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 視界が戻り、周りが見えるようになると、その場所は格納庫だった。目の前にはぐしゃぐしゃに潰れた宇宙船。多分、ハンマーヘッド。

 しかし、特徴的なT字の頭もなくなって、胴体の装甲がアコーディオンの様に折り畳まれていて、ハミングバードくらいの長さになっている。

 加速しながら小惑星に突入してしまったからだろう。


 目の前には仮想ウィンドウが開き、修理に関するメニューが出ている。所持金の半分を使用して修理を行うか、自分で修理するかの2択になっている。

 生産コロニーを売却した資金が丸々残っている状況なので、自分で修理した方が断然安く済むだろう。

 ここは自分で修理を選択。


 いっそ売却して買い直した方が安いんじゃないかと思わなくもないが、自分の不注意でこんな姿にしてしまった責任は、ちゃんと取りたい。

 船体部分の修理は、修理用の工作機械で行う。上質の汎用素材で基礎部分の修理は可能だが、外装などは軽くて丈夫な素材が必要だ。ここには他次元生物から採れる外皮や、海賊船から外装を引っ剥がした装甲などが使われるが、俺にはあまり在庫がない。

 ゴブリンは外皮をドロップしないし、カニは1回撃破しただけ。

 足りない分は資金を出して購入していく。


 そして武装を始め、レーダー類も全損しているので、それらはパーツ作製用工作機械で改めて作っていく事になる。こちらも手持ちの鉱石だけじゃ足りないので幾つか鉱石を買い足し、作製予約を組んでいった。


 ひとまずパーツが出来上がるまでは、船体の修理を続けてもらうしかない。というか、初の撃破経験と、長時間のプレイで精神的にボロボロになっていた。


「それじゃ、寝てくる……」

「あっ、マスター!」


 切羽詰まったようなシーナの声に反応する事もなく、VRゴーグルを外すと、そのままベッドへと倒れ込んだ。




 翌朝。寝つきが良かったせいか、明け方には目が覚めて、シャワーを浴びて気合を入れ直す。早めだが朝食をしっかりと摂って体調を整える。

 昨日の撃墜は普段よりも長時間プレイした状況で、更に延長プレイをしてしまったがゆえの失態という部分もあるはずだ。

 疲労が溜まっていると、反射神経も鈍くなり、判断も遅くなる。

 残業の3時間の作業は、翌日の1時間分にも満たないことなどざらにあるのだ。人間、無理して何かをするようにはできていない。


 朝食を摂り、コーヒーを堪能して心を落ち着けて、万全の態勢でVRゴーグルを着けてログインした。




「マスター。引き止めが間に合わず、申し訳ありませんでした」


 ログイン早々に神妙な顔で頭を下げるシーナに迎えられる。お仕事バージョンの真面目な謝罪に不安が大きくなる。

 何かやらかしてたか。


「な、何かあったか。撃墜された後、修理の設定はちゃんとできていたと思うけど……」

「ハンマーヘッドの修理は順調に進んでいます」

「それは良かった……で?」

「マンタ3機が全損しました……」

「ああっ!?」


 自分が撃墜されたショックで、マンタの存在がすっかり頭から飛んでいた。これも疲労が蓄積していたためだろうか。

 ログアウトする瞬間のシーナの慌てた様子、今ならば何かがあったのだろうと、気づけるほどに取り乱していた。

 平静なら再度ログインし直して確認するくらいはできただろうが、ばたんきゅーしてしまっていた。


 人間、無理しちゃ駄目だな。


 マンタは第3惑星の輪に残されていたが、シザーズクラブの攻撃範囲には入っていなかったので、全機無事な状態だった。

 しかし、場所は小惑星帯の中。時間と共にリポップしたゴブリンに発見され、採掘が終わって待機状態だったマンタ達は、抵抗する事なく撃破されてしまっていた。


 遠隔制御は、コックピットが近くにある状態が必要だったので、ステーションからは届かない。ハミングバードで迎えに行っていれば、助けることは可能だったのだが、俺が即座にログアウトしたため提案する事ができなかった。


