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ハミングバードの修理が終わった辺りで再びのログイン。予定通りに装甲の張替えと、装備の新調が行われている。
「カニの甲羅……加工すると赤くなるのか」
緑がかった灰色、泥色だった甲羅だが、ハミングバードの装甲へと加工すると茹で上がった甲羅の様に赤くなっていた。
「それで3倍速くなるって訳じゃないだろうけど」
そう呟きながら先程思いついたアイデアを開発機にセットする。簡単な機構ではあるが、完成には少し時間が掛かるようだ。
「じゃあ予定通り撃破任務へと向かうか……の前に」
俺は中古市場の戦闘機を調べていく。
サービス開始当初は中古市場の宇宙船はかなり安く出回っていたが、それを知ったプレイヤー達が購入していった結果、中古市場は性能に見合った相場になっている。
「これなら新品を買ってもいいか。ファルコン型を3機購入で」
「いきなり太っ腹ですね」
初期型機体は売買に差額が出ないという特別な処理がなされている。つまりは買った値段でそのまま売れるという事で、お試しで売買して自分に合った機体を探せるようになっていた。
中古市場は変動相場だが、初期型機体には変化がない。まさにお試しするには丁度良いのだ。
「これにマンタの制御ユニットを転載してくれ」
「はい、マスター」
制御ユニットをバージョンアップさせた事で、自動帰還できるようになったり、レアメタルに絞って採掘するような少し進んだ指令を送れるようになっていた。
これは戦闘行為に関しても進歩を見せていて、簡単な編隊飛行をとれるだけだったのが、自己の判断で回避行動をとれるようになっていた。
更には自機の方に火器管制を回して、遠隔射撃する事もできる。ゴブリン狩りの時にマンタを砲台として使った手法だ。
「遂に制御ユニットでの1人4機編隊を実現だぜ」
「……お友達を作れないマスターのリアルが心配になります」
「ち、違うよ。友達ぐらいいるよ。ただ編隊を組むなら自分の意思がダイレクトに伝わる方が効率的だから、より大きな戦果をあげられそうだって事で……それに報酬も1人で貰えるから割増になるしっ」
「そんなに早口で話されるとは、図星をついてしまった様で、申し訳ありません」
「ぐぬぬ……」
直視できないとばかりに視線を外して頭を下げるシーナに追い打ちをかけられる。と、友達くらい作ろうと思えば作れるよ。関係維持が面倒なだけでっ。
宇宙船の購入から装備の換装は、さほど時間が掛からずに終了していた。まあ、ここで時間を取られる様だとプレイする意欲に繋がるからな。
逆に開発には時間が掛かるのは、既存の兵装との兼ね合いで不具合が生じないかのチェックが必要だからだろう。AIによって実装が行われるとは言え、そこにエラーが生じない訳ではないだろう。
最終的には人間の目である程度のチェックは必要なんじゃないだろうか。
何にせよ、ホイホイと新兵装を開発できちゃうと、プレイヤー間の有利不利もあるだろうしね。
「それじゃ行ってみようか」
「はい、マスター」
模擬戦であるDランク、その実戦版であるCランクには、マルチ任務がほとんどないので、いきなりBランクから始めてみる事にした。
Bランクは索敵から始まる星系の一部を使ったシチュエーション任務で、自軍有利から均衡した辺りの条件になっている。
選んだ任務は輸送船の護衛だ。
β時代の愛機だったブラックイール型輸送船を、生産コロニーまで送り届けるというもの。
自由出撃で宇宙に出ても海賊船に攻撃されるなんて事は滅多にないのだが、そこはゲーム。この任務では確実に襲ってくる。
ブラックイールの速度に合わせて飛行していると、丁度ステーションとコロニーの中間辺りでレーダーに影が出た。
「敵影3、戦闘機と思われます」
