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シザーズクラブを倒してもらって、鉱石の2個分をゲット。これでLv2の工作機械を作れるようになる。1つはこれから量産に入るステーション外装用の工作機械を作る事にした。より良い製品を作れるようになるので、納品で上がる開拓度が多くなる。
そっちはあっさりと決まったが、もう一つは悩むな。宇宙船のパーツ作製をLv2にすれば、同じ部品でも性能が上がり、宇宙船の底上げができるらしい。
修理用は修理にかかる時間が短縮される。
開発用は開発できるパーツのグレードが上がっていく事になる。
どれを開発してもメリットはあるし、また後で取りに行ける事を考えると、そんなに悩む問題でもなかった。
「じゃあ開発用の工作機械をアップグレードしよう」
「はい、マスター」
「これで随伴機の行動精度が上がってくれるといいんだけど」
「開発の場合は、開発に必要な鉱石にもよりますから、一概に性能を伸ばせるかはわかりません」
「焦っても仕方ないか」
このゲームは、パーツの開発においてプレイヤーの意見を取り入れてくれるようだ。プレイヤーの発想が、ゲームのルールを逸脱せずに、性能が見合ってるとなれば、開発が可能となっている。
「ヒートブラスターの代わりになる白兵装備が欲しいなぁ」
「まだそれにこだわるのですか?」
「武器と採掘を併用できれば、俺に取ってはメリットなんだよ」
小惑星を加熱できる極近距離用のバーナーのような武器。加熱、溶断というと、高速振動剣か。どうやって形を留めているのかよくわからないビームソードよりは実現性がありそうだ。
刀身が高速で振動することで、発熱して対象物を熱しながら切るという武器になる。ヒートブラスターが分子構造自体を振動させて加熱するのに近いといえば近い。
「単分子ブレードってのもあるけど、アレは切るだけだからボツだな」
「では、高速振動剣を開発にセットします」
開発の工程は、名前を決めて、性能を決める。そのイメージが具体的であればあるほど、開発の実現性が上がる。その判断はAIで行われていると言うが、実際どうなんだろうね。
シーナを見ているとAI技術の発展はすごいなと思うが、新しいものを創造というのはコンピュータが苦手とするジャンルだともいわれてるしな。
高速振動剣をより細かく分解して定義していく。刀身の振動というが、実質は刃の部分が振動、もしくは対象を振動させて、加熱すればいい。
加熱方法はブラスター式に電磁波を出して溶融させるのもありか。実際、刀身自体が熱を持つということは、刀身自体が熱に耐えないと駄目だもんな。
「結論としては、今の粒子刺突槍の粒子部分を電磁波でやる武器って事で」
「それなら開発に必要なイメージは十分ですが、武器としての威力が向上するかはわかりませんよ?」
「帯電粒子の場合は分子同士の結合を、粒子が壊すことでダメージを与えるけど、電磁波で相手の分子を振動させて加熱して崩壊を促す武器。確かに威力の面では向上しないかもしれないが、物を焼き切るという能力が上がれば、俺としては文句ない」
「あくまで採掘がメインなんですね」
高速振動するのは刀身ではなく、相手側の分子を高速振動させる。これでひとまず開発は予約と。
本題であるステーション外装に関しては、さっきカニ退治の間にマンタが掘ってくれていた汎用素材で、外壁や支柱などステーション構築に必要な資材を作っていく。
こちらも一定数予約設定して、いったんログアウト。
「まだ朝飯を食ってなかった……てか、もう昼か」
午前11時になろうとしている。ゲーム主体の生活とか良くはないんだが……まあ、楽しいものは仕方ない。
ただ食材が尽きているので買い出しにはでないとなぁ……。
諸々の家事を終えて、再びログインする頃には午後3時を回っていた。