「申し訳ありません、修理作業中に報告すべきでした」

「いや、あの時はまともに頭が動いてなかったから、ちゃんと理解できたか分からない。シーナの慌てた様子に危機感を抱けなかった俺の落ち度だ」


 申し訳なさそうにするシーナの肩をポンポンと叩いて気にするなと言うと、マンタ3機の惨状を確認。


「さすがにこれは直せないか」


 直そうと思えば直せるだろうが、その為には修理用の工作機械を増産する必要が出てくる。その上で、ハンマーヘッドで主要な鉱石は使い尽くしているので、修理用の素材を買っていかないといけない。その費用や時間を考えると、マンタはバラしてしまうしか無いだろう。

 売却してもほとんどタダ同然なので、バラして部品取りする方がいい。その為には修理用の工作機械が必要だが、ハンマーヘッドで埋まっている。


「1つは作るか」


 修理用工作機械を作製して、マンタをバラすのに使う事にした。格納庫を空けないと、新たなマンタを買う事もできない。




「無理なプレイが大損を生んだなぁ」


 そもそもの発端は、せっかくゴブリンを倒したのに、採掘しないのは勿体無いと思った事だった。時間管理ができていない事が、問題だったのでそこは改善しよう。


「プレイ時間が2時間を越えるごとに注意を促すようにしてくれ」

「はい、マスター」


 プレイ中は多少なりとも興奮していて、疲労を感じにくい状態になる。自分だけで大丈夫と思っては危険だ。ここは秘書としてシーナに管理してもらう。


 ハンマーヘッドは、パーツの作製が終わり、そのパーツを組み込んでいる状況。マンタは工作機械の作製終了待ち。


「マスター、1つ良い情報が。高速振動剣が作製されました」

「それはありがたいな。じゃあ工作機械ができたらマンタをバラす前に、ハミングバードに付けてくれ」

「了解です、マスター」


 少し待ちの時間ができそうなので一度ログアウト。家事をこなして時間を過ごした。




 再度ログインすると、ハンマーヘッドの修理も終わり、ハミングバードの粒子刺突槍から高速振動剣への換装も終わっていた。

 マンタの解体はまだ途中だったので、新規購入はまだ行えない。


「ならマンタ達の仇をとりに行くか」

「はい、マスター」


 ハミングバードに乗り込んで、第3惑星を目指した。




 既にホームグラウンド感のある第3惑星の輪。惑星なので公転は続けていて、微妙に座標は変わっていて小惑星の位置なども変化はみられる。

 前回と全く同じ戦いはない。

 それでも戦い方はかなり掴めている。


「背後は取られず、きっちり数を減らす」


 ハミングバードは初期の中口径粒子砲を外し、小口径の物に変更している。それでもほとんど耐久度の無いゴブリンは一撃で倒せた。

 後は包囲されないように位置取りしながら、確実に当てていく。射撃の腕は大したことがない自覚はあるので、距離を詰めて撃ち込む。とにかく、ミスは減らす。

 深追いはせずに、視界を確保。焦らず対応する。


「リーダーが出現しました」

「距離を詰める」


 先程までの引き気味の戦い方から、リーダーへと近づいていく戦い方に変える。無理な撃破は狙わずに、それでいて敵に向かって進んでいく。

 ゴブリンが湧いた直後には、他のゴブリンは出現しない。正面にくる敵を確実に仕留めつつ、その体を相手からの攻撃の盾にも使う。


 リーダーの出現から連携した行動を取り始めるが、逆を言えば1つの動きを読めれば次の動きも読みやすくなってくる。

 経験からくる勘、パターンの読みは、ゲーム攻略の基本だ。


 リーダーは両手で連射してくるタイプ。間断ない投石は、自機のいる位置を狙ってくるので円を描きながら距離を詰め、正面から攻める。射撃をすると回避して位置が変わってしまうので、あえてリーダーには撃ち込まない。

 そして一定距離まで詰めると、肉弾攻撃を仕掛けてくるので、それをハミングバードの機動力を活かしてスライド移動。その背後に向けて、新武装の高速振動剣で斬りつける。


 押し当てる様に突きつけて貫いた粒子刺突槍と違って、高速振動剣は対象の分子結合を振動させて、発熱、分断して焼き切る。

 ハミングバードのホバリング、水平移動で振り向こうとするリーダーの背後を取り続け、何度か斬りつければ、撃破する事ができた。


「すごいです、マスター」

「慣れだね、これは。他の敵には通じないよ」


 そう言いながらも無事にマンタの仇を討てた事に安堵した。

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― 新着の感想 ―
でかい出費でしたけど、こういうイベントもないとね
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