19
久々にどっぷりとゲーム三昧な週末が明けた翌日。疲れをとるどころか、疲労を溜め込んだ感がやばい。
それでもこんな事で有給を使うわけにもいかず、空元気でも出して仕事に向かうのであった。
まあ、肉体を酷使したわけでもなく、筋肉痛に苛まれるわけでもないので、仕事に支障をきたす事もなかったが。
昼休み、久しぶりに掲示板を覗いてみると、思った以上に成金王の話題が風化していた。1サーバーの1ユーザーの動向なので、他の7サーバーの人間はまさに他人事。それよりも新しいゲームの攻略法の方が皆の関心を集めていた。
その点で言うと、自分のいるFoxtrontサーバーが開拓度でトップを走っているらしい。その主な理由はA級任務の早期解放と、早期クリアらしい。
解放の方は俺自身が星系のマップを埋めたことが貢献したようだが、それ以上に初期機体では不可能と言われるA級任務を単騎でクリアするツワモノがいるらしい。
撃墜王たるフレイアちゃんも、シールド艦を操るフレイが側に付いていて、任務達成数トップだった特務曹長は、連合で任務をこなしていた。
そこを単騎でトライしているという。ぼっち仲間としては陰ながら応援しておこう。
その他の大きな話題としては、フレイアちゃんに続けとばかりに、アイドルっぽいアバターを作ってアピールする人が増えているらしい。
しかし、コピーはコピー。どこかあざとさが見えたり、不自然さが目立ったりしているらしい。そのためにフレイアちゃんの人気が更に高まっているとか。
フレイアちゃんの所属するAlphaサーバーは相変わらずサーバー人数がダントツに多いらしい。作り直してでもAlphaに行きたいという人が後を絶たず、Alphaサーバーのアカウントが転売されたりもしているそうな。
メーカーとしては、サーバー間の移動も可能なシステムを組んでおり、ゲームが進行すれば他のサーバーにも移れるようになるとしている。
そのため、安易に転売アカウントを購入しないように注意を促していた。
「まあ、俺は自分の活動で手一杯だがな」
活動の指針は決まったので、後は手を動かすだけになっている。成金王の騒ぎは下火になったとはいえ、俺に突っかかってきた連中が簡単に諦めるとは言えない。まだしばらくはロビーにも行かず、シーナも出さないようにするつもりだ。
「午後も仕事を頑張って、早く帰るぞ」
早く仕事を進めると、他の人の作業を手伝う羽目になる罠。家に帰る頃にはクタクタになってしまった。
まあ、平日にガッツリとゲームするつもりもなかったので、色々と作業の進捗を確認するに止めようと思っている。
「おかえりなさい、マスター」
「ああ、ただいま」
ログインするとシーナが迎えてくれる。まだ5日目だが帰ってきたと思えてしまう。まあ一人暮らしで挨拶する人間がいないからという面が大きいんだろうけど。
「生産したコロニー用設備を納品っと」
「はい、マスター」
納品任務をこなして開拓度に貢献していく。ただ1日に発行される任務数には限度がある。
「これって、任務以上の納品はできる?」
「はい、開拓度の上昇や報酬は減ってしまいますが、納品する事自体は可能です」
「じゃあ生産コロニー用工作機械を量産して、並行生産していくぞ」
「……β時代を思い出しますね」
次々と作り出される工作機械で、格納庫が埋まっていく。すると問題となるのが、格納庫の広さだった。
「ハミングバードにハンマーヘッド、ソードフィッシュにマンタ3機、そこに工作機械が並んで……いっぱいいっぱいになってるな」
「普通は5日でいっぱいにはならないはずなんですが……」
「ひとまずソードフィッシュは売却だな」
「兵装が違うので、値段がかなり落ちますが……」
「パーツ作製で粒子砲を作って付け替えよう。修理用工作機械で付け替えもできたよな」
「はい、大丈夫です。もう立派な生産工場ですね」
「船体が作れないからなぁ。早くカニを倒したいところだが……今日は出撃する元気がない」
ゲームは別疲労とか思っていた時代が懐かしい。今は仕事の疲労が尾を引いて、実戦をする事は無理そうだ。
「格納庫を広げるには……やっぱり、コストがかかるのか?」
「はい、マスター。これくらいかかります」
