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第二部の開始です。

 レイドイベントから1週間が過ぎた。

 ゲート解放が示されて、コア収集が活発に行われているようだ。Foxtrotは第2ステーションが作られた事で、撃破任務の種類が増えて、コア報酬の多い任務も追加されている。自由出撃では距離のあった恒星の向こう側への時間が短縮されて、より強い他次元生物などと戦い易くなっていた。

 しかし、他のサーバーでも数をこなせばコアの収集は可能だ。フレイアちゃんが居ることで人口が最大のAlphaサーバーや、β時代に高難易度任務の達成率で与えられた特務曹長を持つプレイヤーがいるBravoサーバーは、Foxtrotに勝るとも劣らない勢いでコアを集めている。

 その他のサーバーでも活発にコア集め、撃破任務のクリアが進んでいた。


 その一方、Deltaサーバー、Hotelサーバーでも第2ステーションの建設が始まったようだ。ようやく、生産コロニーへの納品がトリガーであると認知されたのだろう。

 これでその他の生産活動も活発になれば、色々と面白い商品が作られるかもしれない。




 そして俺はと言うと。


「これは……いわゆる、メイド服ですか。しかも喫茶のなんちゃってではなく、クラシックスタイルですね」

「根強い人気のある衣装だからね」

「でもこの服装だと、マスターの好きな脚は見えませんよ?」

「その脚フェチ設定やめて」


 あくまでシーナを見た時に、胸元は寂しいから脚に目がいってしまっただけだ。別に太ももラバーズではない……はずだ。


 という事で生産コロニーに納品した縫製系ユニットを格納庫内にも置いて、アバター衣装を作れるかのテストをしていた。

 ネットで拾ってきた画像を元に、3Dのデータを作成してくれる。より精細な写真があれば、違和感の少ない衣装になっていく。適当な画像だと、ワンピースに写真をプリントしたようなざっくりとした製品になり、売り物にはなりそうにない。

 同じ様な理屈でコスプレ衣装とかも小物が印刷されたりと、細かな装飾の再現には向いていない。

 クラシックのメイドドレスのような、シンプルな構造の物ならかなり再現度が高いようだ。


「型紙から作ったら、もっと色々できるんだろうが、俺にそんなスキルはないからな」


 3Dのコンピュータグラフィクスは分解していくと三角の集合体になる。これが細かくなればなるほど滑らかで精細なCGになっていく。これがポリゴンと呼ばれる3D手法の根幹で、その三角の頂点が視点から見て見えているのか、隠れているのかを判定していくのがコンピュータの仕事だ。

 しかし、コンピュータが処理できる能力には限界があり、全ての点を計算していたのでは、秒間に60枚の絵を仕上げる事はできない。

 なので点を間引いても見た目は変わらないような面を探して、減らして処理を軽くする。例えば凹凸のない白い壁に10万の三角を並べても、2枚で表現してもあまり差はでなかったりとかそういう事だ。


 では凹凸のある壁ならどうか。そこに日が当たり、影ができると立体感が出てくる。これを少ない三角で表示しようとすると影のできない平面になってしまう。

 そこに処理を使わずに立体感を出すにはどうしたらいいか。影を描いた絵を貼り付ける事で凸凹を演出するのだ。これがテクスチャと呼ばれる方法。もちろん光の角度が変わったとしても、絵は変わらないので正確な描写にはならない。それでも凸凹した感じは伝わり、壁に厚みを感じる事になるのだ。


 これを服に置き換えると、ポケットなどは平面にしてテクスチャで誤魔化してもそこまで変にはならないが、ボタンなどの突起物をテクスチャに置き換えるとのっぺりとした感じになってしまう。


