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ボックスフィッシュの訓練がてらの移動で採掘場へと到着。汎用素材を採掘させながら、俺はレア鉱石を探していく。カニを呼び出すレア鉱石は、中々見つからない。
以前から採れていたレア鉱石は掘れるので、その辺を集めながら徐々に移動していく。ボックスフィッシュのコンテナはすぐにいっぱいになってしまった。
ブラックイールは9つのコンテナを連ねた輸送船だったので、ボックスフィッシュのコンテナ1つ分の積載量はかなり少なく感じてしまう。
「もう一回り大きな輸送船にした方が良かったかな」
「購入コストは掛かりますが、マスターの経済状況なら大丈夫かと」
「まあ、世の中金を使える人間の方が稼げるのが理だからな」
節約にこだわり過ぎると、収入まで減ってしまう。使うべき場所で使い、足りない分は稼ぐか、我慢してグレードを落とすのか。その辺がアメリカ辺りと日本の違いなんだろう。
もったいない精神が尊ばれているが、安いものを買うのが節約という訳じゃないと思う。人件費の安い国から、輸送コストを掛けて運んできた物を使うのが節約なのか、多少高く付くものの輸送距離が近くて、余剰エネルギーが要らない物を使うのか。どちらが本当の節約になるのか、その辺は考えていかないと無駄な出費を生んでしまうのだ。
今回の場合は、せっかく買ったボックスフィッシュにこだわって小さなコンテナで往復回数を増やす選択をすると、時間を大きくロスする事になる。
するとほんの数回の往復で、船を買った方が稼げた状況になるだろう。既に中古市場の価格が上がり始めている今、行動を起こすなら早い方がいいな。
「という事でさっさと帰ろう」
「はい、マスター」
『カニはまだ?』
「うわぉっ」
唐突に響いた声に驚かされる。またあいつか。というか、レーダーに映っていたはずなのに、気づいてないのが問題か。別にステルス艦というわけじゃないはずなのに、妙に存在感がなかった。
機体は初期型の中でもスタンダードな、ファルコン型でバランスはいいものの抜きん出た物もないという戦闘機だ。
「どうやら小惑星の影を縫って接近してきたようです」
「ハンマーヘッドのレーダーを躱して?」
「すいません、明確にトレースできていないので、詳細は不明です」
『カニまだ〜?』
『今回はカニ付きの鉱石を見つけられなかった』
『そう』
素っ気なく言い置いて、加速して消えていった。
「一体何なのだろうか?」
「分かりかねます」
「名前はわからんよね。称号はルーキー?」
「いえ、何も付いていませんでした」
奴が海賊で不意を突かれていたらと思うと怖いが、そういった雰囲気もない。単なるカニ好き?
ファルコン乗りが何を狙ってるのかよく分からないが、分からない事を悩んで時間を浪費するのもよくない。
自分がやりたい事を優先しないとな。
ステーションに戻ると、中古市場を確認。購入する輸送機を選んでいく。
「ブラックイール型は?」
「ブラックイール型はコンテナを連結して動かす分、情報が多くなって制御が難しくなっています。できればコンテナ内蔵型の輸送機が望ましいです」
「なるほど……」
やはり最初に乗った機体という事で、ブラックイールには愛着があるもののそれにこだわる訳にはいかないようだ。
マンタ型ならコンテナ内蔵型だから問題はなさそうか。
「ひとまずマンタ型で揃えてみようか。あと2機購入だな」
「はい、問題ないと思います」
中古市場の値段は上がりつつあるが、輸送機はまだそこまで影響が無いようだ。マンタ型を2機追加購入。コックピット部分を遠隔制御ユニットに換装、シーナの指示で動くように設定を行う。
「ボックスフィッシュによる情報も加味していますので、問題なく制御可能です」
「フォーメーションも試していけるな。いっそ戦闘機も揃えて一人編隊で戦ったりもしてみたいね」
「ただ戦闘機は中古市場が通常水準まで戻っていますので、3機揃えるのは難しいかと」
「それは仕方ないね……ゆくゆくは自前の工作機械で戦闘機も生産したいものだ」
工作機械で作れるのはまだパーツに限られていて、戦闘機を丸々1機構築するには工作機械自体をアップグレードする必要があった。
