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ゴブリンを排除した事でようやく採掘を始める事ができる。粒子砲を取り付けたマンタも、ヒートブラスターは外していないので採掘可能だ。その分、積載量は少し落ちてしまっているが、それでも戦闘時間が短くなったのでよしとしよう。
まあ、白兵戦をやるのが楽な戦闘になったかというと疑問ではあるが、俺が楽しめるうちは問題ない。
第3惑星で採れる鉱石は工作機械を作製するのに必要な鉱石。3機のマンタで3機分の素材が集まるはず。それでステーション外装用工作機械を増産して、ステーション完成の工期短縮を狙う。
ただハミングバードに乗っている間は、採掘できないので、マンタ達が採掘を行う間が暇になった。
「コレで小惑星切れるかな」
ハミングバードのクチバシで小惑星を突くと、穴を開ける事に成功した。そこでクチバシを突っ込みながら、水平移動するとズズズッと切れていく。
「お、おおおっ」
が、少し早く動こうとすると、クチバシが引っかかった様になり、小惑星へとダイブする結果となった。
シールドの耐久度が削られて、回復を待つ羽目になる。
「切る速度に合わせて移動するのが無理だな」
「普通は白兵距離まで小惑星へと接近するのに時間がかかりますしね。ヒートブラスターを使った方が数倍早いです」
「分かっている事でも実証してみなければ確証は得られないのだよ」
マンタ工法は確かに効率が上がっているのだが、暇な時間をどうにかしないとなぁ。
「お、ステーション増加は話題になってるな」
仕方なく掲示板を確認すると、第2ステーションの話題でもちきりになっていた。拠点が狩場に近づくのだから、そのメリットはかなり大きい。
しかも今後に向けての予測もある。
開拓度が進むことでステーションが増えて、開発が更に加速するとなれば、その次の段階は何か?
他星系への移動となるだろう。
星系間の移動には、多次元化合物を利用した次元ゲートを開く事で可能になるのだが、それを使用するには多次元化合物を必要数集める必要があった。
星系内でそれを確保できた時、次の星系へのゲートを開くことができる。
現在解放されているステーションは、太陽系に似せた作りになっているが、先の星系ではもっと変わった惑星や現象、更には強敵となる他次元生物が待ち受けるという。
多次元化合物を集めるにも狩場に近いステーションができる事のメリットが大きいのだ。
「ただステーション増設の最後のトリガーが何かは分かってないと」
俺が生産コロニーへとせっせと設備を納品した情報は、俺が握っている状況。これを秘匿した時のメリットは何か……何もないな。
1日の納品任務は限られているので、稼げる額は大した事ないし、1人でやれる範囲なんて限られている。俺が工作機械を5台並べて増産を続けるよりも、5人がそれぞれに作って納品した方が、任務によるボーナス分お得になるのだ。
「ということで共有っと」
元々ソーシャルな皆でやっていこうという部分だしな。
そんな感じで時間を潰していると、マンタの採掘が終わり、ステーションへと帰還。
『カニは?』
「うわっとぉっ」
第3惑星の輪から飛び出そうとした時、目の前に割り込んでくるファルコン型戦闘機があって、急停止させられた。まあ、広い宇宙空間、避けようとしなくても当たることはないけどね。相手が当てようとしない限り。
当ててくるようなら、クチバシで突くけどなっ。
『人にものを尋ねる時は、自分から名乗りなさいと教わらなかったのか』
『別に……』
まあ、俺も面と向かって言われた記憶はないんだけど。
『そもそも何でカニを探してるんだ? 鍋にはできないぞ』
『倒したいから』
おおう、おじさんの忍耐力を試しているのか。それとも無口プレイか?
