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「知ってた……」
月曜日の昼休み、公式サイトを見た俺はやっぱりという気持ちと、早すぎねぇかという気持ちに苛まれていた。
『一部自動操縦機能に予期せぬ効果が認められたため、調整を行わせて頂きました。その結果、一部補正機能が正しく機能していなかったので、修正を行いました』
説明としてはそれだけなので、制御ユニットでの遠隔操作に関するものかは分からないが、十中八九そうなのだろう。
強すぎるのは実感してたし仕方ないと思う反面、もう少し稼がせてくれよとも思ってしまう。
「まあ仕方ないな」
元々無双プレイが好きな訳でもないので、普段もやたらと強過ぎる装備は使わない、縛りプレイする方だ。素直に修正を受け入れよう。
「ま、負け惜しみじゃないんだからなっ」
そんな夜のログイン。
「お帰りなさいませ、マスター」
「アップデートの詳細を聞こうか」
「はい。修正内容としては、遠隔操作ユニットの射撃にランダム補正が掛かり、同一ポイントを狙ったとしても、誤差が生じる様になりました」
つまりは、7門一斉射撃を行ったとしても、着弾点にブレが出るようになったと。
普通のプレイヤーの射撃が狙った所に飛ばないのは問題だが、元々の狙いにブレが出る。しかし、AIであるシーナは狙ったポイントもブレないので、一点集中が可能だった。
なので、シーナの狙いにもブレを組み込んだという事らしい。
「私とマスターのコンビネーションプレイを熱く語ったら、それを妬むように修正してくるとは……」
「お前のせいかっ」
思わずシーナの顔を掴むようにアイアンクローしてしまう。
「ひ、ひひゃいまふよ〜」
おお、頬を掴まれて言葉が歪むところまで再現されてるのか。フニフニと頬を押してジタバタするシーナの様子を確認していると、パシンと手を叩かれた。
「も、もう。乙女の柔肌を無造作に掴むなんて、酷いですよ」
「お、おう……」
咄嗟の行動で意識する間もなかったが、女の子の顔を無造作に掴むとか、やっちゃダメだな。うん。
頬に指の跡が赤く残ってるのを見て、罪悪感と羞恥心に苛まれる。
「そもそもの発覚は、マスターが任務達成タイムを更新したのがきっかけだったんですよ」
頬を摩りながら唇を尖らせて文句を言ってくる。
「クリアタイム?」
「はい。一部の任務で一気にタイムが縮まっていたので、不正が無いかの精査が行われていたんです」
そこでプレイヤーのAIであるシーナに、聞き取り調査が行われたらしい。プレイヤーの行動を管理するAIは、不正行為を発見する役割もあるらしい。
「そこで私はマスターの開発した遠隔制御ユニットで、ちぎっては投げ、ちぎっては投げの活躍をしたと報告しました」
ドヤ顔で腰に手を当て、胸を反らすようにしてふんぞり返る……おかしい、クールな雰囲気だったのに、いつの間にかアホの子属性が付き始めている。
「まあ、あらましは分かった。つまりは射撃が下手になったと」
「私が悪いんじゃないです。制御ユニットの方に修正が入って、狙った所に飛ばなくなったんです」
パーソナルルームのモニターで、遠隔制御ユニットを呼び出して見ると、制御精度という項目ができていて、Dという評価が入っていた。
「つまりは、ユニットのランクを上げれば、射撃精度も上がっていく感じか」
「私の反応速度に追いつくには、マグネットコー……」
「はいはい」
いらない知識ばかりが増えているな。アホの子属性もどこかで拾ってきてしまったんだろう。
「どの程度ブレるのか確認しておくか」
撃破任務のBランクへと出撃して、シーナの射撃がどれだけブレるようになったのか確認してみる事にした。
任務内容は海賊船の撃破任務で、難易度はそこまで高くない。任務をこなすうちに、索敵に時間が掛かるのが分かってきたので、ファルコンの1機に、広域探査ポッドを積んで索敵を担当させている。
「レーダーに感、襲撃ポイントから7時の方向です」
ブラックイール型に襲いかかり、そのコンテナを奪った憎き海賊船を追跡、攻撃に移る。
海賊船は4機。うち1機はコンテナを引っ張っていて動きが遅い。残り3機がこちらを迎撃するため近づいてくる。
