表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/200

1

 俺はここ3ヶ月、ウキウキしながら節制生活を送っていた。それはなぜか。新しいゲームが出るから。

 VR専用で専用機器でしかプレイできない宇宙を舞台にしたシューティングゲームだ。

 戦闘機に乗って、宇宙海賊や宇宙に生息する凶悪なモンスターと戦いながら、自分が乗る戦闘機を強化していけるようなゲーム。

 Spaceship in Tempest Galaxy。

 略してSTG……シューティングゲームの略称と被るようにしてタイトルを付けたのだろう。

 俺はβテスト、製品に先駆けて行われた負荷などの運用テスト、に1ヶ月参加してどっぷりハマり込んでいた。

 βテスト終了直後から、製品版が始まるのを一日千秋の思いで待っている。


 そう聞くといい年をこいた社会人が何を言ってるんだという話になるだろうから、おおっぴらに吹聴して回ることはない。

 それでも浮かれているのは自覚しているし、周りにも気づかれる。


「何かいい事あったんですか?」

「いやまあ、ちょっとね」

「宝くじとか!?」

「そんなんじゃないよ。どっちかと言うと出費の方だから」

「じゃあ旅行ですか?」

「ん〜、まあ、ある意味そうかな」

「へぇ〜いいですね」


 旅行と言っても仮想空間の宇宙へだけどなっ。

 もちろん、そんな事は声に出して言わない。

 そんな会話をしたりしながら、日々の食費を切り詰める為に袋麺で過ごしたり、弁当持参で職場に行ったりを続けていた。


 ある程度の出費を覚悟していたものの、実際に発売日が発表された時には、少し拍子抜けした。

 その販売価格は59800円とそこまで高価にはならなかったのだ。確かに家庭用ゲーム機として普及させるにはまだ高い価格ではあるが、新技術も色々と組み込まれているので、体感としては安い。

 更にはレンタルサービスなどもリリースされ、そちらは月々の価格は5000円以下に抑えられていた。

 ただ月額課金は導入されるらしい。ネットゲームとしてアップデートを繰り返す以上、その開発費を回収しなければならないので一定額は仕方ない。

 それに製品版開始から3ヶ月は無料なので最初は考えなくて良かった。




 そんな諸々の発表があった中、ついに発売日を迎える。正直、仕事を休んでログインしたい気持ちはあったが、そこは社会人。ぐっと我慢して仕事を続ける。

 金曜日に発売されて、月曜日が祝日。丸3日遊び倒せる。そのために食料品の備蓄も済ませていた。

 既に新しいゲーム機は到着済み。サービス開始を待つだけの状態にしてある。

 ここで浮かれ過ぎて交通事故に遭ったら、ゲームの世界に異世界転生とかしちゃうんだろうかとか、くだらない妄想をしながら家路につく。もちろん、事故になんか遭わなかった。


 家に帰ったら早速プレイ……とはやらず、食事、入浴を済ませて準備万端で開始する事にした。途中で中断する方を避けるためだ。

 その間に、アップデートプログラムをチェック。やっぱりあったギガパッチ。しかも初日だからかダウンロード速度が遅く、1時間近くかかるみたいだ。ここからログインオンラインとかは避けたいところだが……まあ、言っても新しく機器を買わないとプレイできないゲーム。そんなに過密にはならないだろう。

 昔、家庭用ゲーム機で初めて本格的に大規模ロールプレイングゲームが発売された時は、元々が有名なタイトルだっただけに、初日はひどい有様だったらしい。

 タイトル画面からゲームに入るだけで長時間待たされ、やっと入れたと思ったらちょっとした事で回線切断。エリアを移動するロードも長く、フィールドに出てもモンスターがいない……そんな状態でゲームにならなかったそうだ。


 それはさておき、食事を摂りながら掲示板をチェックする。サービス開始は15時からで、学生などは既にプレイに入っていた。ネットゲームはスタートダッシュ……そんな考えが無いではないが、社会人でスタートダッシュしたところで、平日の間にあっさり覆されるマージンなど無理して取りにいく必要もない。

