はあるのだが、お祭りの雰囲気が漂っていた。
「ひとまずは担当宙域へ移動だな」
ゲート周辺は混み合っているので、早めに移動を開始する。
担当宙域へとやってくるとさすがに機影は減ってきた。ソロプレイヤー達がやってくるのはギリギリだろうと思われる。
一方の俺は仕込みの為に宙域を探査しておく。ファルコン小隊を別々に配置していき、極力広い範囲をカバーできるようにしていく。
重力場が移動する事も考慮しつつ、周辺には重力場がないポイントを選んだ。
「重力場が近づいてきたら警報と移動を頼むな」
「はい、マスター」
ファルコンに積んだ探査レーダーもそれなりに高性能なものにしたので、撃破されると結構痛い。安全第一の運行を心がけたい。
現在宙域内で確認されている重力場は、3つあった。それぞれに離れた位置にあるので、干渉することはないが、その分戦力は分散してしまう。
極力時間差なしに撃破しなければならないので、その辺の管理が難しそうだ。
「そろそろ参加者も増えてきたかな」
宙域を一回りしている間に宙域内の機影が増えていた。その中にフウカを見つけてチーム申請を行う。
「なんでやねん」
「宙域の情報を共有しとくよ」
「ありがと」
この宙域のクリアにフウカの活躍は必須になるだろう。効率よく動いてもらうには、情報が鍵となる。俺の役割はそれを繋ぐ事だ。
今回のレイド戦は、リスポーンポイントが元の星系のステーションで、ゲートをくぐってやってこないといけないので、タイムラグが大きい。撃破されない動きが大事になってくるはずだ。
「修理用のリペアキットもあるから、機体にダメージを受けたら合流してくれ」
「わかった」
フウカと連携を確認する間に、いよいよレイド戦開始の時間が迫ってきた。
『みんなー、レイド戦、はっじめっるよ〜』
宙域チャットでフレイアちゃんの声が響く。
『カウント〜ダウン!……10!9!』
カウントダウンと共に、徐々に気持ちがたかまっていく。
「フウカ、頼むぜ」
「ん……そうだ、ご褒美」
「え、何?」
「ご褒美……再戦でいい」
「いやいや、まてまて」
『ゼロ!』
フウカのいきなりのご褒美のブッコミからカウントダウンが終わり、ミッション開始のアナウンスが流れた。