173
ネックになるのは重力場の生成方法と次元航行システムの連続使用だ。
重力場については、アリジゴクがヒントになるのかどうか。あれも結局どうやって重力場を形成していたかは解析されていない。
重力袋とか謎器官を体内に持ってたりするんかね。アリジゴクを部位破壊狙いで倒してもアゴくらいしか手に入らなかったし、それで重力場は作れていない。
何か根本的な部分が足りてないのであろう。
もう一つの次元航行システムの連続使用も、何とかチャージタイムを短縮できないかと検討してみたが、シーナへの説明時点で当たりなしだった。
開発用工作機械でトライしてみたらできたんだろうか……それとも、例の強化前に開発が終わっていたとか?
次元航行システムが解禁されてすぐに、反物質による直接攻撃が起こった訳で、その間に他の次元干渉技術が生み出されていた……でも、俺が作っていた物もほとんど使えなくなっているので、何かしらを開発していたとしても、使えなくなっている可能性が高い。
となれば修正後の規制の中でも運用可能な何かをルークは作ったという事だろう。
「何かヒントがあればなぁ」
視線はメインディスプレイに表示されているBJとルークの戦いだ。
BJの乗る鳥型戦闘機は、翼を広げた猛禽類を思わせるシルエット。長く伸びた尾の部分は、リンダが操作していた追加ブースターの役割を果たす中型機が3機ついている。
あれを切り離すと鳥型本体はかなり失速するが、広域にジャマーを展開できる。
そして鳥型を固定砲台として利用しつつ、腰の辺りにくっついている小型機での戦闘も可能だった。リング状のレーザーは見た目の派手さに比べると威力はイマイチだろうから、見せ技的なものだろうけど。
対するルークの機体は大型の黒い機体。主翼が4枚あって正面から見るとシルエットはX字に見える。まあ、ネーミング的に狙っての事だろう。
翼を閉じると加速性能、開くと旋回性能が上がるようだ。
BJがあまり機動性が高くないのに対して、ルークは周囲を回りながら的確に当てている。ただBJの鳥はシールドが厚いので、致命的な結果には程遠い。
逆にBJからの攻撃は要塞砲2門による攻撃だ。それも光る剣を振るうような薙ぎ払いの一撃。尾に付いた追加ブースターが回転し、垂直方向へと力を加える事で、旋回速度を一気に上げてぶん回す。
反応の遅れた韓国チームも何機か撃破されていた。
肝心のルークは重力場を生み出して、要塞砲の軌道を捻じ曲げることで回避している。本当に反則くさいな重力場。
しかし、動きはできないが縦横無尽に攻撃を振るうBJもまた脅威だ。当然のようにこっちまで薙払ってくるからなっ。
『何、ハニーなら問題なく避けられるだろう?』
無駄な信頼の証らしい。
というか俺に重力場の謎を解かせるつもりじゃないのかよ。
『少し運動したほうが頭の回転は良くなるさ』
などと攻撃の手を弛めない。というか、こっちへの攻撃の方が多くないか!?
シュネーの機動力で何とか回避しながら、ルークの発生させる重力場を観察。同時に生み出せるのは4〜5個。新たに生み出す時には、前にあったものが消えている。
そのラグはあまりなく、消えたら即、次の重力場が出てくる感じだ。
『Okay. Jap prate king. Die you now!』
ルークは何か言いながら攻撃を行った。それは自機の正面からBJに向かって連続して重力場を生成するというものだった。ただ重力場自体はBJに届いていない。不発か?
