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格納庫に死に戻りした俺は、ひとまずハミングバードの修理を考える事にした。幸いにして先に帰していたマンタ達は、鉱石を持って帰ってきている。
中には今までよりも高品質の赤色鉱石も混ざっているので、武装強化が可能だ。
ハミングバード自体は全損状態で、追加武装である高速振動剣も失われている。
「まずは高速振動剣を赤色鉱石で作ってみるか」
一度開発した部品、武装は、パーツ作製用工作機械で作れるようになっている。ここで作製する際に、汎用素材に色付き鉱石を混ぜる事で、補正の付いた武装を作る事ができた。
高速振動剣に関しては、威力の向上は必要なさそうだが、コバンザメに弾かれた事もあるのであるに越した事はないはず。ワイヤーの長さは100mのままにしている。伸ばそうと思えば伸ばせるが、その分巻き戻すのに時間が掛かるため、再発射までのインターバルが長くなってしまう。今のバランスに慣れてきているので、そこはいじらない事にした。
「サブウェポン問題は……小口径粒子砲も赤色鉱石で作るくらいしかないか?」
遠距離武器と接近戦武器、どっちがサブかというと、普通は接近戦武器なんだが、敵を撃破しているのは剣の方なので、メインは剣だろう。
ただ元の威力が低い小口径粒子砲を数%伸ばしたところで、誤差程度の向上にしかならないんだよな。
並のゴブリンを撃破するのには使えても、リーダークラスになるとほぼ効かない。カニやイカには全く意味をなさなかった。
根本的に何かを変えないと今後の戦いで使えない気がする。
「先に装甲を考えようか」
開発機で分析していた他次元生物の素材を確認してみる。
「コバンザメのコバンは流石に堅いな」
コバンザメの頭に付いていたコバンは、高速振動剣でも斬る事ができずに弾かれてしまった。その強度はかなり高い。
しかし、その分なのか質量も高い。
「あと電磁石の追加効果か」
ハミングバードもくっついてしまって逃げられなかった吸着効果は電磁石らしい。鉱石を集めるのに使えたりしないかな?
磁石に付く金属は限られてるか。汎用素材の鉄みたいな物なら集められるんだろうけど、その他のレアメタルなんかは別素材っぽいしなぁ。
どちらかと言うと、命中補正とかに使えるのだろうか。磁力の届く範囲に入れば、自動的に吸い付いてくれるなら……宇宙空間でスラスターなどを使ってその距離に近づけるなら、そのままスラスターで誘導する方が早いな。
結局はコバンザメのように大型船にくっついて運んで貰うくらいしか、使い道はないのかもしれない……。
「現状ではまだ用途は見つからないか。じゃあ、カニの甲羅はどうかな?」
カニからはぎ取れた甲羅は、軽いものの強度は今の装甲には及ばないようだ。特に衝撃に対する耐性が低く、体当たりやミサイルなどの爆発に弱くなるようだ。
「その代わり粒子砲に対しては、やや高い数値になってるな」
「泡のコーティングで粒子砲を防げるみたいです」
そういえばカニの泡で粒子砲を止められていたなと思い出す。あれ、泡が弾けて止めるというよりは、泡を構成する成分が粒子砲の威力を減衰していたらしい。
その成分が甲羅にも含まれていて、粒子砲に対して有効なようだ。
「まあ、何と言っても軽さが魅力だな」
機体が軽くなればハミングバードの機動性を更に高める事に繋がる。もしくは軽くなった分、他の装備に重量分を回すことができるようになるはずだ。
「小口径から中口径に戻しつつ、威力を高める赤色鉱石を使えば、戦闘力は増すはず」
ハミングバードの装甲をカニの甲羅を使った物に置き換えていく。小型の中でも最も小型であるハミングバードに必要な装甲はそれほど多くない。
更には一部の装甲は装着しないという選択をして、何とか小口径粒子砲を中口径に戻す事に成功する。
「でもマスター、これだと直撃を受けると一気に致命傷になりますよ」
「当たらなければどうということもないよ」
「凄い自信ですね」
「というよりは、そうしないと今後戦えないって事なんだけどね」
既にお飾りになっている粒子砲を、ちゃんと兵器として使っていくには最低限中口径が必要なのだ。
「高速振動剣が完成したら、中口径の粒子砲も赤色鉱石で作製っと」
レアリティの高めの鉱石で作製を予約しておく。
戦闘機としてほとんど余剰装備のないハミングバードは、武装を整えれば他の部分は修理用工作機械の機能で補修可能となる。
ソードフィッシュなどの偵察艇は、レーダー類の修理が面倒なので、手間と費用が掛かってしまう訳だが、この辺は壊れてなんぼの戦闘機が優遇されても仕方ないところだな。
「お、もう服飾用機械も売れてしまっているな」
出撃前に出品した機械が売れていたので、新たに作製しておいた分を出品。更に作製を進める。
服飾用機械は、Lv2の生産コロニー用工作機械が必要なので、あまり作れる人がいないだろうから今が稼ぎ時だ。
といって普及させる事も目的なのでぼったくるつもりもないが。そういう意味ではまだ新たなアバター衣装の出品は出ていない。
ワンピースにそれっぽい印刷では売り物にしづらいから、色々と研究が進んでくれる事を期待する。
「イカのコアはゲート解放のために納品と」
他の星系へと旅立つ為のゲートは、その必要数に向けて着々とコアが納められている。俺も手持ちにあったカニやゴブリンリーダーのコアを納品してあった。
「やっぱりコアを集めるなら撃破任務をこなす方が早そうだな」
「元々そういうシステムですから」
撃破任務は相手を撃破した分と、ミッションクリア報酬分でコアを獲得するチャンスがある。撃破任務を回数こなす方が効率は良くなるだろう。
「ハミングバードが直ったら撃破任務をやるか。新装備の火力も確かめたいし」
「はい、マスター」
「という事で、一旦ログアウトだな。ハミングバードが直った頃に戻るよ」
「お疲れ様です」
ゲーマーとしてだらだらとプレイを続けたい気持ちもあるが、そこはちゃんとメリハリを付けた方がよりプレイを楽しめる。
まあVRゴーグルの装着は思ったよりも疲れやすいので、適度な休憩を必要とする部分もあるけど。
没入感が高まれば集中しやすいんだが、集中するって事はそれだけ疲れるって事だからな。
無理して失敗が多くなればそれだけ無駄な時間も増えてしまう。
「失敗といえば貝をどうするかだな」
小惑星帯に潜む小惑星に擬態する貝、ミミックラムとの戦い。視界内に出現してくれたら、即座に攻撃して撃破を狙うというのもありだろうが、その特性を考えれば死角に出現する可能性が高い。
射撃武器はなさそうで、噛み付きによる攻撃だけなら、タイミングを合わせて剣による迎撃を行えば倒せそうだ。
しかし、周囲の小惑星を動かされて、それに紛れるように接近されると、反応が追いつかない。
考えられるのは、近づいてくる小惑星をすべて迎撃する方法だ。ただそれにはフレイアちゃんの様な広い視野と、小惑星を次々と破壊できる火力が必要だ。
火力を持つミサイル艦を購入する事は可能だろうが、俺の射撃センスではそれを使いこなす自信がない。
俺が得意なのは機体の操縦部分、接近すればするほど俺の間合いにできる事だ。
「ん……という事は、それができれば解決するか」
俺はその実現のために構想を練ることにした。