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『みんなー、STG楽しんでるー!』

「「「うぉぉぉぉぉぉーっ」」」


 ライブのスクリーンにフレイアちゃんのアップが表示されると、周囲から地響きの様な歓声が沸き起こる。リストバンド型コントローラーごしに、大気の震えが伝わってくるようだ。


『今日はちょっと時間が取れなかったから、会議には参加できません、ごめんなさい。その代わり、明日はバリバリに戦うからよろしくねーっ』

「「「うぉぉぉぉぉぉーっ」」」


 俺、フレイアちゃんを守って死ぬんだ。

 フレイアちゃんの射線に入って妨害すんな。

 そうか、フレイアちゃんからご褒美FFフレンドリーファイア……。

 迷惑だからやめろ。


 ざわざわと周囲のボルテージが上がるのが感じられた。


『任務達成のあかつきには、生ライブやっちゃうからねーっ』

「「「うぉぉぉぉぉぉーっ」」」


 さすがというか、自分の価値を理解しているというか、会場の盛り上げをしっかりと行って、フレイアちゃんとの通信が途切れる。

 しかし、周囲の熱気は収まる様子もなく、会議は中断を余儀なくされた。




「アイドル?」


 そんな中で小首を傾げる存在が傍らにあった。


「いやいや、流石にフレイアちゃんは知ってるでしょ。このゲームのPVとか見てないの?」


 その問いかけにフウカはフルフルと首を振る。


「え……じゃあどうやってこのゲームを知ったんだ?」

「とうさんからのプレゼント」

「ほ、ほぅ……」


 そういう導入もあるのか……VRセット込だからかなりなお値段なんだが。結構なブルジョアか?


「じゃあ、今からでもPV見てみればいいよ。アイドルにして撃墜お……」


 説明しててフウカの性格を思い出し、話していいのかと止まる。しかし、必要な情報は伝わってしまったようだ。


「撃墜……お……う? 強い?」

「あー、うー、まあ、強いかな。1対1の強さというより、多数を相手にした時の制圧力という感じだけど」

「ふぅん……」


 やめて、その獲物を見つけたみたいな目は。


「フレイアちゃんを襲うとか、やめとけよ。周囲の様子を見たらわかるだろ。周りが全部敵になるんだぞ?」

「周り全部が……」


 やめて、それも面白そうとか目を輝かせるのは。


「ゲームだし、自由出撃で戦うのはルール内」

「いやいや、制約はあるだろ。ステーションの利用が制限されたり」


 自由戦闘で他の宇宙船を攻撃するなど海賊行為をするとステーションでの修理やパーツ購入などの手数料が上がったり、最悪は利用停止になってしまう。この辺はAIが管理しているので、ごまかす事もできない仕組みだ。

 しかし、フウカはコテンと首を傾げてのたまう。


「ゲームなのに楽しまないと損」

「そうかー……」


 若者ゆえの怖いもの知らずなのか、他人に目を付けられるのを恐れていない。

 それもまた純粋にゲームを楽しむ要素だと思っているのか。

 何にせよ、俺には真似のできない割り切り方だ。




『さて、皆さん。フレイアちゃんと戦える楽しみの為にも、ちゃんとした戦略を立てていきましょう』


 進行役のプレイヤーが、改めて周囲に呼びかけを開始した。


『ちなみにフレイアちゃんには、明日参加するエリアを選んでもらうので、現時点で優劣はないから安心してくれ』


 フレイアちゃんが参加するとなれば、そのエリアは人が集まる可能性はある。予めエリアを決めていたとしても、持ち場を離れて合流するメンツが出てもおかしくない。


『逆に担当エリアを外れるようなメンバーが出れば、全フレイアファンを敵に回す覚悟は決めろよ』


 進行役が声のトーンを落として釘を刺す。事前登録で違反を犯せば、相応の報いが待っている。いくらゲームとはいえ、その代償は大きいだろう。




『では改めて今回のミッションの内容ですが、ステーションを移設するための宙域の確保です。新星系グラガンは、宙域に重力場が多数形成されています』


 Foxtrotから解放された新星系は、グラガンというらしい……ちゃんと見てなかった。ちなみにAlphaの先はデフシン、Bravoの先はダクロンと言うらしい。


『重力場を発生させているのは、他次元生物であるため、これを排除するのが任務です。まだ重力場を発生させている他次元生物に関する情報はありません』


 ん、スカラベの情報は無いのか……と、思ったら、続きがあった。


『ただ宙域を探査中に遭遇した他次元生物の情報があるので開示します。しかし、コイツが重力場の発生源であるかは確認が取れていません』


 そういってライブモニターに、スカラベの映像が流された。遠距離からの撮影の後、発見した小隊がそのまま攻撃を仕掛けている。

 チキンな俺と違って、しっかりと戦ってみようとするのが、本来の哨戒チームなのだろう。


『このフンコロガシを発見後、4機小隊で攻撃を仕掛けましたが、目立った反撃もなく、倒すこともできないまま、一定距離を移動したフンコロガシは、次元の狭間へと消えていきました』


 小惑星の塊を次元の穴へと落とし込み、自らもその穴へと消えていく姿で映像は終わる。


『甲虫の姿から分かるように、堅固な防御力を持っていて、4機がかりの攻撃でも全く手応えがなかったようです。先のレイド戦のクジラ並の耐久性であっても不思議はないでしょう』


