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伏せ犬戦艦の周囲を回りながら、距離を詰めていく。アンコウの岩塊を飛ばしてくるのに比べると、レーザーな分、弾速が速いため回避に余裕がない。
更には側面、背面にも対空銃座は十分に配置されていて、回り込んだとしてもあまり弾幕が薄くなったりしなかった。まあ、船を守るための攻撃なんで、「弾幕薄いぞ、なにやってんの!」とはならない訳だ。
ただシーナの操縦でも回避できる程度なので、単調ではある。
近づこうと思ったら対空銃座を減らしたいところだが、遠距離で撃ち合ってもジリ貧になるのはこっち。バリスタを当てられれば形勢は動くだろうが、当たらないだろうし、当たる軌道に入ったとしても対空レーザーで撃ち落とされるだろう。
命中させるには近づくしかない。
ただこれ以上は大型戦闘機には苦しいだろう。
「シーナは、敵艦を周回しながら援護体勢。俺が突っ込んで隙を作る」
『了解です、マスター。五分運を』
「え、ここにもゴブでるの?」
俺の呟きに返答を返さないシーナを置いて、コンドルから分離。戦艦に向けて加速を開始する。弾幕が厚いので、螺旋を描く接近はやめて鋭角に、短時間での接近を狙う。
蜃気楼システムで残像を残しながら、対空レーザーの隙間へと入っていく。かなり経験を積んだハミングバードの機動性能は染み付いていた。
弾幕の僅かな隙間を通れるかどうかを認識し、たまにシールドのみ削られそうな時は、シールドをオフにして、機体だけですり抜ける。
ガス惑星でのタイムアタックで突き詰めた紙一重の回避が役に立つ。
そのまま敵艦へとたどり着くかと思われた時、横方向から大口径粒子砲に狙われた。
「なんだ!?」
『さっき逃げた1機の様です。新たな武器をマウントしています』
シーナから送られてきた情報を確認すると、確かにさっきのスカイブルーの機体が、羽の上に新たな粒子砲2門を載っけて帰って来ていた。
「こんな対空レーザーの中でやり合う気かよ」
『そのようです。一直線にそっちへ向かってます』
「イカスミを使うか……」
対空レーザーは光線兵器なので、視界を遮るイカスミで大幅に減衰できる。敵艦へ接近するための最後の詰めで使う予定だったが、大型戦闘機とやり合うとなると、対空レーザーは潰しておかないと致命傷を受けかねない。
煙幕を張るように四方へとイカスミポッドを射出。視界が黒一色に染められる。ダクロン産のタコスミではないので、レーダーは生きているのでそれを頼りに相手の位置を特定。戦闘へと突入した。
スカイブルーの大型機は、2門の大型粒子砲を追加装備し、更にはブースターユニットも追加していたようで、加速性能が一回り速くなっていた。
その分、小回りは効かないようだが、厄介なのは確かだ。
「コバンザメを思い出すっと」
『ショットガンです!』
「んなっ」
短距離用拡散型レールガンで弾をばらまくスカイブルー。小さな弾なので、まとめて食らわなければ致命的にはならないだろう……ハミングバード以外なら。
ただでさえ装甲の薄いハミングバードを、更に軽量化している俺の機体は、散弾の一発でもかなり危険だ。大きく回避せざるを得ない。
「さっき、高速振動剣で撃破したのを学習したのかよ」
こっちが接近して攻撃するということを学んだのか、こちらが近づこうとするのを阻害する攻撃を行って来る。
レーダーは殺していないので狙いは正確。その分、回避が必要な範囲も分かるわけだが。これが四方八方にばら撒かれるとかえってヤバかった。
ショットガンを放った直後に肉薄し、すれ違いざまに高速振動剣で切りつける。すると相手も刺突槍で受け止めてきた。
「更にこれかよ。視界を閉ざされた中で切り合うとか、SFじゃねー」
『それは多分にマスターのせいだと思いますよ』