さっき採掘へと出掛けている間に、ステーション内設備用工作機械は完成していて、その作成可能リストに、Lv2の工作機械も追加されていたが素材にはシザークラブを呼び出した鉱石が必要だった。
あれを探すにはもっと遠くの採掘場へと向かわないと駄目そうだ。
「そうなると戦力が欲しいところなんだけどな」
「他のプレイヤーを誘ってみればいかがでしょうか」
「いや炎上騒動の中心人物に協力してくれるプレイヤーなんていないよ……」
「そうでしょうか?」
「というよりは、俺が面倒だって事かな。ぼっち歴長いし……シーナが居てくれたらそれでいいよ」
「早く戦闘機を準備するしかないですね」
「だな」
明日からは仕事だし、早めに切り上げる為にも少しまとまった素材を集めようかと、ハンマーヘッドからハミングバードへと乗り換え。
マンタ3機を伴って第3惑星を目指す。
本当ならハンマーヘッドで鉱石を探したいところだが、今日はゴブリンを掃除していない。ハンマーヘッドは粒子砲2門で火力ではハミングバードを上回るが、体が大きくなり機動性も落ちているので小惑星帯でのバトルには向いてなかった。
それでも遠隔操作のマンタを連れて行けば、今までハミングバードでゴブリンを駆逐して、マンタに乗り換えて採掘を行うのに比べれば、速度は3倍以上になる。
そう思いながら第3惑星までやってきたが、ゴブリンの姿は無かった。その代わりに小惑星帯を飛行する戦闘機をちらほら見かける。
「どうなってんだ?」
「昨日、マスターにあしらわれた方々が練習してるんでしょうか」
「むむむ、面倒な。そんな連中に絡まれたくないぞ」
「惑星の反対側にはいないかもしれません」
「回り込んでみるか」
確かに惑星の反対側には戦闘機は居なかった。しかし、それはゴブリンが駆除されてないという事でもあった。
「駆除は3度目、戯れるのは5度目になるかね。そろそろ綺麗に攻略したいところだが……」
マンタは安全圏に停泊させて、単騎で突撃する。
こちら側は来たことなかったが、小惑星の大きさがやや大きく感じる。動きに注意が必要なほどの密集はしていないが、死角になる部分が多いので戦いの難度は上がっている気がした。
「物陰に隠れてやがる」
大きめの小惑星の窪みに身を伏せて、攻撃する時だけ上半身を覗かせるような奴までいる。回り込めれば問題はないが、ゴブリンは1匹だけではない。不用意に近づけば、他のゴブリンから不意打ちを受ける可能性もあった。
「隠れられる場所を減らしていくか」
「というと?」
「マンタを1台呼んでくれ。手前の小惑星から削っていかせよう」
「しかし、マンタの機動力と遠隔操作では投石を避けられませんが」
「そこは輸送船の耐久力で凌ぐ。シールドが減ってきたら、休んでるマンタとローテーションで回していけば、撃破されることはないだろう」
「わかりました、マスター」
輸送船は運搬用に大きめのコアを積んでいて、機動力がない分、シールドが厚めになっている。ゴブリンの投石レベルなら、数十発は耐えてくれるはず。
もちろん、マンタを攻撃に出てくれば、俺が迎撃する事もできる。とにかくヒョコヒョコと見え隠れしながら攻撃される状態を何とかしたかった。
マンタを呼び寄せ、小惑星を溶融させていくと、そこに触れたゴブリンはダメージを受ける。それを嫌って向かってくる奴を仕留めながら、ゴブリンの数を減らしていく。
マンタを囮に使うのは本意ではなかったが、一人で戦うよりはスムーズに倒していく事ができた。
「リーダーが出てきたな。マンタは下がらせて、俺一人で向かう」
「はい、マスター」
リーダーが出てくるとゴブリン達は多少の連携を見せる。マンタの動きが鈍いのをみれば、集中して攻撃される危険があった。
ゴブリンが隠れられる目立った出っ張りは溶解させたので、後は以前と同じ様に戦えるはずだった。
「やっぱり、ボス戦は疲れる……」
「お疲れ様でした」
リーダー戦を消耗しながらも何とか終えて、マンタを呼び寄せて採掘へと移る。ハミングバードのシールド耐久値が回復するのを待ちながら、マンタの作業を確認しておく。
3機がそれぞれに採掘を行ってくれるので、今までに比べると3倍の速度で掘れる。コンテナ6個分の積載量を持っているので、ボックスフィッシュに比べるとかなり効率がいいな。
これを警護するようにステーションへと戻り、初めての連休プレイを終えた。