 その報告に周囲がどよめく。クジラ1匹を倒すのにはかなりの時間が必要だった。それに匹敵する生物を複数同時に相手にしなければならないのだ。

 他のサーバーからも戦力が集まる分、運営も相応の敵を用意したということだろうか。




『反撃は全くなかったのか?』

『はい、哨戒チームがかなり接近して攻撃しましたが、反撃はありませんでした』

『なら純粋な火力勝負か。またフレイア有利なボスかよ』

『残念ながら、今回はフレイアちゃんを頼ることはできません。それはこの宙域で戦った人なら分かるかと思いますが、複数の重力場が干渉し合う中では、ミサイルがまっすぐ飛ばず、重力場に捉えられると引きずり込まれてしまいます』


 トップチームが集まると、有名人に対して敵対心を抱く者もいるようだ。運営のフレイアちゃん贔屓ひいき揶揄やゆする様なセリフが出たが、司会役によって否定された。


『同じ様にレールガンに関しても、軌道が曲がる事が確認されているので、遠距離からの狙撃は難しいかと思います』


 重力場が多数あり、しかも動く宙域。重力の影響を受ける実体弾は、かなりの制限を受けてしまうらしい。となると、主兵装は粒子砲やレーザー兵器となってくるのか。


「その粒子砲も一点に絞らないと、あの甲殻は貫けなさそうだな」

「……反撃がないと面白くない」

「またコバンザメがいるかもしれないぞ」

「コバンザメを倒した奴を倒せたら満足」


 完全に標的が変わって、コバンザメは用済みらしい。コバンザメが泣いてるぞ。

 しかし、護衛がいる中で相手を撃破するとなると、クジラと変わらないということになる。いくら多対少数のレイド戦とはいえ、運営が同じ戦いをもう一度仕掛けてくるか?


「何か仕掛けてくる可能性は高いよな」

「その方が面白い」


 フウカはその場の判断で対応する気だな。初期型ファルコンは、飛び抜けた性能が無い分、臨機応変に戦いやすい機体なのだろう。


「そういえば、フウカはファルコンから乗り換えないのか?」

「……?」

「いや、流石にそろそろ武器を強化するなり、装甲を厚くするなりしないのか?」

「難易度が下がるなら要らない」

「……そうですかー」


 普通は戦いが楽になる方がいいと思うんだが、フウカとしてはギリギリの勝負を楽しみたいらしい。バトルジャンキーなんだろうか……リアルが不安になるな。


「俺は火力の高い遠距離砲を用意するつもりなんだが、射撃の腕がイマイチでさぁ。味方を巻き込みそうだから、使ってみないか?」

「どんなの?」

「まだ最終型はできてないんだが……」


 輸送船のマンタに、大口径を上回る超大型粒子砲を接続した設計図を見せる。正直なところ、マンタはジェネレーターに過ぎず、銃本体を操作する形になるはずだ。


「動けなさそう」

「まあ、固定砲台だな。超遠距離から狙撃していく感じ」

「反撃されなさそうだから無理」

「断る理由がアレだが、気乗りしないなら仕方ないな。でも重力場の中で戦えるのか?」

「やりにくい分、楽しい」

「そっかー……」


 高難易度を純粋に楽しめる技量があれば、俺も悩まずに済むんだがなぁ。



「面白そうな話をしているね」

「え……?」

「すまない、通りすがりに超遠距離狙撃というのが聞こえたんだが……部外者に聞かれないように、チームチャットに切り替えた方がいいよ」

「あ、いや、うるさかったですか。すいません」

「いや、そうではないんだが、秘密にしたい情報は、気を付けたほうがいいと思ってね。いらないお世話だったかな」

「いえいえ、注意してくれて助かります。あまり人と話す機会がなかったから、チームチャットとか思いつきもしなかったんで」

「なんでやねん、コミュ障」

「なら、お前が注意してくれよ」

「知らなかった」

「一緒じゃねーか」


「なるほど……そういう芸風をしてると、そんな変わった称号が手に入るのか」

「いや、芸風とかではないんですけどね……」

「称号も気になったんだが、会話の内容について聞いてもいいかね?」

「会話の内容? あんまり人と話してないって事ですか?」

「いや、超長距離砲の方だ。既存の大口径以外に何かあるのかどうか。俺は普段レールガンを使っているんだが、今回は使えないみたいなんでね。何かあるなら教えて欲しい。情報料として、コストは払うから」


 ふむ、特に秘密にするつもりもなかったし、情報料を取るというのは抵抗があるな。


「もしかして、射撃の腕に自信がありますか?」

「自分で言うのもなんだが、狙撃タイプじゃそれなりに上位だと思っている」

「なるほど……良かったら、試験運用を手伝ってもらえますか。俺、射撃下手なんで……」

「射撃が下手なのに長距離砲を知ってるのが大いに疑問だが、情報が貰えるなら喜んで協力させてもらうよ」


 思わぬ所で射手を手に入れる事ができたようだ。これが交流ロビーの醍醐味か。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「難易度が下がるなら要らない」 ↑ 装備強化もしないタイプのバトルジャンキーΣ(゜Д゜)リアルやレベル制だと詰むけどこのゲームでは上手く才能と主義を発揮できてそうですね。ゲーム内通貨は何に使…
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