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「それじゃあ、また明日だな。楽しみにしている」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 ユニオンから呼び出しがあったと言うことで、キーマ・ブラックとは別れる事になった。どうやら宙域のチーム分けが始まり、副長として意見を求められているらしい。


「注意事項が終わって、チーム分けか」

「縄張り、面倒」

「といって、PKがいるならどこかに所属しないと、海賊と思われて狙われる……返り討ちにしてやるとか思うなよ」

「ステーションが使えないのも面倒」

「それが分かってりゃ、キーマさんやフレイアちゃんを襲うなよ」

「……腕試しはしたい」

「模擬戦ならやってくれるかもしれないな」


 キーマ・ブラックは、Bravoサーバーでも有力ユニオンのサブリーダー。本人は狙撃型で1対1は苦手だと言っていたが、ユニオン内にはドッグファイトが得意なメンバーもいるだろう。

 切磋琢磨する意味でも模擬戦ならやってくれる可能性は高い。


「ブラッディ・ジョーカー」

「ああ、PKか。レイド中に襲ってくるとか迷惑な連中だな」

「強そう、カブトムシより面白いかも」

「スカラベな。まあ、お前の相手としたら、PK相手の方が向いてるかもな。PKKをやるか?」


 レイドに合わせて海賊が出るとなれば、それに対応する人員も必要になるだろう。PKなんかに手を出す連中は、普通のプレイヤーよりも腕は立つ。フウカクラスのプレイヤーが相手をする必要があるかもしれない。


「担当エリアに出てくれたら見つける事くらいはできるだろうが……」


 Foxtrotの野良メンバーには、星系の外れが割り振られている。後で担当者に会いに行って、エントリーすればそれが持ち場。

 いつも通り広域監査ポッドでの情報収集は行うつもりだが、宙域を外れて移動すると、会議のルールに反してしまう。

 対海賊用の遊撃隊を編成するなら参加するという手もあるが、各々の宙域で注意するようにということで留まっている。


「提案する権限もないしなぁ」

「なんでやねん、コネなし」

「お前もだろ」




「スニ、称号を変えるぞ」

「あい」


 キーマとチームを組んで、名前がバレる事に気づいた俺は、称号を成金王に戻してから野良の登録に行くことにした。

 霧島遊矢は成金王。これ以上、他の称号を怪しまれたくはないからな。



「野良メンバーの登録をお願いしますー」


 ユニオンに属さない、決まったチームを持たない、ソロプレイメインのメンバーは、野良メンバーとして星系の外れにある一角を任される事になる。

 これは中央部を任されるユニオンが偉いという訳ではなく、普段からソロで連携が取れない人達が、個々の判断で行動するには、『逃げる』も選択肢として選べる星系の外れが適しているのだ。


 中央部に布陣して『逃げる』を選択した場合、周辺の宙域に敵を連れて行く形になると、逃げた先の宙域まで連鎖的に壊滅する危険がある。

 中央部の隣接地域を持つ宙域を任されるという事は、逃げるくらいなら全滅しろという過酷な使命を受けることを意味するのだ。


 俺としては気楽な辺境割り当ての方が向いている。



「登録、お願いします」

「はい、それでは識別コードをお願いします」


 ユーザー個人に割り当てられる英数10桁の識別コードを、自己プロフィールからコピーして提示されたタブレットへとコピーする。


「それでは、明日の午後8時の10分前には、担当地域へのログインをお願いします」

「あ、名前とかは要らないんだ……」

「はい、識別コードのみで、敵味方が判別できるようになってま……成金王!?」


 しまった、墓穴を掘ったか。


「あ、うん、ありがとう。それじゃあ、明日」


 言って逃げようとすると、フウカに掴まれる。


「登録、まだ」

「あ、ああ、待ってる、待ってるから」


 フウカが識別コードを登録する間、周囲から「成金王」「成金王?」「誰だっけ?」「何か動画の」などと言った会話が漏れ聞こえ、針のむしろの状態を味わうことになった。


「君、成金王とどういった関係?」

「成金王?」

「彼と」

「撃破する相手」

「ふ、ふぅん……」


 フウカと登録担当のプレイヤーにツッコミを入れたいところだが、周囲の目が気になって割り込めないチキンっぷりを発揮する。

 ここでフウカにツッコミを入れようものなら、また事案扱いだろう……ぐっと我慢だ。


「これからボコボコにする」

「そ、そうなんだ……」


 ふんすと拳を握るフウカに、担当者もやや引き気味で応えている。




 新たに成金王の名前で、周囲に誤解を与えそうな状況に、フウカの登録が終わったらそそくさと交流ロビーを後にする。

 実際、女の子に撃破宣告される成金王、復讐を誓われる成金王、女の敵だ成金王といった評価が再び掲示板を賑わせるのだが、結局は一緒にいるんだし、痴話喧嘩の類だろうで落ち着くわけだが、そんな結論になることはこの時の俺には、知る由もなかった。