シューティングゲームで近接武器を使ってきたために、ある程度対策されたって事かね。イカスミの中、レーダーを頼りに切結ぶ。相手も槍を突き出し、こちらの撃破を狙ってきた。
「槍と言うなら、懐に飛び込むしかないかっ」
穂先を切るにも火力が足りないようだ。ならば突き出された槍をかいくぐり、懐へと飛び込んで切り裂くまで。
そう思って槍をかわして接近すると、相手は体当たりを仕掛けてきた。フルアーマー状態の敵機はこちらの3倍ほどある。モロに食らったらヤバかった。レーダーで向こうから近づいてきたのを見て、慌てて横にスライドして難を逃れる。
「しかし、接近戦に慣れすぎてないか?」
『別にマスターとBJの殺陣に開発陣が熱狂して、接近戦プログラムを実装したとかじゃないですよ』
おいおい、なんだそれは。ファンタジーゲームでも作っててくれよ。
でも向こうさんもSFで光る剣で打ち合うのは好きみたいだし、他次元生物は接近戦が基本だから元々あったのかもしれないか。
遠距離では大口径粒子砲、中距離はショットガン。近距離も刺突槍と隙がないぞ、この敵。あとは次元断層剣できっちり仕留めるくらいしか方法がない。
「でもそれもシャクだしなっ」
再び鍔迫り合いを開始。ギシギシと押し合う状況へと持ち込む。
「シーナ、バリスタ」
『了解、当たったらごめんないですよっ』
背後からバリスタの矢が迫る。するとそれを感知したのか、目の前の敵機がスルスルと後退していく。
直前で避けて命中させる目論見が、容易く崩された。エースチームの残り1機とはいえハイスペック過ぎませんかね。
「となれば、一か八かっ」
背後から迫るバリスタの矢にタイミングを合わせて、高速振動剣を叩きつける。強引に軌道をずらして、逃げようとするスカイブルーへと向かわせた。
しかし、敵もさるもの。直撃が避けられないとなると、俺の真似をして刺突槍の柄で叩き落とす。
ただ一連の流れで体勢は崩せた。横腹に飛び込んで、高速振動剣を突き立てる。耐火性能の高い装甲は簡単には突き刺せず時間が掛かる。
スカイブルーも身をよじる様にして切っ先を逸らそうとするが、ハミングバードのスラスターを吹かせて必死に食らいつく。
正直、ここで逃すと残された手段は次元断層剣しかなくなり、こいつでそれを使うと、戦艦を倒すのに仕切り直しが必要となるだろう。
幸いにして機動力ではハミングバードが上。一気に最大加速で逃げられたらどうなったかわからないが、相手は俺を振払おうと蛇行して逃げるのを選んでくれた。
必死に逃げようとする敵機につきまとい、切っ先を装甲へと押し付け続ける。やがて熱が十分に伝わり、切っ先が何とか装甲へと押し込まれていく。
そうなれば内部は高速振動剣の高温には耐えられず、ほどなく機動力が落ち、切っ先がコアまで到達すれば完全に無力化させる事ができた。
「なかなかの難敵だった……シーナ、イカスミの効果時間は?」
『あと30秒ほどです』
「ギリギリまで近づくぞ」
『即座に射撃できる体勢に入ります』
伏せ犬戦艦までまっすぐに、一直線に、最短で向かう。途中でイカスミの効果が切れ、対空レーザーが襲いかかってくる。それをできるだけ避けながら近づけるだけ近づいた。
「シーナ、ここでいい、撃て」
『了解です、マスター。バリスタ発射』
実体弾であるバリスタの矢は、迎撃が可能だ。対空レーザーが何発も当たれば破壊される恐れがある。
なので矢が飛来するまでに、周辺の対空レーザーを引きつけて飛び回った。何発かヒットしたが、さすがのハミングバードの紙装甲でも撃墜される事はなく、やがて矢を感知した対空レーザーが標的を変えるが、撃墜は間に合わない。
矢の内側に炸薬を仕込んだ対艦用バリスタの矢は、着弾と共に周囲を巻き込んで爆発。銃座の一角を削ぎ落とす事に成功した。