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シザーズクラブが守っている鉱石を採取できたので、生産コロニー用工作機械をLv2にアップグレード開始。
その他、毎日の納品用資材を生産にセットしてログアウト。
金曜日も大きな残業もなく帰宅。
先にログインして諸々の納品を済ませてから、マンタを連れて第3惑星へ飛び、ゴブリンを全滅させて鉱石を採取。修理用工作機械を生産するようにセットして、ログアウト。
食事やら家事やらをこなしてからログインし直す。
「忙しいですね、マスター」
「レイドは明日だから、準備を進めないとな」
さっき作った修理用工作機械は即座に売り出してコストに変えて、中古市場を確認する。
「値段がかなり上がったなぁ」
「そうですね、現状はやや供給不足の状況になってきています」
「じゃあ、ジャンクパーツの方はどうかな?」
「以前に比べると供給量が増えていますね。プレイヤーが撃破した海賊船のパーツなどを売却しているようです」
「でも格安って程ではないか」
「あの時はプレイヤーが一斉に売却したので、暴落が起こったと思われます」
β最終日、所持品やコストは製品版に引き継げず、アバターなど宇宙船の性能に関わらない物だけが持ち越しとなった結果、少しでもアバター類を購入すべく、要らない物はどんどん売られていた。
そのため、一時的にジャンクパーツ類は底値へと落ち込み、俺はまとめて購入する事ができたのだ。
「まだ宇宙船を組み立てれるほどの価格にはなってないな。まあ、まだ1から組み立てられる工作機械もないけど」
修理用工作機械のグレードを上げていかないと、組み立て機能も伸びない。βの頃は細分化されていなかったので楽だったが、製品版は工作機械の管理も大変になっている。
「シールド艦が欲しかったんだが……」
「元々メジャーな艦種ではないので、割高になってます」
「みたいだな」
レイド戦で考えられるのは、多数を同時に攻撃する範囲攻撃だ。逃げ場がないほどの過密攻撃である可能性もある。
そうなるとハミングバードのような機動力で回避するタイプでは、避けきれずにダメージを受けてしまって、戦場に留まる事もままならなくなるだろう。
そこで遠隔制御ユニットを積んだシールド艦の影に入ることで、攻撃を防ぎながら接近するという戦法を考えていたのだが、シールド艦が思ったよりも高かった。
まだアクティブシールドと呼ばれる自ら動いて盾で防ぐようなタイプ、フレイアちゃんの相方であるフレイの乗機みたいなのは、そこまで高くないのだが、周囲に大きなエネルギーシールドを展開して安全圏を作り出すようなタイプは、高出力のコアを持った大型艦になってくるので、どうしても値が張ってしまう。
「高出力のタイプ……か」
そう言えば輸送船もコア出力自体はかなり高い。重たい物を運搬するためだ。機動力が無く避けれないため、元々エネルギーシールド自体も分厚く設定されている。
「もしかして、マンタにシールド詰めば結構堅い?」
「どうでしょう」
「とりあえずジャンクパーツからシールドジェネレータを検索っと」
やっぱりマイナーな部品で、モノ自体が少ないようだ。あまり選択肢は無いが、マンタのコアで起動できる物もあった。
「これを購入して修理できるかな?」
「はい、可能です」
「じゃあ購入して、マンタに組み込む」
「了解です」
ひとまずこれで防御は準備できる。後は攻撃面だが、高速振動剣は射程が短いので多数のプレイヤーが入り乱れるレイド戦では向かない。
「やっぱり威力重視でレールガンかねぇ」
しかしそうなるとハミングバードの特性は活かせない。ハンマーヘッドの粒子砲を積み替えた方が、威力は担保できる。
「でも戦闘はやっぱりハミングバードを使いたいんだよなぁ」
元々射撃は苦手で、レールガンを使ったとしても効果的な運用は難しいだろう。
「という事で保留」
