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「さて、上手くいくかどうか」

「……何と言うか、マスターらしいです」


 シーナは呆れたような、諦めたような雰囲気でそう呟いた。やはり笑顔以外は、機微のある表情を作れるようだ。いや、笑顔もできるはずだが、俺への嫌がらせか必殺の兵器として温存しているのか。

 何にせよ、使わない事が最大の抑止力という核兵器に似た状況になっている。笑顔一つをなぜそんな兵器にしてしまったのか……。


 とにかく俺はマンタ3機を引き連れて、第3惑星へと向かった。小惑星帯での練習は1週間で下火になったのか、誰も見かけなくなっていた。

 となるともう小惑星帯に引きずり込んで撃退する戦法は使えないかな。もう襲撃されないのが一番なんだけど。ただゲームが進んでいくと、海賊プレイに走る奴も出てくるかもしれない。そういう奴らはプレイ技術に長けているだろうから、戦うなんてってのほかで、如何に被害を出さずに逃げおおせるかを思案しておかないといけない。


「まだそんな奴らが出てきて欲しくないけど」

「今のところはそういった報告はありませんね」

「まずはゴブリンを楽に撃退できるようになるか……だな」

「マスターの方法だと、楽にはならないと思うんですが……」


 シーナの呟きは無視しつつ第3惑星の輪へと入っていく。そこにはマンタを1機伴っている。

 ハミングバードのバランスを崩さずに戦力を上げる手立て。ハミングバードをいじれないなら、他の戦力を持ち込めばいいじゃない。という話だ。

 マンタの1機をヒートブラスターから粒子砲へと載せ替えて、戦闘力を持たせた。

 ただマンタの遠隔制御は、そこまで精密にはできない。静止した小惑星を溶融させる事はできても、動き回るゴブリンに狙いを定めて攻撃するには、まだまだ経験と能力が足りてないらしい。


 そこでマンタは固定砲台として、その攻撃範囲に俺がゴブリンを誘導する事で撃破しようと考えた。マンタは輸送船でコア出力に余裕があるので、粒子砲を2門積んでも問題ない。これを上手く使えば、ハミングバードの2倍の火力が出せるはずだ。


「粒子砲の射線は常に画面に表示しておいて」

「はい、マスター。ただ攻撃のタイミングはこちらでは制御できないので、マスターの操縦桿にリンクしておきました」

「なるほど、このボタンがマンタの粒子砲の発射ボタンと。タイミングを間違えると自殺だな」

「だから楽にはならないと……」

「火力が上がれば戦闘は短くなるさ」


 ぶっちゃけシーナが攻撃できないのは、能力が足りないという訳じゃなく、攻撃まで自動でできてしまうと、プレイヤーは乗ってるだけのお客さんになるからだ。ゲームである以上、プレイヤーの操作が結果に繋がるべきだという事。

 実際、プログラムで自動迎撃できたらかなりスムーズな戦闘になってしまうのだろう。まあ、逆もまた然りで、敵の攻撃が的確かつ迅速に行われたらプレイヤーは太刀打ちできないはずだ。




 いざ戦闘に入ってみると、思惑は3割ほどしか当たらなかった。そもそもゴブリンの半数は投石によって攻撃してくるので、ハミングバードを囮に釣りだそうとしたところで、石を投げてくるばかりで動かないのだ。

 そして小惑星を足場に飛びかかってくるゴブリン達は移動範囲が制限されているので、狙った位置へと誘導するのもまた難しい。囮という繊細な移動を求められる中、粒子砲の発射タイミングを計るとなると思った以上に難しかった。


「マスター、マンタの射線を動かしてみては?」

「というと?」


 あまりの効率の悪さに一旦、小惑星帯の外へと退避して、作戦を練り直そうとした時、シーナから意見具申があった。


「マンタの攻撃は、動的なものを狙うのは難しいですが、相手が静止していればそこを狙う程度はできます」

「ああ、そうか。相手を誘導できないのが、移動しないって事なら、移動しない所を狙えばいいのか……」


 冷静になって考えてみればなんてことない意見なのだが、いざ戦場に立って必死に行動しながら新たな活路を見出すというのは難しい。

 指揮統率する人のありがたみを実感しつつ、第2幕へと突入する。



 ミサイルのロックオンと同じ様に視線による目標の選定を行って、粒子砲を発射。足を止めて投石を行う奴らを次々に撃破していく。

 一時的に目の前の敵から視線を逸らす事になるので、その分のヒヤヒヤ感はあるものの、今までは目の前の敵を撃破してから周囲の投石部隊を減らすしか無かった事を考えると、戦闘自体はスムーズになっていた。