「逃げたらどこまでも狙いに行く」

「分かってるよ」


 各々のパーソナルルームから格納庫に転移して、簡単な準備を行う。


「返り討ちですよ、マスター」

「無理だと思うが……できるだけ粘るよ」


 シーナの姿に戻ったサポートシステムが焚き付けてくる。

 1対1の局面で使うのはもちろんハミングバード。戦闘宙域もこちらが選んでいいという事で、機動性を活かせる小惑星帯。

 中口径の粒子砲を小口径に戻して、開発しておいた兵装を一つ積む。どこまで通じるかは分からないが、びっくりさせれれば御の字か。


「フウカから挑戦状が届きました」

「模擬戦のお誘い……か、やってやんよー」

「おーっ」


 平坦に言った俺に対して、シーナはノリノリである。




 初期星系の第三惑星、ゴブリンの巣窟になってる小惑星帯の様な場所でバトルスタートだ。小惑星帯を挟んで、お互いのスタート位置は把握した状態から。ただ小惑星帯に入ってしまうと、レーダーに映る無数の小惑星で追い続けるのは無理だろう……いや、フウカなら追えると思って動くべきだな。


 小惑星へと探査ポッドを撃ち込みながら、相手を呼び込むフィールドを形成する。フウカの性格なら、俺が罠を張ってようが気にせず突っ込んで来るだろう。


「レーダーに感、一時五分の方向」

「やっぱり、最短で来たな」


 まだ準備は万端とは言えないが、仕込みで時間が稼げるだろう。


「なーんーでーやーねんっ」


 俺の機影を見つけたフウカは、小惑星に擦ってるんじゃないかと思う最短ルートでほぼ減速しないままに突っ込んでくる。更には周囲にミサイルを発射して小惑星を砕き、視界とレーダーを撹乱させてきた。


「イノシシ武者かと思ったらっ」


 砕けた小惑星がカラカラと船体に当たってくる。小ぶりな欠片なら問題ないが、大きめの奴は避けないと紙装甲のハミングバードでは思わぬダメージに繋がる。

 こちらもできるだけ最小限の動きで小惑星を避けて、反撃の粒子砲を撃つ。が、牽制以外の何物でもない攻撃は、小惑星に阻まれてフウカのファルコンには届かない。

 そして射線が通ったと思った時には……。


「攻撃来ますっ」

「わかってらぁっっっ」


 急加速、急転進がウリのハミングバード。こちらの予測軌道へと撃ち込まれる正確な射撃を、予測を上回る速度で動いて避ける。


「!!!」


 間合いを詰めながらの射撃の一発が、フウカのファルコンにヒット。しかし、小口径の一撃ではシールドの耐久力を削るというほどのダメージにもならない。


「弱っ」


 フウカの短い声と共に返ってきた粒子砲は、既にこちらの機動力を補正して狙っている。しかし、そこは予測済み。小惑星の影に滑り込んで、直撃させない。そのまま小惑星の影に居続けて、フウカのファルコンが通過するのを待ち、その背後へと出現。

 加速力を活かして、一気に迫る。


「やる……けどっ」


 フウカは小惑星ギリギリを飛行して、こちらの追跡を振りほどこうとする。何とか機体の性能差でついて行くが、攻撃は全然当たらない。


「ととっ」


 追いかけていたフウカの機体がその場で180度回頭、こちらを向いて攻撃してきた。前に進みながら機体の向きだけ変えて攻撃してくる宇宙ならではの戦法。

 向きを変えて直ぐに正確な射撃をしてくる技術よりも、この小惑星帯の中で直進できる軌道を見つける目の方が恐ろしい。

 しかし、ある程度予測していたおかげで、反転するラグを使って近くの小惑星へと逃げ込み、攻撃を回避。




「面白い」

「もう冷や汗タラタラなんだが……」

「嘘つき」


 こちらの追跡を振り切り、距離ができた所で仕切り直し。少しは楽しそうなフウカの声に満足しつつも、正攻法で勝負していては、小口径しかない俺には勝ち目はない。

 一気に肉薄しての高速振動剣を当てられるか、その一点に勝負は絞られる。

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