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閑話 2

「結局、成金王は稼いでるなぁ」

「市場シミュレータの癖を読んだみたいですね」


 アメリカの金融屋が仕込んだ需要と供給のバランスで、市場価格が変動するシステムは、多くの人間が関わるゲームという場を利用したシミュレーションシステムになっている。

 スポンサーの1つがそれらのデータを利用して、現実の市場動向の予測に利用するとかしないとか。詳しい事はわからないが、そうした研究分野から資金が出ているらしい。


「いやはや、工作機械を値上げしたらそれを売りさばいて稼ぐとはねぇ」

「というよりは、ステーション内設備を最初に買いますかね。普通は修理かパーツ用を買うでしょうに」

「何と言うか、プレイヤーの行動ってのは読めないな」


 宇宙でドンパチするのが肝のゲームなんだが、何でこんなに生産にこだわったプレイをするかね。


「βで戦闘行為を全くしなかった筋金入りですからね」

「その割に意外と戦闘自体もこなすよな」

「ゲーム慣れはしてるっぽいッスから。ある意味、普通のプレイは飽きた勢かと」

「ああ、ゲーム内のカジノでメダルカンスト目指すみたいなね」

「それは大隅さんだけでしょ」

「ええぇっ」


 何かついついやっちゃうんだよね。現実の奴より甘いからすぐ勝てるし。




「で、第2ステーションもほぼ1人で進めてるよなぁ」

「元々生産に力を入れる人間は少ないだろうって事で、納品ボーダーは低めに設定してましたが」

「まさか1人で何機も並べて、任務関係なく納品しまくるとはね……斜め上行きすぎだろ」

「プレイヤーってのはすごいですね。何万人もいたら規格外の人間は混ざりますよ」


 β時代から工作機械を並べて工場化していたとは言え、この短期間で種類の増えた工作機械を並べた上で更なる生産力を出してくるとは……成金王の成金王たる所以ゆえんを甘く見ていたかもしれない。

 純粋な生産力よりも、基点を見つけて一点突破してくる集中と早さが、規格外の利益を生み出している。地力に支えられた富豪ではなく、一攫千金で財を成す成金。名は体を表す結果になっている。


「とはいえ、1人の為にゲームバランスを崩す訳にもいかんからなぁ」

「他のサーバーの進展も考えると、突出しすぎるのも困りますね」

「このままだとFoxtrotだけが次星系に進めて、格差が広がってしまうな」

「ゲートが解放されたら、サーバー間の移動もできる様になるんで、格差も均されるんですが……」


 第2ステーションができてコア収集が早くなれば、ゲート解放が近くなってくる。次の星系に進めば、そこでは新たな種類のコアが手に入り、宇宙船の自分に合わせたカスタマイズの幅が広がる予定だ。

 そこにいち早く入れるメリットは、それなりに大きい。そして時間と共にそのギャップは大きくなっていく。


「ゲート解放を早めるしかないか……」

「フレイアちゃんの人気が高いままなんで、負荷の集中が怖いですけどね」

「まあ、サービスの継続を考えたら一時サーバー補強してでも、ユーザー格差は減らさないと意欲が保たないだろうからな」


 一部のプレイヤーだけが大幅に強化されてしまうと、同じ様にトップを目指していた人の挫折感が大きくなってしまう。サーバーを引っ張っていくような人のやる気の減衰は、客離れの要因にもなりうるものだ。

 フレイアというこちらが用意した客寄せパンダは、しっかりと客層を増やすのに貢献してくれている。それだけにサーバーの過密化を生んでいる状態。キャラを作り直してでもフレイヤのいるサーバーに入りたかった人間が、自由にサーバーを移動できるようになると、自然と集まってしまうだろう。

 そうなるとサーバーが許容する以上のデータ量になって様々な障害を生む可能性がある。


 それでもプレイヤーのモチベーションを下げない方が大事だ。何とかサーバー間ギャップは抑えないといけない。

 レイド戦の報酬でゲート解放の時期ギャップを埋める方策を取ることにした。




「予想外と言えば、人形アンドロイドを選んだ割には、ベタベタしてませんね」

「ほう」

「まあ、年齢制限用のセキュリティコードはありますが、それに抵触するような行為はおろか、手を繋いだりとかする事もないようです」

「ふぅん。リストバンドコントローラーで触覚を再現してるのも売りなんだが。やっぱ動画の炎上騒ぎが原因かねぇ」


 気安く頭を叩いた様に見える動画が、開始当初に拡散してしまっただけに、アバターに触れる行為そのものに気を使っているのかもしれない。


「でもアンドロイドの3Dデータ、VRゴーグルごしに見たら結構気後れしちゃいますよ」

「奥手なこって。そこに美女がいるならお近づきになろうってのが、男の本能だろうが」

「じゃあ、お手本見せてくださいよ」

「ああ? しゃーねーな」


 草食系男子なんてもう死語だろう。死語になるほど当たり前に定着しちゃったのかね。

 そう思いながらもVRゴーグルを付ける。

 フレイアと収録を行う仮想ステージで、目の前には3Dのモデルデータが出現する。


「こりゃまた大物だな」


 金髪碧眼の北欧系美人、アフロディーテモデルとか言われてる奴だな。スラリとした長身でありつつ肉感的なグラマラスボディで、プレイヤーアバターとしても人気がある。

 バスト96cmのEカップで、重力に負けない張りを持った体は、現実世界では実現が難しいだろう。

 それを古代ローマのトーガをイメージしたゆったりとした布に包まれた体は、露出は少ないのにどこか無防備で、色香を漂わせていた。

 VRゴーグルでは臭覚の再現はできないのだが、どことなく花の香りが漂ってくるような錯覚を与える。


 肉厚の赤い唇に笑みを浮かべ、こちらを誘うように両手を広げる様は、確かに現実離れしていて気後れが全くないかと言われたら嘘になるだろう。

 ただまあ全く触れないかというとそうでもない。

 アメリカ本社の人間との交流もあって、欧米式のハグにも慣れてきた。


 VRのアバターを進ませて、正面に立つと相手を抱き寄せる様にしてハグをする。背中をポンポンと叩いて親愛を示す。


「さすがッスね、大隅さん。どうせならそのスイカも触っちゃって下さい」

「ああ? しゃーねーな……アバババババ」


 密着した状態で胸元に手を伸ばしたら、年齢制限用のセキュリティコードに抵触して、強烈な静電気が手のひら全体に流れる。


「おまっ、開発コードで切ってるんじゃないのかよっ」

「いやぁ、機能がちゃんと働いてるかも確認しとかないと駄目でしょ」

「自分でやれ、自分でっ」

「嫌ですよ、しばらくマウスもキーボードも使えないくらい痺れるんですから」


 本当にこの強度で大丈夫なのか。スタンガンほどではないという触れ込みだが、かなりのショックだぞ。心臓発作とか起こさないだろうな……。

 何かあったら本社に面倒みてもらうしかないな。

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