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レイド自体は俺達が戦場を去った後もつつがなく進行していた。旗艦の一つを失った左翼は、統制が乱れて韓国チームの攻勢を受け止めきれなくなり、そのまま押し切られた。
右翼では海賊とアメリカチームが拮抗する中、玉藻御膳のナインテイルが敵艦を撃破していき、かなりの戦果を上げている。
そして中央の日本主力連合は、真っ向から敵艦隊に仕掛けていき、そのまま艦隊戦に勝利したようだ。
アストナージや玉藻御膳、Foods連合などから逐次連絡があって、戦況は結構詳しく伝わってきていた。
シーナも無事に旗艦を確保したままレイドの終了を迎えることができた。あれから韓国チームによる攻撃はなかったのだ。一部の過激派の行動だったのだろう。
最終的なリザルトとしては、旗艦撃破のボーナスはあったものの後半からの参戦で戦果自体は伸びず、ドラマへの参加権を回避。
報酬面では旗艦確保が大きいだろう。
まあ1000m級の船体をどうするかは悩みどころだが……案としては、合体機構を取り入れてシュネーヴィントクラスの高機動航行船と大規模集積を可能とする格納部分を分離できる構造だ。
今後、艦隊規模での戦闘が起こるなら、やはり要塞砲クラスの火力も必要になるだろう。となれば高機動部分をマーカーに、後方に置いた格納庫部分から援護させるというのが俺の戦い方に向いている。
今回、シュネーで近接をやった感想としては、ハミングバードの紙装甲には限界があるなと。弾幕が厚くなり、被弾が避けられない状況が起こりうる戦闘が増えそうな予感だ。
もちろん、ハミングバードを捨てる訳じゃないが、シュネークラスの装甲を備えた大型機は必要となるだろう。
そして戦況報告をBGMに、ルークの戦い方を振り返ってもみた。超重量による重力場攻撃は、かなり反則だったが、それなりに制限もありそうだ。
そもそも超重量を次元空間に持ち込むのもかなり下準備が必要で、そこから一部だけを3次元空間に現出させるというのもかなり不安定な状態となるのだろう。
戦闘データを見てみると、重力場を維持している時間はかなり短く、一定時間で他の場所に出現させ直していた。
その出現パターンもそんなにレパートリーはなく、決められた動きを組み合わせて運用しているようだ。まあ初見の人間には脅威としか言いようがないが、パターンが掴めればもっと楽に接近できる様になるだろう。
最後に見せた次元断層による自爆も技術的にはそこまで難しくないようだ。次元航行を行うシステムをあえて失敗させて、周囲の空間を不安定とし、暴走させた結果となる。もしかすると重力場を制御する上で発見した副産物かもしれないな。
次元航行システムを中心にしか行えないので、一隻の航行船には一つの航行システムしか積めない制約があるので、自爆専用としてしか運用できない。
そもそも俺は戦闘したいわけでもないし、開発する手間を考えたら実用化する意味はなさそうだ。
レイド前半を思い起こすと、アストナージと行った戦場での補給任務。あの辺りは今後も行っていく可能性が高いので、もう少し効率的なシステムを検討したい。
折角1000m級の船を手に入れる事だし、補給線の距離を縮めて、迅速に補給・修理を行える場を提供したい所だ。
遠隔制御ユニットを使って、補給船を運用する方法もあるな。航行船に合体機構を組み込むなら、本体をステーションとして、補給船を派遣して回るシステムも考えられる。
「移動要塞か……それもまた浪漫だな」
クジラ戦で作った簡易バリケードを旗艦で再現、より強固なモノを作り上げる。装甲を展開して要塞砲を並べ、簡易陣地として運用できそうだ。
「エネルギーを馬鹿食いしそうだけどな」
1000m級の船体を動かすコアの出力はいかほどか。それを多重コアにできれば問題ないだろうが……同規模のコアを入手するのは難しいだろう。分離機構を組み込むので、分離側は個々にコアを積んで、要塞部分は移動時と要塞時できっちり使い分ければいけるか?
「ま、あんまり詰めてもとらたぬ感があるな」
まだ旗艦の構造自体分かってない段階で妄想を広げても実現できない可能性もある。ある程度で止めておこう。
今後も星系を回っての探索が続くだろう事を考えると、シュネーヴィントの再建造も必要か。1000m級の船は探索には向かなそうだし。航行船には一つの航行システムという制約があるので、分離型にすると分離した小型航行船にシステムを載せないと、星系から次元空間に戻れなくなる。
となると小型航行船に大型船用の航行システムを載せなければならず、そこに多くの容量を持っていかれると折角小型で機動力を確保しようとしているのに、無駄な部分が多くなりそうだ。
「いや待てよ。ルークの重力場システムが使えるか?」
船体を次元空間に置いて、一部だけ3次元空間に現出させる方法なら、小型航行船側に航行システムを載せる必要はなくなる……いや、それは航行船じゃないか。
それに不安定な一部現出は長時間維持できないので、探索するだけの時間は稼げない。
「というか、アレか。格納庫を現出させて、そこからハイドロジェンを発進させて、探索が終われば回収して貰えばいいのか」
途中で対処できない状況になれば、次元空間に待機する母船に回収してもらう運用ができれば、新星系がスカでも、航行システムのリチャージを待たずに次元空間に戻る事ができそうだ。
既にルークが確立している一部現出の技術を開発するなら、新たな機構を申請するよりも敷居は低いはず。
まずはここを実用化して、星系探索を効率化するのが良さそうだ。
災厄との戦闘はまさに災難でしかなかったが、最後に希望を残しておいてくれたようだ。今後の開発方針が次々と浮かんでくる。
「また忙しくなるぞ」
STGの世界はまだまだ広がって行きそうだ。新たなプレイヤーと出会い、そこに新たなインスピレーションが生まれ、次への道標ができる。
これだから生産職は止められない。
俺は早速、重力場システムのデータ解析に取り掛かった。
さて本格的にネタが尽きて連載が滞る事態が続いているので、ここらで締めたいと思います。
またネタが出れば続けるかもしれませんが……蛇足になりそうな気も。
……というか、並行して作業できないのに、書きたいネタが出てきてるというワガママでもあります。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
また新たな物語を楽しんでいただけるよう執筆活動は続けさせていただきますので、良ければそちらを楽しんでいただければと思います。