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スペーススクイードを撃破して、採掘場の安全を確保できたので、マンタ達を呼び戻し採掘作業を始めさせる。
この辺りは赤色の鉱石が産出されるので、それをメインに集めていく。
赤色の鉱石は、作製や開発時に使用することによって、攻撃力に関わる補正が付き、武器類を強化してくれる。
ハミングバードの武装強化の一助となってくれるはずだ。
近距離戦では破格の攻撃力となる高速振動剣だが、やはり戦闘においては飛び道具の方が有利だ。小口径の粒子砲1門では心許ない。
ただ破壊力を求めてレールガンを装備すると、銃身はまだしも弾の方に重量を割かなくてはならなくなる。
レールガンのような実体弾は、質量×速度の自乗という物理法則に従い、重さも威力の一因となるからだ。
機動力に影響が出ない程度の装弾数にしたり、弾を小さくしたら使い物にならなくなる。
ミサイルも同様で、装弾数が少ないと主武装として使えない。
レーザーは防御手段が豊富で、ミサイルを迎撃するような防衛には向くが、攻撃に使用してもエネルギーシールドで無力化されやすい。
となるとやはり粒子砲しか無いわけだが、その威力は口径、一度に飛ばす粒子の数で威力が変わってくる。
口径を増やさずに威力を増そうとすれば、粒子の密度を高めるしかない。帯電粒子はその名の通り、電気を帯びた粒子で、電気というのは同極であれば反発し合う。それを外部から圧力をかけることで収束させて撃ち出している。そのため、一定距離進むと、外圧が落ちて収束しきれなくなり威力を失う。
密度を高めるにはこの外圧を上げるしかないのだが……。
「細けえ事はいいんだよ。とにかく赤い鉱石を使えば威力が上がるんだから」
「はい、マスター」
「で、レアリティの高い鉱石ほどその効果は高くなる」
ソードフィッシュでは見つけられなかった鉱石も、ハンマーヘッドや詳細探査ポッドで見つけられるようになった。高性能なレーダーによって発見できる鉱石はレアリティが高い。
ただしそこには守護者がいる可能性があった。
マンタが採掘を進める間に、そうしたレアリティの高そうな鉱石に目星を付ける。高機動ではあるが遠距離攻撃に難のあるハミングバード、その有利な戦場は小回りが必要で身を隠せる遮蔽物が多い場所。
小惑星帯の中でも密集している場所だった。
まさかこれが悪手となろうとは、この時は思っていなかった。
「マンタのコンテナがいっぱいになりました」
「じゃあ、自動帰還させて」
「はい、マスター」
どんな戦闘になるか分からないので、マンタは待機させるよりも帰還させる。レアリティの高い鉱石くらいなら、ハミングバードの収納スペースでも回収可能だ。
目的の小惑星に対して高速振動剣を撃ち込み、内部にある鉱石へと近づけていく。すると、レーダーに次元震を感知した。
「むむ、この石の向こう側か」
「この辺りは小惑星が多いので、死角が多いですね」
感知した次元震は、小惑星の向こう側。出てくる他次元生物の姿を確認する事ができなかった。
高速振動剣に繋がるワイヤーを巻き取り、再格納すると視界を遮る小惑星を回って、次元震の場所へと向かう。
「いない?」
「こちらの次元へと現出は確認しています」
他次元生物は、次元の狭間を利用して身を隠す事ができる。ただそこから出てくると、再び潜り込むのにはそれなりに労力を使うらしく、戦闘中に出入り自由という訳ではなかった。
先程戦ったスペーススクイードも、神出鬼没に見えたのは触手の先端だけで、本体は次元の狭間の中にあった。本体がこちら側に出てからは、潜り直していない。
レーダーには無数の小惑星が映っているだけで、敵の姿は見えない。再び次元の狭間に潜るには、また次元震を伴うので、まだこの辺りにいるはず。
「ぐぬぬ、小惑星の多い地帯を選んだのが仇となるとは」
「マスターの得意な場所が、相手にも有利だったというだけで、判断は間違っていないかと」
「とはいえ、今をどう……っ」
レーダーに動く気配を感じて、スティックを操作。機体を滑らせて奇襲を回避する。ちゃんと準備をしていれば、動けるものだ。
が、さっきまでいた場所を通り過ぎたのは小さな岩塊。一応、粒子砲で撃ってみるが反応はない。
すると続けざまに小惑星が向かってくる。
「なっ」
レーダーに映る小惑星がどんどんと動き出し、視界内の至る所でぶつかり合う。宇宙空間では一度動き出した物はなかなか止まらない。
自分より大きな物に当たっては跳ね返り、小さい物同士でぶつかれば互いに弾け合う。
その数が増えるに従って、回避できる範囲が限られてくる。
装甲が薄いハミングバードといえども、小さな小惑星がぶつかってきても、即大破なんて事にはならないが、数が増えて連続で当たってくるとなれば、シールドが負荷限界を迎えてもおかしくはない。
この宙域を離れるべきか。
しかし、明らかな攻撃行為。そこに敵がいるという事は……。
宙域を離れようと小惑星帯の外に出ようとすると、周囲を飛び交う小惑星の1つが軌道を変えて迫ってきた。
「くっ、やっぱりか」
小惑星に擬態していたソレは、小惑星が2つに分かれたかと思うように、パカリと口を開けて突っ込んでくる。
「パックマ……いや、貝かっ」
白を基調にしながら、七色に光を反射する口の様に見えたそれは、貝の内側のようだ。貝柱で繋がれた二枚貝が突進してくるのを何とか回避する。
が、振り返った時には口が閉じて、貝の表面を覆う岩の塊によって、小惑星と見分けがつかない。
高速で飛び交い、乱反射を繰り返す小惑星。その動きは予測できないほどに増えている。粒子砲で攻撃しても簡単には破壊できず、高速振動剣は回収に時間が掛かるので使えない。
「逃げるしかないか」
小惑星を破壊できる火力があれば、小惑星の数を減らしながら戦えるだろうが、ハミングバードの装備では攻略できそうにない。
俺は小惑星を避けながら宙域の外を目指す。
何とか小惑星が飛び交う中を脱出して、静かな宙域へと到達。そこで油断が生じる。
飛んでくる小惑星を避け続けていた俺は、止まっている小惑星を勝手に安全だと錯覚していた。
横を通り抜けようとした途端に、加速して口を開いたその小惑星は、等速運動していたハミングバードをぱっくりと丸呑みにしてしまった。
「くっそー、油断したぁ」
「逃げ切ったと安心した所に伏兵。兵法の初歩ですね」
「相手は孔明だったのか……」
「違いますよ、山本勘助でした」
山本勘助?
武田信玄の軍師で啄木鳥戦法で上杉軍をはめようとしたものの、失敗した人だよな。
確か啄木鳥戦法は、キツツキが木をつついて音を立て、慌てて出てきた虫を捕まえるのになぞらえて、主攻の動きに反応して動いた敵を、別働隊が弱点をつくという戦法だったかな。
小惑星を乱舞させて中に居られなくなった俺を、待ち伏せて攻撃してきたのは、状況としては似ている。
しかし、策を見破った謙信と違って、俺はまんまと討ち取られた訳だが。
何が言いたいのか……。
「あー、甲斐だけに!」
「マスター、気づくのが遅いですよ」
口を尖らせて文句を言うシーナだが、レアな表情を見られた俺は、どこかほっこりとしてしまった。