悩んでも答えが出ないことに拘泥しても、時間が過ぎてしまうだけだ。発想を切り替えるためにも別の事をしよう。
という事で、生産コロニーのアップグレード結果を確認。製作可能物の中に、目的の物を見つけた。製糸機器や養蚕器具、機織り機などだ。
「これらを納品したら、生産コロニーで衣類が作られる様になりそうだね」
「舞台衣装を新調できますね」
新調も何も、あんな金ラメのスーツとか着てないけどな。どちらかと言うと、アイドル衣装の方が需要ありそうだし。
そう言えばSTGのアイドル板で、シーナの名前が挙がっていたな。まあ、あの一連の騒ぎで固定ファンがいるのは確からしい。といって、アイドルにする気もないけど、一応本人の意思を確認しておくか。
「舞台に上がりたいのか?」
「もちろんです」
「そうなるとソロになるが……」
「落語ですか?」
「んん?」
「もちろん、お笑いの基礎として勉強はしています!」
「やっぱり、芸能人よりは芸人の方だよな」
「となると舞台というより高座ですかね」
ふんすと拳を握って気合を見せるシーナだが、たぶん落語家の着物で高座に上がっても、ファンは喜ばないだろうね。
「何にせよ、服飾関係の生産が活発になれば、アバター衣装も増えるだろうし、色々と試すことはできそうだな……ちなみにこれらの機器を格納庫にも置けるのかな?」
「はい、可能です」
「原材料は購入として、格納庫で衣装作製か……」
家具を作って販売した状況を思い出すに、オリジナルデザインの服飾を販売するとしても売り方が難しいな。
シーナにファッションショーをやらせれば、客は付くだろうが、アンチ成金王を呼び起こす未来しか見えない。
他にアイドルでも居れば、シーナの存在感も薄れるんだろうが。
「アイドルか。ゲームの腕なら撃墜王にも負けなさそうな奴は知ってるけど、外見は分からんな」
「大したことないですよ、きっと」
「どのみちシーナの隠れ蓑に巻き込む気はないよ」
そう言えば彼女はレイド戦どうするのかね。まあ、『倒したこと無いのは倒す』が信条みたいだから参戦はするんだろうけど、集団戦とか向いてなさそうだな。
片言に近い無口では、連携も取りづらいだろう。
「ま、他人の事を気にしても仕方ない。自分の準備を進めよう」
「そうです、そうです」
「とにかく生産コロニーに納品用の機器を一通り作っていって……」
生産スケジュールを組んでいくと、結構な時間が掛かり、睡魔に襲われてきたのでログアウトする事にした。
人間は寝ている間に記憶の整理が行われて、新たなアイデアが生まれたりするものだ。ハミングバードでのレイド戦での戦い方のアイデアもきっと浮かんでくるはず。そう思いながら就寝した。
「何も思いついてないがな」
何か戦ってる夢は見た気がする。ゲームの事を考えながら眠ると、そんな夢を見ることもあるが、大抵は起きたら薄れてしまって覚えていられない。
たまに覚えていて攻略のアイデアになることもあるのだが、今回はそのケースではなかったようだ。
「というより、敵の情報がないからなぁ」
他のゲームからこういう敵だろうという予測をしているものの、実際は全然違うという可能性はある。
300mの巨体を持ったクジラ型が、高機動で戦場を蹂躙する……なんて可能性も微レ存。基本、ゲームが開始されて最初のイベントで、プレイヤーのイメージを裏切ってくるような事はないと思いたいが。
ちなみにβ時代に1回だけ現れた戦艦クラスの他次元生物は象型で、自在に動く鼻から高出力のビームを放ちまくったそうだ。本体の動きは鈍く、死に戻り覚悟の人海戦術で倒したらしい。
β時代はブラックイール型輸送船で過ごした俺は、当然参加する事なく終わっている。
「やっぱりタイミングを狙って一寸法師作戦くらいか」
小型機の中でも小さなハミングバード、射程は短くとも高威力の高速振動剣を活かすとなれば、内部からの破壊しか思いつかない。
「もう少し情報が出るまでは、やれる事を増やすしかないなぁ」
まったりと朝食を摂りながら色々と思考してみたが、結論はでなかった。