『何で倒したいんだよ』
『まだ倒してないから』
ぐぬぬ……会話が続かない。
『俺でも倒せたんだから、そんなに強くはないぞ』
『でも倒す』
コイツの魂胆が全然わからん。カニを倒すまで俺に絡んで来る気だろうか……なら、さっさと倒して貰う方がいいか。
『この機体じゃ、カニを呼び出す鉱石は探せないから、一度ステーションに戻る。その後なら探してやるよ』
『わかった』
「やっぱりガキかねぇ。素直っちゃぁ素直」
「お優しいですね、マスター」
「このままだとずっと絡まれそうだからな、厄介払いするには協力した方が早いだろ。だからその顔は止めろ」
猟奇的笑顔で迫るシーナに言いながら、改めてステーションへと帰った。工作機械でステーション外装用の工作機械を作るように予約して、格納庫を空ける為に生産コロニー用を売りに出す。
マンタで集めた素材を格納庫の保管ボックスへと移したら、再び宇宙へと繰り出した。
まあ、当然だがファルコンが待っている。
『4人はいつも一緒?』
『4人……ああ、こいつらは相棒がまとめて操作してるんだ』
『ふぅん』
聞いた割には素っ気なく機首の向きを変えていく。早く解放される為にちゃっちゃと済ますか。
近場の採掘場に到着し、マンタには汎用素材を採掘させながら、俺は例の鉱石を探していく。先週は無くなっていたが、一度掘った場所でも再び現れるのがゲームのいいところだ。鉱脈が枯れる度に新しい場所を探さないといけないとなると、かかる時間が膨大になってしまう。
『お、発見』
『どれ?』
『あれだな』
『どれ?』
「マーキング情報って転送できるか?」
「チームを組めば送れます」
『小惑星の位置を教えるのに、チームを組んでいいか?』
『ん』
その短い返答で、向こうからチーム申請が送られてきた。フウカ・ホウレンソウ……ネーミングセンスにとやかく言うつもりもない。
申請を受諾して、小惑星の位置を伝える。
『あの小惑星の中にある鉱石を掘ろうとしたら、カニ、シザーズクラブが出るから』
『早く』
『ああ、分かった』
小惑星へと接近し、ヒートブラスターで穴を空けていく。すると周囲に次元震が発生し始めた。
『でるぞ』
『わかった。1人でやる』
『んじゃ、俺は続けて掘ってるわ』
カニの相手はフウカに任せて、俺は鉱石の採掘を続ける。お、前回よりも大物っぽいな。2つ分くらいありそうだ。
ほくほくしながら掘っているうちに、シザーズクラブとフウカのバトルが開始された。
ファルコン型戦闘機はオーソドックスなタイプの戦闘機で、チュートリアルで使用されている機体でもある。2門の粒子砲と短距離ミサイル、対空レーザーが備え付けられていて、機動力、耐久力も平均的。目立った事が無い分、扱い易い機体とされている。
ヒートブラスターの照準がズレないように気を付けつつ、戦闘を観戦だ。
シザーズクラブは、両手のハサミを広げながら、泡をブクブクと吐き出し、早くも戦闘モード。それに対するフウカは、ほぼ一直線に接近していく。
他次元生物は、基本的に行動がシンプルだ。近づく獲物を己の武器で迎え撃つ。シザーズクラブの場合は、ハサミを起点に発せられる次元断層での攻撃だ。
まだ直撃を受けた事がないので威力は不明だが、ゴブリンの投石の比ではないだろう。
接近を続けるファルコンに対してシザーズクラブは、何もない空中でチョキンとハサミを動かす。するとハサミから生じた次元断層が真っ直ぐにファルコンを襲う。
『次元震の表示を見てないのか!?』
思わず声を出してしまうが、フウカからの応答はない。しかし、何事も無かったかの様にファルコンは飛び続けている。
「どうなってるんだ? あのハサミ、見掛け倒し?」
「いえ、挟まれればかなりのダメージを受けます」
「じゃあ、たまたま当たらない攻撃だった?」
「それも違います。あの機の軌道を見ると、ほんの少しだけ避けたみたいです」
そういってシーナが表示してくれたファルコンの軌道を示すラインは、僅かに曲がっていた。
「これだけの移動で避けれるのか」
そんな検証をしている間に、ファルコンの攻撃も始まっていた。しかし、粒子砲による攻撃は泡に阻まれて、直撃はしない。
そこに躊躇なくミサイルを撃ち込み、一気に泡を蹴散らし、粒子砲を撃ち込んでいく。ファルコンのミサイルは、ハンマーヘッドの物より小ぶりな分、装弾数が多いらしい。
たまらないといった感じでシザーズクラブは横に逃げるが、ファルコンはピタリと追従して動き、続けざまに粒子砲を浴びせ続ける。シザーズクラブも左右交互にハサミを動かし、次元断層で攻撃しているはずだが、ファルコンの動きを阻害できてない。
「俺も操縦には自信があったんだが、上には上がいるなぁ」
「あれは目もいいんでしょう。どこを攻撃が通るかをしっかりと把握できているのだと」
俺が大きく避けていたハサミによる攻撃を、ほとんど動くこと無く、一定距離を保ったまま攻撃を続けるファルコン。泡が補充される間もなくあっさりと撃破されてしまった。
「鉱石のトレードってどうするんだ?」
「申し込みを行えば可能です」
『採れた鉱石を渡すから、トレードの申請を受領してくれ』
『そんなのは要らない。それより他に倒すの知らない?』
まあ工作機械がなければ、鉱石なんて価値が半減するか。それよりも有益な情報が欲しいと。
『蜘蛛型の他次元生物は倒したか?』
『知らない』
『じゃあ出現ポイントを送るよ』
『ありがと』
タランチュラ型が出現するポイントを教えてやると、短い礼を残してすぐさま去っていった。
「戦闘狂って奴かねぇ」
「マスターとは真逆ですね」
「俺は楽なのがいいよ」