初期型宇宙船10機ほどのコストを払えば、今の倍くらいにはできるらしい。工作機械が全6種類、追加で作った生産コロニー用工作機械が現在5機。全部売れば届く額ではあるが、それでは広げた意味がなくなる。昨日マンタ3機で集めてきた素材は底をついていて、新たな工作機械はもう作れないと。
「今日の所はまだ我慢だな。その代わり、今日の納品で出た報酬で、汎用素材を購入。生産コロニー用の設備をどんどん増産だ」
汎用素材くらい採掘場で集めてくればタダなんだが、今日は掘りに行けないので金でカバー。作った物を納品しても報酬的にはトントン。開拓度だけが増える算段だ。開拓度に貢献した事による報酬もあるので、そちらの分はプラスになるかな。
「という事で、今日は終わりかな」
「え、もうですか」
「うむ、明日も仕事だからなぁ」
「仕方ないですね」
名残惜しいが平日は仕方ない。シーナもその辺はわきまえていて、引き止めるような事はしない。それはちょっと寂しいと思うが、サポートシステムとして、無理してゲームを続けろと言い始めたら駄目だろうしな。
「それじゃ、おやすみ」
「おやすみなさいませ、マスター」
明日こそは早めに仕事を終わらせて、素材採取に出かけるぞ。
……そんな風に思っていたのに、気づいた時にはもう週末だった。平日の間は納品と素材の購入、再生産を繰り返すだけで力尽き、ログアウトする日々が続いてしまった。
更に金曜日、ひとまず疲れを取ってからと仮眠するつもりがそのまま朝を迎えてしまう体たらく。
「おはよう」
「おはようございます、マスター。無理はなさってないですか?」
「ああ、ちゃんと寝たから大丈夫」
土曜日の朝6時からログイン。昨晩納品できてなかったので、その分を納品してからやる事を決めなくては。
「マスター、報告があります」
「ん、なんだ?」
「生産コロニーの食料供給量が十分に高まった事で、第2ステーションが設置される事になりました」
「第2ステーション?」
「はい、星系内にこことは別のステーションが設置され、そこを拠点に活動することができるようになります」
どうやら恒星の向こう側、第2惑星と第3惑星の間にある生命居住可能領域にステーションが設置されるようだ。
これにより恒星の向こう側を探索するのに移動時間が短縮される事となった。
「なるほど、生産コロニーの機能を充実させると、ステーションが増えるのか」
「養えるステーション職員の数が増えますので」
「でもこれでかなり活動範囲を広げられるな」
「マスターが黙々とコロニー用設備を作り続けていたので、かなり早い段階で実現したようです」
「で、いつ頃できるんだ?」
「あと1週間ほどかかるかと」
「思ったよりかかるな」
「はい、ステーション用建築材が十分ではないので……」
「なるほど、次はそれを大量に作れと」
「別にマスター1人で賄う必要はないんですよ?」
「でもプレイヤーが積極的に関わる事で、工期が短くなるんだろう? ならば作っていくしか無いじゃないか」
ロビーで訴えれば手伝ってくれる人も出てくるだろうか。でも工作機械を用意するにはコストがかかる。他人に強要できるものでもないし、自分で動くほうが楽だ。
「ひとまず格納庫を開ける為に工作機械を売却しつつ、素材を集めにいかないとな」
「久しぶりの宇宙ですね」
工作機械を作製する素材は、第3惑星の輪でゴブリンの巣から集めるしかない。ということでハミングバードを選び……装備を確認。中口径の粒子砲1門と、防御用の対空レーザーが1門。
この装備だとゴブリンはともかく、リーダーと戦うと耐久度の削り合いになって満身創痍になってしまう。
一発パンチのある武器でもあれば、楽になるのではないか。ただハミングバードの強みは機動性、コアの出力の多くはその部分に割かれていて、多くの武装を詰めない。例えばミサイルなど独自のコアを持っていて勝手に飛んでくれる兵器だとしても、撃ち出すまでは荷物になってしまい、機動力の低下に繋がってしまう。
ハミングバードの機動力はそこまで切り詰めた結果として得られた特徴らしい。
となると下手にいじると戦力は上がるどころか下がる一方。そこで俺が選んだ手段は……。