 それよりもじっくりと世界を堪能しながらプレイしたいのだ。


 掲示板の書き込みは思ったよりも少ない。いや、VRゴーグルをつけていると、ながらでネットはできないからプレイしてると書き込めないのか。

 ……というよりは、まだプレイヤーが少ないのか。新しい機械ハードで、専用機。今のゲーマーでも中々手を出さない代物だろう。

 書き込みを見ると「養分乙」といった煽りコメントの方が多い。それでも実際にプレイした人間の感想は好印象のものが多かった。

 あの宇宙空間に放り出されたような全天の星空。自分の視線に合わせて動く視界。手から伝わってくる振動の臨場感。

 そうしたファーストインプレッションのコメントには、βを始めた当初の感覚を思い出させて共感できた。


「ていうか、早くプレイしよう」


 残ったご飯を掻き込み、ちゃちゃっとシャワーを浴びて身を清め、いざVR機器マシンの前にやってくる。アップデートプログラムのダウンロードも終わり、更新も終了していつでも開始できる状態だった。




 VR機器は視界を覆うゴーグル、スキーのゴーグルのような感じで、レンズの部分が有機ELの画面になっている。それで左右の瞳に合わせて二枚の映像を描写することで、立体感を出せるのだ。

 ゴーグルは箱状の機器に有線でつながっている。ワイヤレスを希望する声は多いが、まだ無線だと遅延の問題がクリアできていない。他にも電磁波を発生する装置、例えば電子レンジなどに影響されたりする可能性がある。

 映画を観たりする場合は、先のシーンを前倒しで取得することで、遅延が影響しないようになっているが、リアルタイムで画面を更新しなければならないゲームではコンマ数秒の遅延でもゲームにならなくなってしまう。

 まだ有線に頼るしかなかった。


 そしてこのゲーム機の最も特徴的なのがコントローラーだ。これが手に持つようなものではなく、手首に巻きつける事で、指先の動きを読み取るというリストバンド型コントローラーなのだ。

 体内を流れる微弱な電流を読み取り、時には逆に刺激することで、手が触れた感触などを再現している。

 低周波治療機や腹筋を鍛える機器に近い感じ。

 これが視界のゴーグルと合わさる事で、まさに仮想現実を体感できるようになっていた。



 俺はゴーグルを着けて、リストバンド型コントローラーにあるメインスイッチをオンにした。




 真っ暗だった視界が徐々に明るくなっていく。といって映し出されるのは無数の星々。まるで宇宙空間に一人浮かんでいるような状態だ。

 左右の手にはスティックが握られ、パイロットチェアに座っている。


 さてチュートリアルの開始かなと思っていたら、前方の宇宙に、円形の光が灯ったかと思うと、舞台の奈落がせり上がるようにして、一人の人物が登場する。

 赤みがかった金髪をポニーテールにまとめ上げ、勝ち気そうな瞳に満面の笑み。幼さの残るハイティーンの美少女がそこに立っていた。

 白い将官用の軍服をベースにしたアイドル衣装を纏い、その場でターン。するとBGMが流れ始めた。


「生フレイアちゃんキタコレ」


 βテスト時の撃墜王にして、そのアバターの外見ルックスからSTGのマスコットとして、メーカーの紹介チャンネルに抜擢されたシンデレラガール。

 テクノ調のダンサブルミュージックに合わせて歌い踊る彼女の後ろには、仮想スクリーンが立ち上がり、彼女の愛機だろう宇宙船が、多数の他次元生物に囲まれながら、四方八方にミサイルを飛ばしている映像が流されていた。

 歌って踊って戦える、超次元アイドル『フレイア』は、βテスターはもちろん、紹介チャンネルから拡散してゲーマーの中ではかなりの知名度になっている。


「これ、アカンやつや……」


 耳に残るテクノのリズムに合わせて、手が届きそうな……5mほどの距離で踊ってくれている。しかもちらちらとこちらと視線が合うのだ。もちろん、カメラを見つめているんだろうけど、自分一人の為にライブしてくれているような錯覚。惚れてまうやろ。

 オープニング代わりに流されたPVの後に、ゲーム内で再生できるPVデータが、リアルマネーで販売されていた。思わずポチってしまった……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ハードのタイプが よくVRゲー物でありがちな フルダイブ形式ではなく 有線のゴーグルタイプなところ まだ対応してる数はそんなに多くないけど 実在してるものだからリアリティをより感じる ゴ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