先頭の1機に狙いを定め、トリガーを引く。ハミングバードから赤みを帯びた粒子砲が発射され、それに続いてシーナの操るファルコンからも射撃開始。
「うおぉ、全然当たってねー」
「テヘペロ(棒」
俺の粒子砲は命中したが、ファルコン達の計6門で当たったのは一発のみ。海賊船を撃墜するには至らず、反撃がやってくる。
ハミングバードを操作して、余裕を持って回避するが、それに追随するファルコン3機のうち、1機が被弾する。シールドで耐えれる範囲で問題はないが、昨日ならば避けていたはずだ。
「攻撃も防御もだだ下がりかっ」
敵の攻撃を回避して、行き違う海賊船へと急旋回。旋回性能に勝るハミングバードは、相手よりも早く振り向ける。
「ターゲットリンク解除」
遠隔制御のファルコンはまだ旋回の途中なので、変な方向に撃たないようにリンクを解除しながら、海賊船を追いかけて撃っていく。火力を上げた中口径粒子砲で3発、4発と当てていけば撃破できた。
1機撃墜している間に残り2機が向きを変えてこちらを攻撃してくる。それはこちらのファルコンも同じ。
「下手な鉄砲、数撃ちゃ当たるっ」
「下手じゃないですー、調整がヘボいんですー」
互いに距離を詰めながらの射撃戦。海賊船も射撃精度は良くないので、こちらの被弾率は高くない。
となれば3対2の数的有利に、新品とつぎはぎだらけの海賊船とでは勝敗は決している。
そこにハミングバードで流れ弾が来ない場所から十字砲火を加えれば、更に時間を短縮して撃破できた。
残るはコンテナを引っ張っていた1機だが、こちらは輸送船寄りで武装が乏しかったらしい。コンテナを切り離して逃げ出したところを、追撃して撃墜したが反撃らしい反撃はなかった。
「昨日とは別物だな……こんな下方修正したらクレームモンだろ」
「今のところ、被害者はマスターだけでしょうけどね。どうしましょう、クレームを送りますか?」
「あー、うー、別にいいや……」
自分でも強すぎるのは自覚してたしな。Dランク性能って事は能力さえ向上させていけば、実用レベルにもなってくるだろう。
「マンタの採掘は大丈夫か?」
「静止目標を相手にするので、さほど影響はないかと思います」
「またしばらくは採掘専用だな。まあ、そういうゲームだし、問題ない」
「マスター、このゲームはシューティングゲームですから。採掘メインじゃないですからっ」
シーナに突っ込ませる事に成功して満足したところで、日課をこなしていく。
シーナの知的クールなイメージは、実のところ人形アンドロイドになってから、十分なデータが揃ってないからの無表情だったのだろう。
最近は様々な表情を見せるようになっている。拗ねた様子や、怒った顔、焦った顔。表情が動くと幼く見えてくるから不思議だ。
ただどうしても笑顔だけは見せてこない、解せぬ。
「お、アバター衣装の出品があるな」
先日から衣装作製用機械の販売をはじめ、プレイヤー間での衣装の流通を進めよう計画が、次のステップに入ったようだ。
「ふむふむ、デニムのズボンにキャラプリントTシャツか」
どちらも素材にプリントするだけで作製可能なシンプルなものだ。まだ立体感を伴った衣装の作製物は出ていない。それでも閑散としていたアバター用装飾品に、品物が出てくるのはいいことだ。
様々な姿が出てくれば、シーナと一緒にロビーへ出ても違和感がなくなるはず。
その時の衣装も作ってみてはいるものの、あまり上手くは作れない。まあ、俺自身に縫製の経験がないから、服の構造がどうなってるかわからないのが大きい。
といって、衣装1つのために勉強するにはハードルが高い。できれば機械を買ってくれた人に卓越した技術を持つ人がいることを願っている。
実際、クリエイト系のゲームを見ると、よくぞここまでといったお城や街並みを再現した映像もあるからな。
レースゲームなんかでもアニメキャラがプリントされた痛車なんかが走っている。
このゲームにも、センスのある人はいるはず。その登場に期待しよう。
そのためにも衣装作製用機械の出品をしていく。もうメイド服は出さなくてもいいだろう。
「マスター、お時間です」
「ああ、平日って厳しいなぁ」