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日本のトッププレイヤー二人がルークの気を引いてくれている間に、俺は接近を試みる。迎撃に出てきた3機の無人機は、それなりの攻撃力を持つ大型戦闘機だ。
ハミングバードであれば、レールガンの散弾を受けるとヤバかったが、シュネーヴィントの装甲なら多少のダメージを受けても平気だ。
もちろん、至近距離で何度も喰らえばヤバいかもしれないが、互いの機動力にはさほど差がない。こちらが避けようと思えば、無駄な接近はさせずにすんだ。
無人機の動きはマスターであるルークの腕をコピーしているのだろう、射撃も正確だし、動きも鋭い。
それでも操船技術で言えば、俺もソコソコのランク。一方的にやられる事はなかった。
「体当たりやショットガンで倒せなくもないが、倒しても次が出てくるだけだし、無視して航行船に接近だな」
さっき体当たりで撃破したからだろう、無人機は一定距離を取りながらレールガンを撃ってくる。ただその攻撃はやはり無人機の限界か、単調で避けるのはさほど苦ではない。
スルスルとルークの航行船へと近づいていった。
シールド圏内へと近づくと、ちらほら機雷が見えるが先程と違って飛び道具があるので、拡散型電磁砲で掃除しながら近づいていく。
ルークには気づかれているだろうが、腕がこちらに差向けられる事はなかった。
下手にこちらに意識を向けると、フウカ達に隙を見せる事になるのだろう。
「ま、脅威度としては俺が一番低そうだから正しいけど」
航行船から生える腕を切り落とせるBJに、集中砲火で装甲に穴を開けるフウカ。どちらも敵にしたくない相手だ。
その二人を相手にあれから腕を壊されていないのは、さすが災厄と呼ばれた奴か。
ただ航行船としては普通の機動力。戦闘機からしたら止まっているとしか思えない。だからこそ、腕を伸ばして攻撃しているのだろう。
無人機からの攻撃を避けつつ航行船へと距離を詰められて、少し油断があったかもしれない。ルークの攻撃手段は、腕だけじゃなかった。
無人機を吐き出した格納庫のハッチ付近へと近づいた時、そこに仕込まれていた大口径粒子砲に撃たれてしまう。
航行船としては互いに至近距離、シールドの内側なので装甲を直撃されて船体が揺れる。
そこへ無人機からのレールガンまで撃ち込まれ、更に被弾。戦闘機よりは丈夫なものの、航行船としては薄めの装甲であるシュネーはそれなりのダメージを受けてしまった。
「ええい、くそっ」
反撃としてショットガンを放つが、ルークの航行船には有効打とはならなかった。さらなる反撃の大口径粒子砲が撃ち込まれ、装甲を掠めていく。
長居はできそうにない。
「シーナ、マーキングできたか」
『オッケーです、マスター』
「炸裂型で格納庫の中を爆破だ。俺が無人機を撃破して、新しいのが出てきたとこに撃ち込め」
『了解!』
バリスタの矢が迎撃されないように、俺はルークの気を引くために格納庫の正面から回り込みつつ横へとスライド。
ショットガンを放ちながら傘の柄を腕の付け根の方へと進んでいく。
「やっぱ、側面にも攻撃を備えてるよなっ」
レイドの旗艦が備えていたパルス式のレーザーが連続して撃ち込まれる。つくづくシュネーで良かった。ハミングバードの紙装甲だと、蜂の巣になっていたかもしれない。
というか、フウカはこれ避けながら撃ち続けてるのか?
