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 日曜日。

 しっかり休んだ事で、意識もスッキリ、家事類も終わっていて気兼ねなくプレイできる状況が整っている。

 早めに朝食を摂ってから、ログインしていく。


「おはようございます、マスター」

「ああ、おはよう」


 いつもの無表情での挨拶。少しくらい口角を上げて微笑んでくれたらと思うが、シーナに笑顔を期待すると、口裂け女ばりの猟奇的な笑顔が返ってくるので求めてはいけない。


「メイド服はしっかりと売れたな」


 昨日、ユーザー向けのオークションに出品していたメイド服は、しっかりと捌けていた。中古市場への売却に比べると、少し高めで売れてくれる。ただプレイヤー名が表示されるので、『成金王』とリンクされる危険はあった。

 それでも売れたというのは、ヘイトを上回る需要があるのか、気にしない人が増えているのか。まだ判断はつかない。


「じゃあ、続けてメイド服の出品と作製用機器の販売かな」


 服飾用作製機器は、元々生産コロニー用の納品物なので、今までの工作機械に比べるとかなり安く作れる。実際のゲームには関わらない見た目の部分なので、高価だと手が伸びないだろうし、利益はあまり考えずに安めの出品にした。


「色々な服を着てる人が増える方が楽しいからな」

「マスターは、ロビーに出ないので関係ないですけどね」

「いや、そろそろ出ようかとは思ってるんだよ」


 成金王騒ぎが収まりつつありそうな、希望的観測もあるが、称号はもう変えてあって、外見も変更したので、今の俺を成金王とリンクさせる事はできないはず。

 問題があるとすれば、シーナの存在だ。

 彼女を連れている以上、成金王だとバレてしまう。となるとできるのは、元の球体にカメラが付いた初期アバターに変えるか、シーナの外見を変えるかだ。


 顔に関しては、かなりの美人で目立つようだが、ゲーム内は基本的に美男美女が多いので、そこまで注目を集める事はない。

 ただ衣装に関しては、受付が着ているオペレーター服の色違いで、NPC感が強く出てしまっている。

 もっと雰囲気の変わる衣装にすれば、一般プレイヤーと混ざる事もできるだろう。

 ただ初期プレイヤーのデフォルトは、レーシングスーツのような飾り気のない服装。宇宙空間にはマッチするが、折角着替えるならもう少し華やかなものの方が嬉しい。

 その為には他のプレイヤーにもおしゃれを楽しんでもらう必要があり、メイド服やら服飾機械の出品なのである。


「セーラー服ですか、ブレザーですか?」

「シーナの年齢だとリクルートスーツじゃないか」

「マスターは、OLフェチと」

「すぐフェチ認定しないでくれる!?」


 何はともあれプレイヤーにアバターの服飾が浸透するにはもう少し時間が掛かるだろう。ロビーへの再デビューはそれからだな。




 第2ステーションから出撃して、第2惑星の公転軌道近くの採掘場へと向かう。過去に新しい鉱石と、次元震を確認していた場所だ。


「まずは、次元震を発してる他次元生物からだな」


 小惑星が幾つも浮かぶ宙域に、幾つかの次元震が確認できる。詳細探査用ポッドを打ち出して、アクティブ探査用の電磁波を発信させると、次元震に動きが表れた。


「むむっ、点滅している?」

「どうやら、次元の狭間から出入りを繰り返しているようです」

「あっ」


 次元震が唐突に探査ポッドの側に発生したかと思うと、ポッドの信号が途絶えた。たぶん壊されたという事だろう。


「突然現れて襲われるとなると面倒だな……」


 探査ポッドは射出されるとそのままの速度で動くか、どこかで停止するかの2つの移動しかない。回避といった高度な移動はないので、発見されたら壊されるのは仕方ない。

 問題はハミングバードなら避けれるのかという事だ。


「まごついていても仕方ないか。マンタは安全圏に退避させて、単騎で探るぞ」

「はい、マスター」


 シーナにマンタの制御を任せつつ、俺は探査ポッドが破壊されたポイントへと向かう。全速は出さずに余力をもって移動しつつ、次元震の反応に注視する。

 次元震はコックピット内の椅子を囲むように存在する球状の全天モニターへと、距離に応じて色が変わるように設定した球体で表示されている。

 普段なら水面の波紋のように、同心円で広がり、その中央から他次元生物が出現するのだが、この他次元生物は波紋自体が点滅するように位置を変えていく。

 探査ポッドが破壊された辺りまでは到達すると、周囲の次元震が反応して、激しく点滅し始める。


「出るか!?」


 ハミングバードの予測軌道上の次元震の点滅が止み、波紋が広がったかと思うと、何かが飛び出してきた。