 写真や画像から取り込むと、それがボタンなのか、ポケットなのかという判断はコンピュータには難しい。

 少し昔の話で、亡くなった漫画家の新作をAIに描かせようという計画があったが、コンピュータは目や鼻をパーツとして認識できず、無茶苦茶な顔が出来上がった。

 そこで、これが目だよ、鼻だよと人間が分解してAIに教え込むことで、デザインさせたというのがあった。

 その為には大量のサンプルが必要で、何十人の人間が年単位で時間を掛けたとか。


 もちろんゲーム内の1機能にそんな膨大なコストは掛けられないので、平坦な服にのっぺりとした絵を貼り付けるしかない。

 しかし、型紙から布地部分とボタンなどの装飾部分に分ける事ができれば、立体感を保った服が作れるようになるのだ。


 そういう点でクラシックなメイド服は装飾が少なく再現しやすかった。エプロンドレス部分のフリル部分だけを別パーツで付けてやればそれっぽくなる。

 逆にフレイアちゃんが着ている軍服風のアイドル衣装なんてのは、CGクリエイターの手作業でないと不可能だろう。



「凹凸の少ない服装なら、水着とかがいいんじゃないですか?」

「需要は確実にあるけどね。まだ肌寒いし、時期じゃないからな」

「私に着せて、ぐへへへへ……と鑑賞するのかと思いましたが」

「シーナに着せてもねぇ」

「!? やはり、胸部装甲に問題が……」


 不毛な寄せて上げて動作を始めるシーナを置いて、俺はそっと距離を取る。実際にシーナの水着姿を見たら、胸部装甲など関係なく破壊力は十分で、色々と支障がでそうだからな。

 主に俺の理性という意味で。

 なので俺の耐性が上がるまでは着せる訳にはいかなかった。



「はいはい、このメイド服を着てみて」


 1人の世界に入り込んでいたシーナを呼び戻し、メイド服を渡す。着替えてきますねと物陰に隠れて、次の瞬間にはコスチュームチェンジして出てくる。


「あー、躾に厳しそうなメイド長だな、これは」


 キツそうな目つきに、無表情。隙のない着こなしは、メイドのかがみといった風情だ。


「でもご主人には逆らえなくて、あれやこれやと言った命令に、悔しそうにしながらも……」

「はいはい、そういうのはいいから、一周回ってみて」


 想像しちゃうだろっ。

 清廉で厳格なメイドさんが、主人の命令と己の倫理観の間で苦悶するとことかっ。

 何とか妄想を振り切って、シーナへと指示を出す。

 シーナはその場で1回転、こちらを向いてスカートを摘んでのお辞儀、カーテシーを行った。その様子を見て、服に歪みが出てないのを確認すると、正面、横、後ろの写真を撮影しておく。

 顔は写らない様に加工して、中古市場へと出品する際の参考画像にした。とりあえず、メイド服を10着ほど作製して、程よい値段で売りに出しておく。

 稼ぎを出すと言うよりは、こういう物も作れるよと、他のユーザーへのアピールの意味が強い。そうすれば、この手の事に熱心なプレイヤーが素敵コスを作ってくれるはずだ。




「そういえばマスターは、いつまでその姿なんですか?」

「ん?」


 シーナに言われて、思い出した。そういえばβ時代からアバターを変えていないので、遮光ヘルメットにノーマルスーツという姿のままだ。

 コストと時間に余裕ができたらアバターを変えるつもりだったが、最初はやることが一杯で、その後は例の動画騒ぎでロビーに出れなくなったので、作り変える機会を失っていた。


 STGは一人称視点なので自分の姿を目にする機会がほとんどない。会うのはシーナだけという事もあり、全く気にしていなかった。


「そうだな。そろそろ変えてみるか」


 工作機械の販売でコストには余裕があり、アバターを作り変える程度は宇宙船を買うことに比べればかなり安い。

 問題となるのはアバターのイメージがない事だ。

 STGはフェイスモーションキャプチャーという技術が組み込まれている。これはプレイヤーの表情を、外部カメラで撮影していて、アバターへと反映させるものだ。

 ただ口の動きなどを一致させるには、アゴや頬といった骨格がある程度似通っていないと違和感に繋がる。


「ベースとなるのは自分の顔なんだろうけど……」


 さすがにそのまま使う勇気はない。やはり社会人になってゲームにどっぷりという状況で、リアルバレはしたくない。炎上騒ぎもあったしな。

 一重の瞳を二重に変えて、やや眠そうな半眼に。髪の色はやや青みがかった黒髪で、前髪は長めに表情を見えにくくしつつ、鼻や耳の形を少し変える。

 イメージとしては30前後といった辺り。


「あいうえお〜」


 口を開閉してみて違和感が出てないのを確認してからシーナの方を向く。


「どうかね?」

「イケメンではないですね」

「何かゲームでイケメンになるってのは負けた気がするんよね……」

「マスターらしくていいと思いますよ」


 俺らしいというのはどういう事か問い詰めたいところだが、結局はそこまで外見にこだわる方ではないので、その辺が出ているということか。


「じゃあこれでいいかな」


 深く悩んでも改善はないだろうし、問題が出てくればまた変えればいい。そんな気持ちで決定した。

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