その様子を見てみたいと思いつつも、自分のやるべきことをしっかりとやらないとな。
蜃気楼ドローンを射出して無人機の意識を分散させ、その間に一気に距離を詰めて散弾を発射。撃墜には至らなかったが、動きが乱れた所に体当たりをかまして撃破する。
「シーナ、撃破したっ」
『狙います……発射っ』
俺は更にルークの意識をこっちに向けさせるべく、至近距離から大口径粒子砲を側面へと叩き込む。やはり重装甲らしいルークの航行船、すぐに貫ける気はしない。
しかし、無人機発進のために開いた開口部はどうかな。
フウカとBJ、おまけに俺の攻撃と意識が分散する中、戦場から少し離れた場所にいるコンドルからのバリスタ。
実体弾は、攻撃で破壊する事が可能だが、それを認識していればの話。そのための状況をしっかりと整えておいた。
『Damn!』
ルークがそれに気付いた時には、格納庫へと矢は飛び込む。おまけで出撃しようとしていた無人機も貫き、一瞬の間があって爆発。格納庫の入り口から爆風が吹き出していた。
ルークの判断は早く、傘の柄の部分にあたる格納庫を分離。被害が航行船本体には及ばないように対処されてしまった。
『しかし、腕の操作がお留守になってたなっ』
船内を攻撃される事態にルークの意識がそちらへと集中すると、触腕の動きがAI任せになっていたのだろう。単調になった動きを見て、BJが続けざまに2本の腕を切り落としていた。
『仕留める』
ここぞとばかりにフウカが本体へと猛攻を仕掛ける。短距離ミサイルを連続的に発射して、歪んでいた装甲の一部を吹き飛ばす。
難攻不落に思えたルークの航行船も年貢の納め時をむかえたようだ。
剥げた装甲部分を中心に攻撃を受け、内部での破壊が進んでいっているのだろう、本体の装甲が内側から次々に弾け飛ぶ。
大口径粒子砲を持つ腕も攻撃が止まり、内部の爆発の影響か無秩序にうごめくだけになっていた。
その様子に勝利を確信した隙をルークは狙っていたようだ。唐突に次元震が周囲の宙域に発生し始めていた。
「なんだ!?」
ルークの航行船のシールド範囲くらいが、次元航行状態に突入。しかし、普通の次元航行への移行ではなさそうな雰囲気を感じる。なんと言うか、捻じれの様なものが……。
「まずい、逃げないと」
『あー、やられたな、これは』
シールド圏外へと加速した俺だが、BJの諦めた声を最後に視界が白く染められていった。
「ここは……」
Foxtrotの惑星に作ってある基地にいた。
つまりシュネーヴィントも撃沈させられたって事だな……俺、航行船保有者に向いてないんだろうか。
この短期間に4隻も沈められてる。
『マスター、戻りました?』
「ああ、シーナだけ生き残った感じか」
『そうですね。ルークの航行船を中心に、次元断層が発生して周囲もろとも自爆した感じでした』
「なるほど……」
倒されるとなれば周囲を巻き込み自爆とか質が悪い。まさに災厄だな……相手をした時点で詰んでるじゃないか。
離れた所から狙撃したシーナのコンドルだけが戦場に残った形だ。再度向かおうにも航行船もなく、戦闘機も全て全損状態。
基地にファルコンやマンタは残っているが、シーナの遠隔制御ユニットが積まれているので、人が乗ることはできないのだ。
「とりあえずレイドの旗艦は押さえられそう?」
『はい、レイド自体が終わる時まで私がいれば大丈夫かと』
「シュネーがなくなった今、その旗艦が俺の持つ唯一の航行船になるから修理して使えるようにするか」
戦闘機は全損しても修復可能だが、航行船は新たに建造しなければならない。元々システム外で組み上げた移動型ステーションなので、リペアシステムの対象外なのだろう。
『ハニー、こっちは基地に戻されてしまったよ。もう出撃できそうな機体がない』
「こっちもそうだよ。もうレイドは諦めだ」
『ま、私としてはハニーと共闘できたし、災厄も倒せたから目的は達してるけどね』
「まぁ、助かったよ。ありがとう」
『おおっハニーが遂にデレ期に!』
「いや、純粋に感謝はするが、それとコレとは別問題だ」
『またまた〜』
フウカの方はまだレイド内にいるようだ。Foods連合に所属してる形だから向こうの船に復帰したんだろう。
何にせよ、俺としてはできる事はない。
色々と濃厚なレイドになったから、情報を整理しないとな。
『ハニー? おーい』