 俺はある程度予想できていたので、機体をスライドさせて直撃を回避。何か白く細長い物が視界を通り過ぎるのを見た。


「マスター、左です」

「!?」


 シーナの警告に、とっさにスティックを操作する。ハミングバードの機動力をフルに使って後方へと回避。その目の前を白い物体が通り過ぎていった。


「イカッ」

「ゲソ?」


 白く細長い物体には、多数の吸盤が見て取れた。俺とシーナで微妙に表現は違ったが、イカの脚だろう。

 反射的に粒子砲を撃ち込むが、効いている様子はない。

 それどころか周囲に次元震が増えていく。


「10本あるよなっ」


 相手がイカなら、その脚は10本あるんだろう。次々に広がる波紋全てを把握するのは難しいので、左右に機体を揺らすようにスライドしながら、後退して攻撃範囲から逃れる事にした。

 次々に現れるイカの脚がハミングバードが通った道へと繰り出されてくる。


「8、9……ここっ」


 伸びてくる脚の数を数えて、10本目が出るだろうタイミングで高速振動剣を射出。直前までハミングバードがいた所を突き刺すように振るわれる脚へと、見事に突き刺さった。


「ビンゴ!」


 そしてさしたる抵抗も無いままに脚は断ち切られる。


「高速振動剣なら斬れると……でも当てるのは難しいな」


 今もテンポよく攻撃してきたのが分かったからタイミングを計って攻撃できたが、バラバラに攻撃されたらどこから来るのか分からない。

 ある程度パターンはあるだろうが、それを見切れるかどうか。

 ウネウネと動いていた脚が次元震の中へと潜っていった。


 それから脚を誘い出してタイミングを計り、高速振動剣を撃ち出すのを繰り返し、命中率は3割ほどだったが何とか脚を4本切り落とす事に成功する。

 すると一際大きな次元震が発生して、イカの頭が姿を現した。


「頭に見えますが胴ですよ」

「イカにもそうだな」

「マスターがボケてもツッコめませんよ」

「……」


 思わず口走ったセリフにシーナの指導的ツッコミが入る。ちょっと気まずい思いをしながらも、相手を観察。次元の狭間からの攻撃は諦めて、脚を直接振るう攻撃に切り替えたようだ。

 今までの突き刺すような動きから、振り払うような攻撃になって、更には複数の脚での同時攻撃も使ってきた。

 以前のカニのように、ギリギリで避けようとすると軌道を変えられたら詰むので、マージンを確保しながら頭への接近を試みる。

 あと少しでイカの頭に高速振動剣が届くという所まで来て、いきなりイカの姿が消えた。


「!?」


 慌てて急制動を掛けて、大きく回避行動を取ると、何もない空間から白い脚が飛び出てきて周囲を薙ぎ払った。

 何とかそれを回避して少し距離を取ると、やがてイカの頭が見え始める。


「墨かっ」


 宇宙空間の黒と墨の黒が混ざって、一気に見えなくなったようだ。白い脚が辺りを薙ぐたびに、イカの全身が再び見えてくる。視界はもちろんレーダー波も遮断する何かを吐き出したようだった。


「イカんともしがたい」

「そうでもないさっ」


 シーナのボケをスルーしつつ、再度接近を試みる。一定距離まで近づくと、またも視界が失われた。予備動作くらいつけろよと開発に文句をいいながら、俺は機体を操作して振るわれるであろう脚を回避。頭のあった位置へと高速振動剣を撃ち出した。

 ブンブンと振るわれる脚の攻撃範囲から逃れながら剣を巻き上げていると、脚の動きが鈍ってきて、やがて動きを止めた。


「死亡確認、スペーススクイード撃破です」

「ふう、何とかだな」


 イカの動きを観察していると、ハミングバードのいる位置を的確に狙ってきていた。なので視界を塞がれた時もその場所を狙ってくるだろう事は予測できる。

 そして頭が出て以降、その位置は全く動いておらず、脚だけが動き回っていた。なので視界を塞がれたとしても、狙うべきポイントは変わらない。

 後は振るわれる攻撃を避けつつ、胴体の真ん中、目と目の間へと剣を撃ち込めば倒せると読んだのだ。


「ドロップ品として、イカスミが手に入りました」

「パスタでも作るのか?」

「ステルス用塗料になります」


 真面目な回答にまたも微妙な空気を感じながら、まずは邪魔者の排除に成功した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 厄介そうなイカ、スペーススクイードを多少手間取りながらもパターンを読み切り初見で撃破!(≧▽≦) ゲーム攻略としてキレイですね♪ 反応速度とセンスで瞬殺する攻略ではなく、他の普通のプレイヤー…
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