距離があるうちは機種まではわからない。光学映像で捉えられる距離まで接近する必要がある。
「ブラックイールに被害がでないように、こっちから接近するぞ」
「はい、マスター」
「フォーメーションは、フィンガーフォー」
俺を先頭に左右に展開する形で編隊を組む。右手の中指が俺で、左右に並んだ僚機はやや下がった位置。
プレイヤーが編隊を組むには結構な熟練が必要そうだが、シーナなら的確に調整してくれる。
少し左右上下に機体を揺すって追随を確認した後、接近してくる海賊船へと向かう。
「ターゲットリンク。同じヤツを狙うぞ」
「了解です」
回避行動を開始しながら、同じ様にランダムに飛び始めた海賊船と相対する。敵機はファルコン型をベースにしているが、色々なパーツが付け替えられたオリジナル機。
とはいえ性能を上げるためではなく、修理する際にパーツを寄せ集めた感じで、加速性能などにバラツキが出ている。
対してこちらは高機動のハミングバードと、新品のファルコン。戦力としては圧倒的に有利だ。
スティックで海賊船の1機をセンターに捉えて、トリガーを半引き、ロックオンマーカーを付けると、そのままトリガーを引き絞って、粒子砲を発射。
今までは小口径だったが、載せ替えたのは中口径。光の帯がやや太くなり、鉱石で強化したためか、やや赤色を帯びている。
そしてワンテンポおいて、左右の僚機からも粒子砲が発射され、海賊船へと命中した。計7門の粒子砲の集中砲火を受けた海賊船のシールドは、一瞬で過負荷を迎えて、そのまま機体へとダメージが入って撃墜した。
「あれ、これめっちゃ強くね?」
「現行、粒子砲を7門装備している機体はありませんので、最高クラスの攻撃力になっているかと」
プレイヤーが連携して攻撃したとしても、そこにはラグが生じるが、サポートシステムであるシーナが、俺の入力に反応して射撃を行えば、ほとんどラグはない。
ターゲットに関してもリンクを行っているので、ほぼズレる事なく一点集中。7門の粒子砲を積んだ戦闘機で1つの目標を狙ったような状態になっている。
「あー、これ修正されるヤツかもね」
仲間を撃破された海賊船もこちらに向かって攻撃を開始。散発的な射撃に対して、こちらは回避行動をとりながら反撃。7本の粒子砲が突き刺さればあっという間に撃沈できてしまう。
3機の海賊船を全く被害を受けることなく撃破した俺達は、ブラックイールの元へと帰る。
その後、行く先々で殺人事件が起こる探偵のように、ブラックイールは3度の襲撃を受けたが、事もなく迎撃してのけた。
「こんなに襲撃を受ける輸送船には乗りたくないな」
「撃墜が早すぎて、リスポーンが早まったようですね」
当然のようにSランク評価でクリアできていた。
「ヌルゲー過ぎて申し訳なくなるな」
「だがそれがいい」
「ひとまず修正される前に任務こなすか〜」
護衛任務は護衛対象が目的地に到達するまでが遠足なので、達成に一定時間が掛かってしまうので、敵を撃破するだけの任務へと切り替えて、Bランクの任務をやっていく。
「流石に相手が多いと過剰火力があっても苦戦はするか」
蜂の巣を破壊する任務では、周囲を蜂型他次元生物に囲まれて、波状攻撃を受けそうになった。それでも一点突破で包囲を破り、そのまま巣へと火力を集中すれば、追ってくる蜂に攻撃される前に、巣の破壊に成功している。
スリルはあっても危険な状況には至らなかった。
「今日はこんなところかね」
「ちゃんとシューティングゲームしてましたね」
「なんか体調崩しそうだな、やはり控えるか……」
「いえいえ、このゲームはシューティングゲームですからっ」
圧倒的火力で無双するのは楽しかったが、どこか物足りなさを感じるのだから人間というのは困った生き物だな。
とはいえゲート解放は俺も楽しみなので、コア収集に貢献できるならばやっていく方がいいだろう。
「この勢いなら平日でも稼げそうだな」