既に出来上がっていたステーション資材を納品して、任務分を越える納品をしていく。Lv2にした工作機械では、ステーションを構築するための建築機械を作れるようになっていたので、そちらも作製。開拓度に大きく貢献した。
「でも冷静に考えると、工期を縮めて3日とかになっても平日だと俺は利用できないんだよな……」
今更な事に気づいてしまったが、今後の開拓を考えても無駄ではないと割り切って納品物を作っていく。
素材の使い道を固める事ができたので、予約の管理はシーナに任せて、俺は更なる探索へと向かう事にした。
ハンマーヘッドに乗って、マンタ3機を伴って恒星の向こう側を目指す。
今回も追跡者が居ないかを確認する意味で、しっかりとステーション周辺をレーダー解析して、それからの発進だ。
今回は追跡を撒く必要はないので、不用意に他次元生物の巣に近寄る事もなく、その先の採掘場を目指す。
第2ステーションの建築予定エリアを越えて、第4惑星の公転軌道の手前付近にある重力淀みにできた小惑星帯で採掘を行っていく。
ここでは少し質の良い汎用素材がメインで掘れて、たまにレアメタルの鉱脈を含む小惑星が見つかる。汎用素材はマンタに任せて、自分はレアメタルを回収していく。
するとやっぱりあった前回は見つからなかった新鉱石。ハンマーヘッドの探査能力になった事で見つけられる様になった鉱石だろう。
ただ問題はカニの様な守護生物が出てくる可能性があるという事だ。
初期ステーションの近場でギリギリの強さ。遠方の宙域だと相応に難易度が高くなってるだろう。
「うん、無理」
こんな事ならフウカとフレンド登録しといて、呼び出せる様にしとけばよかった……いや、曲がりなりにもゲーマーの端くれ。いきなり他人に頼るようでは本気でゲームを楽しめない。
「マーカーを付けて、ハミングバードでやってくるってのも遠いんだよなぁ」
しかもハミングバードでは鉱石を掘り出せない。マンタでレア鉱石を掘り出せる様に、遠隔制御装置の改善が必要か。
「高速振動剣を作ってる場合ではなかった」
後悔先に立たず、先に悔やんだら先悔?
とりあえず、自分の見通しが甘すぎる事を痛感しつつ、今後の段取りを考えていく。
高速振動剣ができれば、ハミングバードで採掘もできるようになるしね!
とりあえず新鉱石を含む小惑星をマーキングしつつ、既知のレア鉱石を掘り出して積載量を埋めていった。
ステーションへと帰る道のりはやっぱり長い。となると道中でやれる事を探すと、まだ調べて無かった他次元生物の反応があったポイントの調査だ。
そういえば蜘蛛型に向かったフウカはどうしただろうか……まあ、あの技術なら余裕なのかもしれないな。
他次元生物の生息ポイントには特に決まりはないのか、星系内にぽつぽつと点在する。蜘蛛型が居たようなラグランジュポイントの様な分かりやすい目安も無く、唐突にスポットになっている場所もあった。
「マンタは一度退避で、ハンマーヘッドだけで近づいてみるよ」
「はい、マスター」
第2惑星の公転軌道に近い位置にあった次元震ポイントへと近づいていく。他次元生物は、宇宙船に積まれたコアに内包される多次元化合物を目掛けて、襲いかかってくる。
そのため、高出力であればあるほど、それを餌として呼び寄せる事ができた。
「次元震を感知、左前方です」
「了解、離脱ラインを取りつつ、相手の姿を観測するぞ」
ポイントに深く入りすぎると、以前にステルス艦を撃退した時のように、周囲の生物を集めてしまう危険があった。
そのため、浅く掠めるように飛んでいく。
「コイツは……亀?」
「ワニガメ型ですね」
怪獣のモデルにもなったとされるトゲトゲしい甲羅をもった亀で、その口元も恐ろしげな歯が並んでいる。
「硬そうな敵だな」
「そうですね」
戦う前には攻略情報を出せないらしいシーナは、相槌を打つ程度の返事しか返してくれない。
「回りながら飛んでくるとかないだろうな……」
「どうでしょう?」
AIにカマを掛けても無表情は崩れないか。何にせよ、今は亀を相手にする必要はないのでそのままエリアを離脱した。