そう思った時、BJは重力場に向けて要塞砲を放つ。その途中で何かに当たったエフェクトが表示される。しかし、その直後、BJの鳥の方でも被弾エフェクトが跳ねた。
『くっ、やっぱり重い機体は駄目だな』
爆沈する鳥型戦闘機から卵型戦闘機が分離し、尾に付いていたブースターもバラバラと離れる。
「何だ?」
『超質量弾だ。それを重力場で加速して撃ち出してきた』
以前、フウカとの一戦で見せられたレールガンの弾をばら撒いて、遠距離から攻撃する手法。あの時は自機の速度を利用して撃ちだしていたが、ルークの場合は、重力場で加速させる事ができる。
この攻撃のメリットは、派手な発射エフェクトはなく、動体センサーが反応するまで気づかれにくい点だ。
特に弾となるような大きさではかなり近づかないと分からない。
しかし、BJはフウカにその戦術を教えた師であり、何度も対人戦を繰り返してきた猛者でもある。即座に反応して要塞砲で薙ぎ払って見せた。
ただその弾が超質量弾、多次元構造体でできた弾だった。要塞砲の一撃にも耐える装甲並の強度を持つ弾は、普通のレールガンで撃ち出そうとしてもその重さ故に速度を出せず、威力がない攻撃になってしまう。
それをルークは重力場を使って、相手に向かって落下させる事で加速させてぶつけた。重い物が速度を持ってぶつかれば、威力は跳ね上がる。航行船並のシールドや装甲を持つBJの鳥だったが、なすすべもなく粉砕される結果となった。
もちろん、鳥自体も重たく、機敏に動けなかったのも要因ではあるが。
「重力場を使ったレールガンか」
『厄介なのは撃ち出した後でも曲がる事だ』
鈍重な機体でも全く避けようとしなかった訳ではないが、重力場の並べる位置でその弾道は曲がって来る。もちろんハミングバードやシュネーであれば避けられるとは思うが、元より見えにくい攻撃。それが自由な軌道で向かってくるというのは、厄介極まりない。
「やっぱり、重力場は反則じゃないか。修正はよ」
とはいえアリジゴクが使っている攻撃でもあるし、それを禁止するというのは運営として難しいのかもしれない。
敵が使うのにユーザーには許さないというのは不条理に受け取られ易い。
まあ今のところ、ルーク以外に使ってる人がいるかは知らないが。
救いは戦闘機や航行船がいる座標には出現することがない点か。次元航行システム同士の干渉からか、あくまでも周辺にしか重力場は出現しない。
更には次元震も確認できるので、どこに出るかも少し前に分かるので、自分から突っ込んでいく様な事にはならないだろう。
以前のように高速飛行してる時に目の前に並べられたら分からないが。
「だから次元航行システムは関係してるとは思うんだよな。それだけに連続使用できるのが訳わからん」
『オパ2の機動力なら質量弾を避けるのは簡単だが、打撃力が足りないな』
卵に羽が生えたような戦闘機はオパ2と言うのか。レトロゲーも好きそうだな。リング状の粒子砲を放っていくが、ルークは軽く避けている。
広がる輪は当たり判定も大きそうだが、粒子を留めておける距離が短いらしく、普通の粒子砲よりも早く無力化してしまう。
ルークも海賊として対人戦の猛者だろうから、射程を見切るのもすぐだったようだ。
リンダの操るブースターは攻撃力がないんだろうか。少し離れた所で待機していた。
『という事で早く倒してくれたまえ』
「お前に任せるつもりだったのに役立たずだな」
『ハニーを立てる事を弁えているだけさ』
けなしても堪えた風には見えないBJ。勝てないと言いつつ牽制を続けているのは評価できるが、打つ手がないとどうしようもないぞ。
いやあるにはあるか……次元航行システムを利用してるって事は、次元断層剣とは干渉しあって重力場を生み出せない状況は作れるかもしれない。
ただ射程が100mしかないので、かなり接近しないと使えないし、一度使ってしまったらクールタイムが必要な点。外さない状況を作らないと使えないが、そのためには近づく必要がある。しかし、ルークの乗る戦闘機は十分な機動力をもっているので、ハミングバードでも近づくのは難しそうだ。
単に距離を詰めるだけじゃ、攻撃してくださいと言うようなもんだからな。相手の攻撃を避けつつ距離を詰めるなんてのはトッププレイヤー相手にできるもんじゃない。
もちろん近づくような微妙な操作を行うには、重力場が最大の障害になる。ガス惑星の乱気流並にあっちこっちに引っ張られたら、真っ直ぐ飛ばすだけで神経をすり減らす。
重力場の仕組みを解明するか、至近距離まで接近するか。ルークを倒すには何らかのとっかかりが必要だ。