 そしてゴブリンを一定数撃破するといよいよ奴が現れる。リーダーが出てくるとゴブリンの攻撃は激しさを増してくるので、視線を外して他を攻撃なんて悠長な事はやっていられない。


「作戦通りに、1点を定期的に攻撃で」

「はい、マスター」


 シーナは自動での迎撃はしてくれないが、どこそこの位置を5秒おきに攻撃といった指示には応えてくれる。具体的に指示する行為は、プレイヤーの意思という判断なのだろう。


 粒子砲の通る場所はスクリーン上に表示されているので、そこには入らないようにしつつ、そこへと敵を誘導しながら戦う。序盤ではできなかったが、敵の数が増えるリーダー戦では、一定の効果がでるはずだ。


 そして戦闘が開始されると、俺を狙って殺到するゴブリンの一部は、粒子砲に阻まれて撃破されるかダメージを負うかしてくれて、俺が撃破する分と合わせると今までよりは楽に数を減らせていく。

 しかし、リーダーはしっかりとマンタの射線を避けて移動しているので、これでの撃破はできないようだ。


「ま、タイマンの状況に持ち込めたら上々だ」


 マンタの援護を背にしながらリーダーへと接近していく。



 今回のリーダーは、大きい石を投げてくるマッチョタイプだった。新しい戦いを試すには丁度いい。投石の合間を縫って距離を詰め、相手の白兵距離まで接近する。

 相手は腕を振りかぶってこちらを殴りに来るタイミングを見計らい、こちらも秘密兵器を発動させた。

 マンタの援護だけではなく、ハミングバードにも新たな武装を追加している。中口径の粒子砲を外して、小口径にランクを落とし、浮いた出力分で極短距離の白兵武器を装備していた。


「ハチドリの様に舞い、ハチドリの様に……刺すっ」


 クチバシの様に先端部へと取り付けられた粒子刺突槍は、帯電粒子を棒状の物に纏わせて突く事でダメージを与える武器。発射する粒子砲に比べると直接撃ち込める分、その威力は格段に上がっている。


 β時代から採掘を行ってきた俺は、射撃の腕はからきしだったが、小惑星へと近づける操船技術は磨いてきた。

 単調に採掘を続けていると作業感に苛まれて飽きも早くなってしまうので、無駄に高速で接近してビタ止めを狙ったり、移動する小惑星を相手に採掘を試みたりと、様々なシチュエーションで掘っていた。

 その趣味的な掘りの技術が、白兵戦で発揮される。


 ゴブリンの腕を水平移動で避けつつ、その体へと船体を寄せて、クチバシで突っつく。極短距離で放たれる高出力の粒子が相手を焼いてダメージを与えていく。

 貫くというよりは、当て続ける事で継続ダメージを与える感じだが、粒子砲を連続で当て続けているようなものなので、威力はかなり高い。


 相手から離れないように、背後に回り続ける様にクチバシを当て続け、しばらくすると相手が爆発。撃破に成功した。


「よっしゃあー」

「シューティングゲームなのに白兵戦って……本当にマスターはルール無用ですね」

「高速で飛び回る宇宙船相手だと使えないけど、移動の少ない他次元生物相手ならやれるな。カニもいけるんじゃないかな」


 ロボットアニメの影響で宇宙空間でもチャンバラする事自体に抵抗はない。ただ銃器がある中で至近距離で切り合うリスクは大きいので、威力を上げた武器を用意するのはゲーム的バランスかもしれない。

 何にせよ俺にとってはこの手の武器は十分に用途がある事が確認できた。


「ハンマーヘッドにも付けてみるか? でもハンマーヘッドの図体と機動力じゃ近づく前に終わるか……」


 ハミングバードの小ささと機動力があってこその白兵戦なのかもしれない。

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